92:
「ダロスドライブ正常起動確認、80%の出力を維持します。」
「各種センサーオールグリーン、機体起動準備完了しました。」
「血糖値上昇完了、次のオヤツタイムまで各自我慢可能です。」
「「「いつでも行けます。」」」
「了解、ギガンテス……起動!!!」
現在、超巨大ロボット『ギガンテス』の起動実験中のダロスです。
数時間前に、高さ100mのロボットを作って、自分一人で起動してみようとしましたが、案の定激しい頭痛に苛まれて死にかけたため、ヒルデたちの処理能力を借りて再チャレンジ中です。
やっぱり、デカくなればなるほど加速度的に必要な処理能力が跳ね上がって、頭をダロスされやすくなるようです。
ジョブレベルが上がったからいけるかなって思ったけれど、舐めてましたすみません。
ぼくのかんがえたさいきょうのきんぞくニウムによって作られたその巨体は、実は殆どが張りぼてだ。
アイギス・ドールと同じように魔力糸で稼働させているため、動力パイプやモーター類を収める必要が無いので、武骨な装甲の下はスッカスカ。
装甲だけは頑丈だから、防御面は問題ないはずだけど、構造を理解してしまうと中々心細く感じるかもしれない。
そこまでやって、結局大きすぎて頭がダロスしかけるんだから、大きいロボットってやっぱダメなんかなぁ……。
かっこいいんだけどなぁ……。
モニターに表示される数値がどんどん上昇していく。
どうやら、4人分の脳を使えば問題なくこのギガンテスを運用できるらしい。
死体が4つにならなくてよかったよかった。
恐らく今外から見ていたら、ギガンテスの2つの目が赤く光ったところだろう。
別に光ることに意味は無い。
カッコいいだけ。
お約束だな。
そして腕を胸の前で組みながら仁王立ち。
太鼓でデンドンデンドンデンドンデンドンとBGMを流したいほどの迫力ある画が撮れているはずだ。
1km程離れた所から撮影しているディとフレイに期待。
これテレビで流すかんな!
「「「ギガンテス、起動完了しました。」」」
「了解、では操縦をローラに委譲する。」
「……え!?私……ですかぁ?」
「うん、だってこれローラのために作ったロボットだし。」
「……では、お言葉に甘えて……!」
最初ほんの少しだけ遠慮したローラだったけど、顔は隠しようが無いくらいウッキウキになっている。
俺ももちろん好きではあるけれど、20mくらいのでも問題は無い。
でも、ローラは大きければ大きいほど嬉しいらしいので、俺の領地のシンボル的な存在も兼ねてギガンテスなんて作ってしまったんだ。
せっかく作ったんだから、是非是非有効活用して頂きたい。
5号という無駄の極みみたいな不憫な存在はもう生み出してはいけない。
腕を組むのをやめ、小さく1歩を踏み出すギガンテス。
小さくと言っても、ギガンテス基準で小さいだけで、実際には1歩だけでそこそこの距離進んでいる。
あと、コクピット内だけ慣性制御を働かせているため、乗員は問題ないはずだけど、外の木々の揺れを見る限り1歩あるくだけでかなりの振動が生まれているらしい。
ここが前世の都会だったら、街中を歩くだけで1歩につき数億円の被害が出そうだ。
「凄いですよダロス様!凄い凄い!あはは!凄いです!」
未だかつて見たことが無いほどはしゃぐローラ。
このロボットアニメなんてこの前まで無かった世界で、ロボットは大きければ大きいほどいいと言い放っただけの事はある。
「そろそろ武装のテストもしよう。前方の岩山に向かって、右腕部ロケットパンチ用意!」
「「「了解、右腕部ロケットパンチ用意。」」」
「発射タイミングをローラに委譲する!」
「わかりました。ロケットパンチ、発射!」
唸りを上げて、炎を吹き出しながら飛んでいくギガンテスの右腕部。
因みに、ロケット噴射みたいに見えている部分はフェイクで、実際の推進力はほぼ風の魔道具によって生み出されている。
演出ってやつだ。
凄い速度で飛んで行った右腕は、岩山を吹き飛ばしてからこちらへ戻ってきた。
作っておいてなんだけど、目の当たりにした威力にちょっと引く。
こんなもん殆ど戦略兵器だろ……。
肘までになっている右腕を上に向け、パンチを迎えるギガンテス。
この辺りの動きはオートになっている。
何なら発射以外は全部オートでできる簡単設計だ。
「キャアアアアアア!最高です!」
ローラってこんなキャラだっけか?
