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「私たち、よくこんな所突っ切ろうとしたよね……。」
「ホントですねぇ……。」
「貴様らは、もう少し慎重さをもって生きねばならんぞ?」
今日のキャンプ地から、何かが蠢くミュルクの森を眺め、しみじみと呟く勇者と聖女コンビ。
それに魔王がツッコんでるけど、お前はお前でプッツンして神相手にケンカ売ってボコボコにされた過去あるよな?
良く生きてたなお前ら。
セリカとマルタを途中でピックアップし、ミュルクの森までやってきた俺たちダロス一行。
最初は、勇者にビビって挙動不審になっていたルシファーだけど、ライブ中継について褒められたり、勇者も異世界から無理やり召喚された被害者だと聞くと泣いたりして、いつの間にかある程度意気投合したらしい。
ぶっちゃけエギルギアつけてる上に、仮にエギルギア無しでもルシファー自身の体に俺の人形強化が入ってるから、勇者にビビる必要なんて全くないはずなんだけども……。
まあ、仲良きことは良いことだ。
「主様主様!私たちは好きにしていいんだよね!?」
「主様主様!お弁当食べたので遊んできていいですか!?」
「暗くなる前にここに戻るんだぞー?」
「「はーい!」」
スルトとフェンリルに乗り込み走り去るフレイとディ。
最近同じ森ばかりでマンネリとのことで、たまには違う森に連れて行ってやろうと思ってたんだけど、予想以上に楽しみにしていたらしい。
森は森だけれど、それでもいつもと違う場所なら構わないようだ。
「私も行ってきますわね!」
「お前はダメだ。好きにさせたらクレーター増えるだろ?」
「クレーターを作ったらダメなんですの!?」
「ダメだよ!?」
「ニルファちゃんは、こっちで私と一緒にお茶を飲みましょう?」
非常にがっかりしている様子のニルファをローラに任せる。
因みにヒルデたちは、既にお茶を飲みながらお菓子をむさぼっている。
可哀想にも思うけれど、本気のコイツが作るクレーターは、隕石によってできたとしたら地球の平均気温が数か月の間数度下がりそうな規模なんだもん……。
流石に恐竜絶滅まではいかない。
そのクラスだと、大きすぎてクレーターだとすらわからないサイズらしい。
なんか山脈あるなーってヘリコプターで地形を調べたら、そこでやっとクレーターだったってわかる程度の大きさ。
何はともあれ、これが今日の俺のイカレた仲間たちだ!
「確認するぞ。今日のセリカとマルタのやることは何だ?」
「レベル上げでしょ?あ、位階だっけ?」
「位階が上がると扱いづらいからと、上げさせてもらえませんでしたからねぇ……。」
「そんなくだらない理由だったの?やっぱ攻め込んで滅ぼそうかな聖教会。」
「そのためにも位階上げですね!」
アグレッシブに根切りを計画する美少女2人。
その光景にゾクゾクするけど、短気は損気だぞ?
神様はともかく、そこらの信者は半殺し程度にしておこう?
とりあえず、今日のこの2人の目標は、2人だけで森の中をお散歩できるくらいにレベルを上げる事だ。
俺が決めた。
まあ、位階って言うのがどの程度のスピードで上がるのかよくわからないから適当なんだけれども。
俺の場合、眷属扱いのナナセ達がモリモリ俺の位階も上げていてくれたらしいから、自分で位階上げというのをしたことないんだよなぁ。
ドラゴン倒した時にはモリっと上がったんだろうか?
無頓着だったからなぁ……。
「じゃあ、ミュルクの森に入る前に装備を用意しよう。2人はどんな武器が使いたい?」
俺はあんまりRPGをそこまでやっていなかったけれど、それ系のゲームが好きな友人曰く、とにかく装備を整えろといは聞いた。
それを聞いていながら、3号だけを伴って森に入った俺には何も言う資格無いかもしれないんだけれども。
「武器って……何でもいいの?なら私はやっぱり剣がいい!勇者といえば聖剣でしょ?この前の奴は気がついたら折れてたしさー!魔力で覆って誤魔化しておくのも限界だったんだよねー!」
「なんか過去一テンション高くない?」
「だって、やっとファンタジー世界を堪能できる感じがしてさぁ!あ、勇者の剣は別に特殊な機能なくていいらしいから、とにかく頑丈で切れ味良いやつで!」
目がキラッキラしている勇者様。
なんだろう……ゲーマーか何かだったのかな?
新しいロボットアニメの1話目を見ている時の俺みたいだ。
「では私は、ダロス様たちが使っているあの大きいゴーレムを……」
「やめて!私のファンタジーを汚さないで!」
「えー?ゴーレムダメですか?では、大きな斧とか使ってみたいですねぇ。」
「いや、アンタそんな重い武器持てなくない?」
「むぅ……仕方ないので、弓矢なんてどうです?」
何がしかたないのかわからなけど、どうやら2人とも決まったようだ。
俺はすぐに神粘土を出し、そのまま武器を生成する。
武器を作るのは好きだ。
ロボットのプラモの場合は、大抵複雑な形の武器となると飛び道具なんだけど、この世界で使う武器となると、近接用の物が多くて作り甲斐がある。
今までで1番造りごたえがあった武器となると、ナナセに作ったハンマーだろうか。
作ったのにすぐ俺が妊娠させてしまったから、まだお披露目すらできずナナセの部屋に置いてあるらしいが……、まあ作るのは楽しかった!
