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「何故、我を呼んだのだ?」
「美人だから。」
「ふざけているのか?」
ちゃんと本気で呼んだことをちょっと機嫌のいいルシファーに真摯に伝えるダロスです。
彼女の隣には、最近塾で令嬢たち相手にダンスを教えていたディオネもいる。
「僕を呼んだのも同じ理由かな?」
「もちろん。更に言うと、ダンスをしていたっていうのもポイントだった!」
「ふーん……。因みに、僕とルーちゃんならどっちが美人だと思う?」
「ディオーネー様!?」
しばらくあんまり相手をしてなかったから拗ねてる様子のディオネが、飲み会でおばさんたちにされると非常に面倒なタイプの質問をしてくる。
どっちもそれぞれ違う良さがあって好きだよ?
「2人には、アイドルになってもらおうと思う。」
「「アイドル?」」
美女2人がシンクロすると破壊力がすごい。
やはり、女神と天使はアイドルにピッタリだと思う。
よっしゃ!偶像を崇拝すんぞ!
「つまり、ディオネとルシファーに、歌って踊って観客を夢中にさせて、聖教への信仰心を奪おうっていう事!」
「貴様、まさか我に娼婦の真似事をさせようと……?」
「違う!アイドル!アイドルはとても高尚なお仕事!たまにロボットにも乗る!」
「なんだその情熱は!?」
食い気味に否定しておく。
確かに芸能界は色々面倒な面もあるだろう。
だけれど、俺はそんなメンドクサくて面白くない裏側をこの世界に提供するするつもりはない。
クリーンで輝かしい憧れの職業にするんだ!
「つまり、これはこれで宗教戦争ってことかな?」
「そういえなくもない。ただ、考えているうちにだんだんとその辺りはおまけになってきたけども。」
「じゃあ何が主な目的なの?」
「んなもんディオネとルシファーの歌と踊りと可愛い笑顔に決まってんだろ!」
「やったねルーちゃん!早くも信者1人獲得だよ!」
「いえ……まあその……はい……。」
パアアっと輝く笑顔のディオネと、顔を真っ赤にしているルシファー。
このまま写真にとって雑誌に載せたい位の絶景だけれど、やっぱだめだ!
プライべートの流出はダメ!ちゃんと本人たちの同意がない限りは盗撮だぞ!
そして俺は、今回のテレビ計画の事を2人に説明した。
聖教とやりあった場合のために、相手の信者を減らしておこうと思った事。
その為に新しい情報メディアを生み出して、先駆者として業界を牛耳って、偏向報道をしようと思った事。
視聴者を掴むために、テレビ放送の目玉要素の一つとして、アイドルやロボットアニメを作ろうとしている事。
計画を進めれば進める程、聖教の事がどうでも良くなってきて、趣味に走り始めた事。
「って訳なんだよね。」
「貴様は、もう少しこう……節度というかだな……。」
「僕は構わないよ!久しぶりにルーちゃんと仕事できるし!」
うん、2人の反応は四捨五入で好感触って感じかな?
しかし、アイドルを生み出すためにはまだ問題が色々ある。
その中でも最も重大な問題は、音楽性の違いだろうか。
前世と比べ、この世界ではまだ音楽がそこまで発達していない……というより、基本がクラシックと呼ばれるような弦楽器と管楽器を使った物ばかりだからだ。
アイドルソングにもそれらが使われる事はもちろんあるけれど、やっぱりシンセサイザーやエレキギター等、真新しい音による破壊力が欲しいんだ。
イリアとの結婚式の際に、王都中で前世の音楽をモデルに耳コピで打ち込んだ曲を流してみたけれど、やっぱり馴染みが無いからか、楽しんでもらえるまでに時間が必要だったように見えた。
だからこそ、俺好みの曲をこの世界に浸透させるチャンスは逃す手はない!
アニメのOPやEDも大抵はその手の曲だし。
中にはオーケストラやオペラの場合もあるけれど、そう言うのは少ないからこその希少性で良さが引き立っている場合が多い。
でも元はアニメのOPなのにジャズの代表曲みたいになってる奴とかも好きだぞ!
ただ、俺に作曲の才能は無い。
もしかしたら毎日死ぬ気で学べばできるかもしれないけれど、やりたくない!
でも、この世界には前世の曲を知っている人間がいない。
じゃあどうするか?