もうちょっと落ち着いたお姉さんって感じだったと思ったけど、テンションが上がってしまっているらしい。
もう一つの大型武装もテストしておきたいんだけど、これ使ったら気絶でもしそうな勢いだな。
「ギガンテスキャノン発射用意、目標先ほどの隣の岩山!角度は少しだけ上向きで!」
「「「了解、ギガンテスキャノン発射用意。」」」
「発射タイミングをローラに委じょ」
「ギガンテスキャノン、発射!」
食い気味で放たれる太さ数十メートルの閃光。
途中の木々を全て焼き払い、その後岩山を消し飛ばしながら空へと消えて行った。
うん、これは完全に戦略兵器だな。
強すぎて逆に使いどころ無さそうだ……。
「……あとは、おねがいします……。」
「え?ローラどうした!?」
鼻血を出して気絶するローラ。
刺激が強すぎたらしい。
この娘、巨大ロボットに関しては俺よりマニアなんじゃ……?
今回のギガンテス起動実験は、もちろんギガンテス自体を動かしてみるのが目的ではあったんだけど、超火力の攻撃によって、無理やり森を切り開くというおまけの仕事も行っていた。
軍事基地といえば、やっぱり滑走路が無いとなって思ったから作ることにしただけなんだけども。
そもそも今の所滑走路使う飛行機も作ってないから、無いなら無いで構わないんだけど、せっかく作るんだからそれらしいものにしたい。
無人偵察機とか作っちゃおうかな?
とりあえず、ギガンテスはちゃんと戦力にはなりそうだ。
ただ、コイツを動かすには、現状俺とヒルデたち3人が確実に必要なので、他の機体が動かせなくなってしまうんだけど。
サポートが無ければニルファですらアイギス・ドールを満足に動かせないし、大抵の場合はアイギス3機運用をしている方が、ギガンテス1機動かすよりも効率的だろう。
というわけで、ギガンテスは今後我が領地のシンボルとしての仕事がメインになるだろう。
一応各種自動砲門がいくつもついてるから、そこにいるだけで守りを厚くしてくれるし。
ギガンテスを本気で運用するとしたら、単機で国落としでもしなくちゃいけなくなった時とか、巨大隕石や怪獣を破壊する必要に迫られた時くらいだろうなぁ……。
まあ、たまにはローラのために付き合って動かしてやってもいいけどもな。
とりあえず今日の所は実験成功と言う事で良しとする。
ギガンテスを邪魔にならない所まで動かしてから、腕組み仁王立ちポーズで固定。
機体内エレベーターで脚元まで降りると、遠隔操作で持ってきたハコフグに乗り込んだ。
「テスト上手く行った?……って、ローラさんどうしたの!?」
「いや、なんかあまりにギガンテスの操縦が気持ちよかったらしくて気絶した。」
「えぇ……?」
「幸せそうな顔してますねぇ……。」
迎えてくれた勇者と聖女が呆れている。
今までこのメンバーの中で一番信頼できそうな雰囲気だったローラの意外な一面を見てしまった2人は、これからローラとどう付き合っていくのだろう?
案外破天荒だぞこの娘。
文句言いながら同乗してきたルシファーに少しだけ空からギガンテスを撮影してもらってから、ディとフレイと合流してベースキャンプまで帰る。
まだカッコいい基地が出来ていないため、今日はキャンピングハコフグ暮らしだ。
明日と明後日である程度形にできたら嬉しいなぁ。
「お帰りなさいませ!食材とってきましたわ!」
ベースキャンプに戻ると、ニルファが2m程の大きいサケかマスみたいな魚を何匹も捕って来ていた。
ヒルデがいなくてアイギス使えないのによくやったなって思ったけど、そういやコイツドラゴンだった。
もう少し成長すればギガンテスとステゴロできるかもしれない怪獣だったわ。
今度、怪獣映画みたいなドラマでも撮影協力頼んでみるか?