ガラテアにも、愛と美の女神の依り代だし恋のキューピット的弓矢を作ったんだけど、本人のセンスでは無かったらしく、ナイフを2本作らされた。
まあ、そっちも結局ガラテアがすぐ妊娠したから部屋でオブジェになってるらしいけど。
「剣は、聖剣ってオーダーだったから、そう言うイメージで作ったけどこんなんでいい?」
「すごい!これだよ!私のファンタジーはここから始まる!」
「マルタには、前に作って結局使われなかったこの弓でいい?力弱くても使えるやつ。」
「まぁ!まぁまぁまぁ!この赤いハート型の弓は、相手の心臓をぶち壊すという意志表示ですね!?」
「え……?いや違うんだけど……まあいいか……。」
剣を受け取って、即ブンブンと振り回し始めるセリカと、矢も番えてないのにビィンビィンと弦を引っ張るマルタ。
セリカの剣の扱いは、中々堂に入っているから大丈夫だろう。
マルタに渡した弓は、矢に多少ホーミング性能を持たせる機能があるため、初心者でも平気だろう。
方向を変えるのに魔力を使うから、一般人には使いづらいかもしれないけれど、聖女なんてジョブなら多分大丈夫だろう。
魔力込めなければただの普通の弓だから、魔力が減ったら減ったで使えるはずだし。
……普通の弓って使えるのかなぁこの娘に……?
「とりあえず強そうな魔獣をローラたちに捕まえてきてもらうから、取り押さえてるうちに留め刺してくれ。」
「パワーレベリング!?リアルでできるなんて思わなかった!」
「ぱわぁ……?なんでしょう、別世界の言葉なのでしょうか?」
「いや、俺も知らない……。多分、響きからしてネトゲの言葉だと思う。」
「寝トゲ?痛そうですねぇ……。」
魔物の領域でするには些か緊張感に欠ける会話をしながら待っていると、ローラのアイギス率いるロボット軍団が見えてきた。
同時に、ボッコボコにされて引き摺られてるトカゲも見える。
可哀想に……彼はその直後に天に召された。
マルタの鑑定魔法によると、皮膚以外には毒が無いそうなので、今夜のご飯にしよう。
熟成全くされてない肉でも、スパイス効かせればドラゴンと天使たちも満足させられるだろ。
その後も、ローラのロボット軍団が引っ張ってくる魔獣を一方的に屠っていく勇者と聖女。
傍から見ると、勇者と聖女っぽくはないけど。
とにかく、屍がどんどん山になっていく。
食べない分は、あとで燃やしておかないとなぁ……。
それを見ながら、トカゲを捌く俺たち。
「貴様、我に料理をさせるなんていい度胸だな?」
「ルシファーが今一番ヒマだろうよ。料理の手伝いくらいしろ。元魔王だろうが。」
「魔王に料理させたのなんて、この世界の歴史上貴様だけだぞ……?」
急遽参加することになったルシファーには、今の所役割が無い。
ある程度セリカたちの位階上げが終われば、本格的にこの辺りの調査を始めることになるし、そこからは多分飛び回れて小回りが利くルシファーの仕事はいっぱいあるんだけどなぁ。
というわけで、現在エプロン姿でスパイスだらけの肉を揉ませている。
ちょっと強めに効かせた方がよさそうだからと、見た目だけは物凄く辛そうに見える量のスパイスを投入している。
ちょっと茹でて食べてみた感じ、ほんの少しだけ臭みがあるから、その臭み消しにだ。
でも、意外とそこまで辛くないんだよなぁこれ。
この位がちょうどいい……はず。
ついでに塩と酒も入れてあるから、臭みなんてすべて消し飛ばしてやる。
「なぁ、これ本当に大丈夫なのか?我的にはあまり辛いのは……。」
「大丈夫だ。食い物に関しては俺を信じろ。」
「なんなのだ、貴様の食に対するその情熱は……。」
食欲です。
多少水分が抜けたところで、小麦粉をつけてしまう。
大量の油で揚げれば……。
「おかしい、いっぱい揚げたはずのフライドトカゲが既にない。」
「美味しかったですわ!」
「「「モグモグモグモグ!」」」
「主様主様!おかわりをお願いします!」
「主様主様!これ家でも食べたい!」
「すみませんダロス様、とても美味しそうで……。」
家の家族は流石の瞬発力だ。
俺には追いつけないよ。
これが家族ゆえの信頼の証だろうか?
「フライドチキンおいしい……!この世界に来てもう二度と食べられないと思ってた……!」
「モグモグモグ!これはトカゲですよセリカ!」
いや家族かどうかはあんまり関係なさそうだ。
「ダロス、あのでかいトカゲがあっという間に無くなっていくんだが……。我の分は……?」
「シェフとしてまだまだ経験が足りないな。心配しなくても自分たちの分は確保してある。」
またしても魔王に勝ってしまった。
あ、位階上げは適度に進んだそうです。