そうだ!作るしかない!ドゥーイットユアセルフ!
大体、アイドル事業に限らずテレビを放送しようというなら新規の人員が大量に必要だ。
尚且つ、この手の物は変な人員が送り込まれてしまうと非常に大きな被害が出る場合がある。
だから前世のマスメディアも国営だったり、民営でも外国資本の力をあまり及ばないように規制していることが殆どだった。
だから、それらもまとめて一気に人形生成で用意しよう!
俺は、神粘土を大量に生み出した。
量にして人形100体だ。
そして、それらを全て同じ形の体に人形生成する。
そして彼女たちに、メディア関係の能力をモリモリに盛った魂をランダムで作り出し付与する。
作曲家はもちろん、メイクや製作スタッフ、その他もろもろだ。
一番重要な機能は、憑依スキルだ。
同シリーズの体に限り、彼女たちは魂を入れ替える事ができる。
ヒルデたちは、記憶をやり取りすることでかなり画一的な存在となっているけれど、今回作り出した娘たちは、魂ごと入れ替えるために別人となる。
「この者たちの魔力量……。貴様、魔王だった我よりよっぽど規格外な事していないか?」
「まあダロスはもう位階的に神に準じた能力あるっぽいからねー。」
「特殊な能力がいくらあっても関係ない。俺にとって今この場で重要なのは、如何にディオネとルシファーの魅力を発信するかと言う事だから。そのためならたとえ神にだっていくらでもケンカ売るぞ!」
「貴様は、神にケンカを売るために我をアイドルというのにするのではなかったのか……?」
「ルーちゃんが信仰されてて僕も鼻が高いよ!」
後方友人面をしていたディオネが、我慢できずに前方のルシファーに抱き着いてるのを尻目に、今まさに魂を付与した娘たちに向き直る。
「よし、キミたちの名前はレギオン!個別の名前は、とりあえずレギオンの後に1~100で着けてあるけれど、それぞれ希望の名前がある場合はそれを名乗ってもらって構わない。キミたちの仕事は、テレビ事業の円滑な運営だ!ゆくゆくは、この世界全体を席巻できるようにしてほしい!新規の人員が必要な場合は遠慮なく言ってくれ!期待しているぞ!」
「「「はい!」」」
そう言って彼女たちは、情熱を感じさせる表情で返事をしてくれた。
その直後、何故かいそいそと服装を変え始めた。
せっかく作ってあげた服の上着を脱ぎ、腰の部分に袖を紐代わりにして結び付け始める者。
マフラーをネクタイのようにし始める者。
折角魂付与した瞬間露出しているという恥辱を味あわないように、俺なりに考慮してそれらしい服にしたというのに、勘違いした業界人みたいな格好になっていく。
おいまて、そのおでこに掛けたサングラスはどこから出した?
「じゃあまず、テレビ局とテレビを作ろうと思ってるけれど、何かこれは必要だって言っておきたいものはある?」
「はい!」
「はいレギオン1さん!」
「とりあえずレギオンをあと100人作って頂けないでしょうか!?この業界、兵隊100人では足りません!」
俺の考えは甘かったようだ。
どうやらとんでもない苦行を彼女たちに与えてしまったらしい。
俺はすぐさま、追加でレギオンを100人作り出した。
やっぱり自分たちで服装を変にカスタマイズしていくのは何かの呪いか?
「200人の振り分けってどんな感じになるの?」
「まず、100人は撮影や照明、映像編集等テレビ局のメインスタッフとなります!CGや作曲、効果音を着けるような芸術担当が20人に、演者の衣装や髪型を担当する人員が10人。警備員10人に清掃員と社食の担当がそれぞれ5人ずつ。」
「残り50人は?」
「アニメの製作を担当する専門チームです!今後増員する場合は、この部分を強化して頂ければと!ここは地獄です!」
俺は地獄を作り出してしまったようだ。
「なぁ貴様、本当にテレビはやったほうがいいのか……?色々アレではないか……?我そもそもあまり人前で歌ったり踊ったりしたくないのだが……。」
「ダメだよルーちゃん!テレビをやらないとしてもルーちゃんのアイドル活動は必要だよ!」
「いやディオーネー様、なんでそんなにノリ気なんですか?」
いや見たいだろ!
歌って踊って観客にウインクしてるお前を!




