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現地調査2日目。
今日は、昨日セリカとマルタの位階を上げることができたため、本格的に調査と開拓を始めていく。
そもそも、なぜこの2人を連れて来たかと言うと、セリカに関しては、同郷の誼でレベルを上げておけば安全だろうというのと、マルタの護衛役として適任だからだ。
そしてマルタだけど、彼女は聖女だ。
この世界の聖女には大切な役割があるらしく、魔物の領域となった地域を開拓した後に、浄化をすることで人間の領域へとすることができるらしい。
浄化されない魔物の領域は、例え焼き払っても数日もあればまた元の魔物蠢く場所に戻ってしまうんだとか。
魔物の領域は魔素が濃いため、普通の生物が魔物になりやすく、既に魔物になっている場合はさらに強くなる。
植物も影響をうけるらしく、魔力過多で枯れない限りは生育速度が飛躍的に上がるらしい。
ニルファが作ったクレーター周辺も、既に緑に覆われていた。
クレーター内部だけは、いつの間にか水が溜まったようで、大きめの池が出来上がっていた。
この分だと、その内湖と呼べるような大きさになりそうだ。
聖女のジョブ持ちじゃなくても、聖女に任命されれば浄化の力は貰えるらしいけれど、聖女ジョブもちはその能力が桁違いなんだとか。
しかも、浄化できる範囲は位階に依存していて、位階が上がれば上がるほど広範囲を浄化できる。
まあ、神聖女になったイリアがいればもっと楽なんだろうけれど、妊婦をこんな所に連れてくるわけにもいかないし。
もっとも、最近ではどこの魔物の領域もあまり開拓されてないらしいけど。
あまりにも僻地すぎたり、魔物が強すぎて被害が大きくなると予想される場所くらいしか残ってないんだとか。
その開拓されない地域の一つがこのミュルクの森だったわけで……。
「すっごい……屋久杉みたいな木がいっぱいだなぁ……。」
「知ってるか?屋久杉ってあれ種類としては普通の杉らしいぞ?」
「え?マジで?」
「マジマジ。」
ロボットに乗ってる時だとそこまで気にならないけれど、降りてから改めて見まわしてみると、あまりに大きな木がありすぎて、自分が小人にでもなったような錯覚を受ける。
きっと何百年どころか、何千年とここで生育してきたんだろう。
だが、貴様らの命運もここまでだ!
『危ないのでちょっと下がっててくださいね?』
ローラがアイギス越しに注意を促してくる。
その後、でっかい電ノコを持ったドローンタルタロスが前に出た。
高速で動くミスリルの刃がチュインチュインと耳障りな駆動音を放ちながら、生肉をスライスするかのような軽快さで大木を切断する。
倒れた木の枝まで掃うと、すぐに次の木へと向かうようだ。
切り倒した木の処理は俺の担当だ。
木材運搬用のタルタロスを新たに1台作り、伐採した木を乾燥させるために一か所に纏めて運ぶ。
ロボットアームが付いていて、単機で積み込みから積み下ろしまで可能だ。
木があまりにもデカいため、油断すると持ち上げる時に転倒するけれど、まあ全体的にぼくのかんがえたさいきょうの金属製な上に、無人で動かしているから大して問題は無い。
因みに、ニルファは自分のアイギス1機のみで1度にこのデカい丸太を2本運んでいて迫力がある。
誰よりも食べるドラゴンではあるけれど、一人当たりの作業効率も一番上なんだよなぁ。
常識外の能力を持っているせいで、好きにさせるととんでもないことになりかねない諸刃の剣だけども。
そうこうしているうちに、周辺調査に向かわせた面々も戻ってきた。
今日調査に向かわせたのは3人。
地上担当のディとフレイに、空中担当のルシファーだ。
まずルシファーに航空画像を撮影してもらい、地形図や植生などのマップを作製。
それを基にして、ディとフレイに実際に地上から気になる所を確認してもらっている。
正直な話、この森の中を地図も作らずに歩き回っても碌な事にならないと思う。
聞いてるかそこの聖女と勇者。
「ダロス、何か所か勇者用の武器の反応があったぞ。」
「……なになに?なんでそんなもんがこんな森の中に?」
