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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第4章

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84:

溜まっていた誤字報告を適用しました。

ありがとうございます。

「ダロス様!私は悔しいのです!」

「そっか。ちょっと待ってもらっていいかな?」


 新装備の試運転を切り上げ、暗くなる前に帰って来た俺たち。

 夕食を終え、門限が近い事を理由に棚上げしていたリリスの話を聞くことにしたけれど、興奮しすぎているようで、何の話をしているのかわからない。

 そもそも俺はリリスと会話したことが殆どない。

 たまに自分の趣味に関することを話し始めると、こちらから話をする余裕すらないほどのマシンガントークを披露してくれるけれど、剛速球を投げてくるだけでこっちの返球は受け取ってくれない。

 前世で俺がよく参加していたコミュニティだと、こういう会話をする人たちで溢れていた。

 何を隠そう俺もそうだったけれど、そう言う場所だと前提として、互いにその話題の元について熟知している必要がある。

 その上で、互いにやいのやいの言い合い、自分の拘りを押し付けあうプロレスのようなものだ。

 だから、リリスの話し方も別に嫌ではない。


 問題は、リリスの話したい内容について俺が大して理解できていないことだろう。

 だってさ……、俺をカップルの片方にして、もう片方も男にされてる本についてコメント求められてもさ……。

 生モノはダメだって……。


 話が進みそうにないため、隣にいたアルゼに聞くことにした。

 リリスは、アルゼ以外とは趣味についての話しかできないけれど、アルゼには普通に話すらしいので、多分一緒にいたってことは何の話か分かってるだろうし……。


「それが、出版社組合の会合でダロス出版の本が軒並み発禁と決定されたようでして……。」

「妥当な所じゃない?」

「酷いです!」


 酷いのはお前だよ!


「男と女をエッチに絡ませたらダメだってあのオジ様たちがうるさいので、敢えて女性を封印し、頑張って男と男の絡みにしたんですよ!?男性同士の恋愛は、子孫を残す目的なんて存在しない真実の愛なんですよ!?なんですか縛られて喜ぶ男なんているわけが無いって!貴方が縛られた事が無いだけでしょう!?鞭で叩かれた事はあるんですか!?無いでしょう!?どうせロウソクだって経験あったとしても専用の奴しか使った事ないくせに!文句があるなら一回男性同士で色々シてからにしてくださいよ!ロッカーキーは足首に巻いてください!」


「アルゼはどう思う?」

「男か女かは関係なく、そもそも卑猥な出版物自体が問題視されているのではないかと。」

「そっかー。」


 じゃあ無理じゃん……。


「ひっそりと販売している分には特に問題も無かったのでしょうが、現在国内の出版業界ではダロス出版社の書籍が売り上げ上位をほぼ独占している状況です。特に、卑猥な描写の多いラブロマンスは売れ筋でした。他社の方々はその辺りが気にくわなかったのではないでしょうか?他にも、推理小説等も売れていましたが、こちらは今の所ケチをつける要素が見つけられていないという事だと思います。まあ、そちらも残酷描写が許せないなんて事を言い始めるのも時間の問題な気がしますが。」

「そんなに色々出してたの?」

「はい、現在ダロスフォレストハウスの地下執筆室では、塾に通われていた女性たちから10人ほど引き抜き、それぞれ思うがままに執筆して出版されている状態です。ジャンルもまちまちですね。」

「ダロスフォレストハウス?何それ?」

「え?公爵邸裏手の森の中に建てられた隠れ家の名前なのですが、ダロス様が命名なされたのではないのですか?」

「知らない……。」


 いや、一々『公爵邸裏手の森の中に建てられた隠れ家』って言うのは面倒かもしれんけど、勝手に名前が決まってるとは思ってなかったなぁ……。

 別にいいけどさ……。

 てか地下執筆室?

 それこそ何さ?


「地下の倉庫の一角に机だけを置き、他の事を何もできなくすることで、執筆作業に集中させるスペースの事です。」

「そんな場所作ってるのか……。あんな殺風景な場所でよかったのか?もう少しまともな部屋もあったんじゃないか?」

「殺風景なほうが集中できるそうですよ。むしろ、至れり尽くせりだと書けないそうで。」

「へぇ……。まあ本人たちがそれでいいなら俺としては構わないけどさ。」


 地下格納庫は、現在非常時用に家族なら誰でも脳波操作ができるタルタロスとハコフグが置かれているだけで、大半が空きスペースだったはず。

 作る時は夢いっぱいで広くしちゃうけど、いざ使ってみるとスペースがダダ余りする現象が起きている。

 その一部を使われたところで痛くもかゆくもないけど、あそこって暖房なんかも無いはずなんだけどなぁ……。

 一応トイレとシャワールームならあったはずだけど、他の生活設備まではなぁ……。

 そんなに追い込まれたいのか。


「その話がどうメディアの支配に繋がるんだ?」

「発禁を決めるのが自分たちなら自由に出版できるじゃないですか!新聞も本も支配すれば世論の操作も思いのままです!」

「エロのために情報産業をその手に握ろうというのか。ロックだなリリスは。」

「ロック?男性の名ですか?」


 俺としても、家族になった娘の願いならできるだけ聞いてやりたいとは思っている。

 だけど、流石に限界と言うものはある。

 聞く限り、今回の発禁に関しては、そこまで理不尽な決定というわけでもない気がする。

 出版業界が何を日和っているのかって気もしないでもないけれど、前世の日本と違って、この世界では内容次第で作者の首が飛びかねない。

 無論物理的に。


 そんな世界で、自分の思い通りに卑猥な内容の書籍を販売しようと思ったら、例え上級貴族に喧嘩を売られたところで跳ね返せる何かしらの力が必要になる。

 確かに俺ならそれができると思うけれど、じゃあそこまで頑張って自分を題材にしたエロ本を守りたいかというとなぁ……。


 リリスが自分だけで楽しむんじゃダメなんだろうか?