全編3DCG無しを売りにして……ってその凄さこの世界の人にはわからないんだよな……。
マルタに鑑定してもらった所、毒も無くとても美味しい魚とのことで、今日はホイル焼きにする。
鮭みたいな魚はやけにデカくて捌くのが中々大変だったけど、アダマンタイト製包丁のとてつもない切れ味のおかげで何とかスムーズに処理できた。
盾に使えそうなほどの硬いウロコが少し気になる。
魔物ではないらしいけれど、前世で言えばペットショップとかで売られてた小さいミドリガメの甲羅くらいのサイズのウロコは中々の迫力だ。
テレビショッピングの包丁みたいに、出刃包丁でもないのに骨までスパスパキレちまったぜ!
ニルファや人形の皆に使わせたらまな板まで斬れそう……。
ホイルの包みの中に切ったサケみたいな魚と、タマネギやピーマン等の野菜、そしてバターと味塩コショウとマヨネーズをかけてから閉じる。
それをいくつもいくつも作って、最後に炭火にかけてしまう。
あとは火が通るのを待つだけだ。
キノコもあればよかったけど、アレ保存がきかないからなぁ……。
……今度自作するか……?
菌床栽培なら鑑定持ちに頼めば行ける……かな?
楽しみになってきた!
シイタケの炭火焼とか食いてーなー!
しょうゆがあればいいけどなぁー!
「ん?」
「なんだ貴様、変な顔をしているぞ?」
「え、酷い。」
偵察に出してたドローンタルタロスから緊急信号が届いた。
普段は完全に自立して動いてるんだけど、未登録の人間や知的生命体が居た場合はこっちに連絡が来るように設定してあった機体だ。
人形操作でそのドローンタルタロスのカメラ映像を頭に流す。
すると、元々はそこそこ豪華であっただろうに、ボロボロになった状態の服を着ながら、顔が涙と鼻水と汚れでグズグズになってる9歳くらいの女の子が写っていた。
しかも1人で。
ここ……ミュルクの森って言うヤベー場所なんですけど……?
よくわからないけど、ほっとくわけにもいかない。
とりあえず、タルタロスのスピーカーから俺の声を出せるようにして、話しかけてみることにした。
『あー、あー、聞こえてるよね?ここはピュグマリオン男爵領だ。そしてこのロボット……ゴーレムは、ピュグマリオン男爵である俺が今操作してる。キミが何者か教えてほしい。』
彼女からしたらよくわからないデカい物から人間の声がしたため、最初はかなりびっくりしていたみたいだけれど、少ししてから覚悟を決めたように話し始めた。
「わわわたしは!」
『焦らなくていいぞ。落ち着いて話してくれればいい。』
「は……はい、私は、真聖ゼウス教皇国第1皇女、ティティア・アストレアと申します!」
『…………そっか。少し待ってね?』
「え?はい……。」
心を落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫だ。
俺は正常なハズ。
あっちが非常識なだけの筈だ。
俺は、一回ドローンタルタロスの操作をやめて、後ろで俺が何をしているのか見ていたセリカとマルタに質問してみることにした。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、真聖ゼウス教皇国では、高貴な身分の女の子は、魔物の領域を生身で走破しないといけない掟とかあるの?」
「は?あるわけないでしょ?何そのヤバイ国。」
「そんなの絶対嫌ですねぇ……。この前やりましたけど……。」
「だよな!?」
やっぱり俺の常識は間違ってなかった。
「なんかさ、森の中に真聖ゼウス教皇国の皇女様が1人で来てるんだけど。」
「そんな事あるわけないでしょ?頭おかしくなったの?」
正常なはずだ。
ただちょっと自信なくなってきた。