「我も詳しい事はわからんが、ここが昔他の神の支配領域だった時に、次世代の勇者のために武器を保管しておいたのではないか?ディオーネー様の支配領域になってからは、まったく手を付けられてないのだろうが。」
ルシファー曰く、勇者というシステムに関して神様たちの中でも肯定派と否定派がいるらしく、超少数派だけど声が大きい肯定派と、積極的では無いにしろ好ましく思っていないけれど、そもそもあまり興味が無かったりで力もない否定派という構図になっているらしく、ディオーネーがトップを張る神聖オリュンポス王国内では、勇者に関する優遇措置はあまり行われていないそうだ。
なので、ここら辺に勇者の武器が保存されているとしたら、真聖ゼウス教皇国がミュルクの森一帯を神聖オリュンポス王国に押し付けるよりも前から残っていることになるらしい。
それが何時かはわからんけれど。
「セリカ、勇者用の装備が隠されてるらしいんだけど、見に行くか?」
「ホント!?行く!絶対行く!」
ファンタジーに強い憧れを持つ乙女にとって、とても魅力的だったらしい。
ディとフレイに先導されて、反応があったという場所までくると、そこにはやけに清潔に保たれている白い石造りの台座があった。
台座の中央には、これぞ聖剣って感じの剣が突き刺さっている。
これが抜けたら勇者ですってテスト用っぽいけど、何もこんな森の中に作らんでもなぁ。
「じゃあ、ジャンケンで勝った人から勇者チャレンジ行ってみようか。」
「主様、勇者チャレンジとはなんですか?」
「主様、勇者に私たちが挑んだら数秒でひき肉にしちゃいますよ?」
「違う違う。あの剣は多分勇者しか抜けない仕組みになってると思うから、自分が勇者かどうか確かめてみようぜってだけ。」
「いや、ここに勇者いるんだけど?」
「お前は最後だ。つまんないだろうが。」
「えぇ……?」
セリカはちょっと不満顔だ。
でも、やっぱりこの剣が突き刺さってるのを見ちゃうと引き抜きたくなるじゃん?
そして、厳正なる審査の結果、勝ち残ったのはマルタでした。
「じゃあ私から行きますね!えいっ!」
可愛い掛け声とともに、剣を引き抜く聖女。
うん、一発で抜けた。
「……貴様、これはどうするのだ?」
「勇者じゃないと抜けないと思ってたけど、そんな事は無かったか……?」
「私の聖剣が……。いや、どう考えてもダロスに作ってもらったやつの方が強そうなんだけどもさ……。」
「案外私も勇者だったのでは?」
困惑顔の魔王と勇者と俺。
ドヤ顔で勇ましく、聖剣(仮)を掲げる聖女。
興味を失ったらしく、勝手にオヤツタイムにしているディとフレイ。
仕方ないので、話し合いの結果この剣はマルタの物にすることに決まった。
誰が何を考えてこんな森の中に安置したのか知らないけれど、鞘すら用意されていなかったために俺が追加で作った。
聖剣を貰った聖女は、非常にご機嫌だ。
「私でも剣を持てるんですねぇ。なんだか強くなった気がします。」
「重くないか?無理すると体壊すぞ?」
「ご心配なく。既に昨日弓矢をたくさん使った影響で体中筋肉痛ですので、今更剣の1本2本装備した所で関係ありませんよ。」
マルタはそう言うと、何食わぬ顔をしながら、ハコフグ内のベットに倒れ込んだ。
金属の塊を持つのは限界だったらしい。
「アンタさ、なんでそんな変な意地張るの?」
「……だって悔しいじゃないですか。ここには私より弱い女の子が1人もいないんですよ?このままだと私、傍から見たらただの病弱系美少女ヒロインですよ?」
「確かにアンタは美人だと思うけど、すごい自信ね……。」
「私の肖像画がいっぱい売れてたそうですからねぇ。その恩恵はまったく私にありませんでしたが……。」
聖女様、よっぽど聖教に不満があったらしい。
このまま放っておくと、聖教本部の神殿は、大昔の聖剣で滅ぼされることになるかもしれない。
そんな事を考えながら、ベースキャンプへと帰還する我々。
戻ると、デカい鳥みたいな魔物の死体が置かれている。
ニルファがキラキラした目でこちらを見ているので、今夜のメニューは恐らく鳥料理です。
「あ、この鳥を捌くならこの聖剣なんて丁度良くないですか?聖女が許可します。」
「いらないなら勇者に返してよ!」