 発表しないなら、どんなスレスレの内容だろうと問題ないわけだし。

 まあ、すごい売り上げだって言うんだから、それを楽しみにしている人が案外多かったんだろうけれど、出版業界敵に回してでも必要な事なのかな。

 嘗てマンガの神と呼ばれたお方は、自分の特殊性癖を集めたマンガを描いてこっそり隠して楽しんでいたらしいけれど、自分の死後に遺族によって世界に発表されるという恥辱を味わっていたのを思い出す。


「世間に発表しないとダメなのか?自分たちだけで楽しむというのは?」

「ダメです!創作なんて発表しなければただの落書きと妄想!どんなに恥ずかしくても、発表することが大切なのです!」

「ふむ……。」


 確かに一理ある。

 あるんだけれど……。

 今は、聖教絡みがキナ臭くなってきてて、できればそっちに集中したいんだよなぁ。

 聖教本部所属の勇者と聖女を匿ってる以上、いつ面倒な事になるかわかんねぇし。

 ホントさぁ、宗教相手は嫌なんだよなぁ。


 信仰ってのがダメだとは言わないよ?

 むしろ、極限まで追い詰められた人たちが最後に縋れるものがあるって言うのは大事だと思う。

 だけど、それに縛られて他人に迷惑かけ始めたら、それはもう厄介以外の何物でもない。

 どうしたもんかなぁ……。


「あ!」

「どうしました?リリスの言う事は気にしないで頂いても構いませんよ?」

「アルゼまで反対なんですか!?」

「いや、リリスの希望を叶えた上で、俺が抱えている問題を解決する方法を思いついてしまった。」


 情報メディア、信仰、実はこれらは結構密接に関わっている。

 信仰とは、結局のところ真実であるとは限らない。

 それが神とか幽霊が実在する世界だとしても。

 全然違う神を信仰しているように見えて、元を質すと同じ神だったなんてことはしょっちゅうだ。


 では、どうしてそんな別れ方をするのか。

 それは、伝える人間が違うからだ。

 どんな神話でも、それを伝える人の主観によって微妙な差は発生する。

 その差が重なって、気がつけば全く別の話になっているというだけだ。

 壮大な伝言ゲームとでも考えればいい。

 つまり、伝える人間次第で、その神を幾らでも尊いものにできるし、逆に貶めることもできる。

 なんなら、全く新しい神を俺の頭の中から生み出すことだって可能だ。


「というわけで、聖教ネガティブキャンペーンをします!」

「ネガティブ……?それはどんなことをするんですか?」

「聖教の印象を悪くするために有る事無い事言いふらして、信者数を減らします!」

「悪辣ですね……。」


 アルゼが苦い顔をする。

 でも良いだろう別に?

 だって女の子に飯も食わせないで、それでいて自分たちは贅沢三昧してるような奴らがトップにいるらしいんだぞ?

 真面目にジャガイモ食ってる下っ端たちは可哀想かもしれないけれど、上の奴らがいなくなれば改革もしやすいだろう。


「そのネガティブなんてやっている場合ではありません!それよりも私の本を!」

「慌てるな。俺が今考えている計画なら、リリスもきっと満足できるはずだ。」

「本当ですか!?いったいどのような!?」


 ネガティブキャンペーンで一番重要な事は、世論を操れるほどの声の大きさを確保すること。

 つまり、「皆こう思ってますよ?」「こういう考え方が普通らしいですよ?」と思わせる程たくさんの人間に、ネガティブな印象を与える事だ。

 そこで、今この世界でそれをするのに一番強力な方法は何かを考えると、俺にしか実現できないであろう方法を思いついた。


「テレビ放送を始める!」

「テレビ?メーティスで流行っているというあの絵の映る板ですか?」

「そう!メーティスの奴はずっとドラゴンと戦った映像を流してるだけだけど、テレビ放送ではニュースや娯楽も提供する!」


 メーティスには、ニルファの父親を名乗るドラゴンとの戦闘時に撮影した映像を流すためにモニターが街頭にいくつか設置されているけれど、アレはあくまでその場で流しているだけだ。

 前世のテレビのように、電波で国中に映像を届けている訳ではない。


「それが私の本とどう関係するのですか?」


 イマイチ飲み込めていない様子のリリス。

 そりゃそうだ。

 俺だって前世の記憶が無ければ絶対わからんもん。


「全く新しいメディアを俺たちの手で生み出せば、流す内容は俺たちが自由に決められる。宗教関係の醜聞だろうと、有名人の浮気ネタだろうとな。つまり……。」

「私の作品をそこで発表することも可能なんですね!?」

「ああ!」


 ニヤリと笑って見せる俺。

 途端に目を輝かせるリリス。

 あれ?ちょっとヤバイ事やろうとしているのでは?と思ってそうなアルゼ。

 やっぱりこの秘書は優秀だ。

 おっぱい大きいし。


「それにな、テレビ放送をするということは、映像を流せるという事だ。それがどういうことかわかるか?」

「わかりません!どういうことなんですかダロス師匠!」


 師匠呼びをしてくれるリリス。

 ちょっと俺も調子に乗ってしまう。


「ロボットアニメが流せるってことだろ!」

「ろぼっとあにめ……?」

「どんなラブロマンスなんですか?」


 あ、ヤバイ。

 アニメの事考えてたら、もう聖教とかどうでもよくなってきた。



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