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『これ凄いですわあああああああああ!』
目の前で真っ赤なアイギス・ドール2号機が人間ルーレットみたいになっているのを見守っているダロスです。
とりあえず、ニルファ用に武装は控えめでドラゴン魔法的なものを使えるようにした機体を用意したら、早速限界性能を試すかのように乗り回しているようです。
え?人間ルーレットを知らない?
じゃあ風力発電のプロペラのようにロボットが回転しているのをイメージしてくれ。
あ、今度はそのまま空に舞い上がっていった……。
やっぱドラゴンの処理能力はすげーわ……。
ジョブで下駄履かされてる俺と比べても遜色なさそう……。
『流石にアレは真似できそうにありませんねぇ……。』
そう呟いているのは、トリコロールカラーのアイギス・ドール3号機に乗っているローラ。
3号機の特徴は、武装は銃と剣のみというシンプルな構成だけれど、ドローンにしたロボットを10機まで率いて操作することができる点だ。
各機のレーダー等のデータをリンクすることで、広い範囲を1人でカバーできるし、それぞれ別の武装を持たせたり、荷物の運搬なんかにも役に立つ。
それと、慣性制御の利用は、攻撃を受けた時のパイロット保護や長距離ジャンプ等最低限にして、基本の移動は従来通りのホバーに戻した。
これは、先日ヒルデたちを連れて行かなかったせいで、情けなくもできたばかりのアイギス・ドールを放置していくしかなかった苦い経験から、俺と違って人形生成ができないローラには信頼性の高い移動方法を使った方が良いだろうという判断だ。
少しだけ足元がゴツくなっちゃったけど、とっつきやすさはこっちの方が上だろう。
どうしても慣性制御を多用しない場合は機動力が落ちてしまうけれど、マルチタスクに関しては俺よりもローラの方がよっぽど上手いため、機動力の差を埋めるためにも頭数を増やして対応させることにしたというわけだ。。
因みに、現在ローラはドローンタルタロス3体と一緒に組体操みたいなことをしている。
俺が想定していた使い方は、移動開始や攻撃目標設定等の単純な指示を出す程度だったんだけれど、どうやってるのか細かい操作まで行えているらしい。
何それ知らん……。
そして俺ですけども、折角新型機がスマートになったのに敢えて武装をまた盛ってしまいました。
銃や剣は共通のものを持たせたけど、更に背中には大型のミサイルランチャーを6門設置し、ここから魔力でモリモリミサイルを作ってブチかます予定。
飛び出した後、ランダムに折れるような軌道を描きながら目標へ向かって飛んでいく。
弾速は、軽く音速の数倍も出るため、コンクリートの壁でも貫通できる威力がある。
貫通してから爆発することで、破壊力も上がる。
APL-2でドラゴンを倒した時もそうだったけれど、俺が強い奴と戦う時は、無尽蔵の魔力を使った物量戦を仕掛けるのが一番効果的だ。
火力こそパワー!
地図を描きなおす必要が出る程の爆発をお見舞いしてやるぞ!
「あのぉ……。ダロス様……着替えましたが、本当にこれは私用の武装なのですか……?」
「ふふっ、よく似合っていますよサンドラ!」
後ろから声をかけられ振り返ると、お姫様みたいなドレスを着たサンドラとフェリシアがいた。
普段サンドラは、ここでフェリシアの護衛をしたり、ここでいつの間にか始めてた塾で令嬢たちに護身術を教えているらしい。
しかし、本人たっての希望で新しい装備を用意することになったため、こうして試しに装備してもらっている。
サンドラは貴族の位を失ってから今まで、間に合わせの剣……といっても、保護していたアルゼが用意できる最高の剣だったけれど、それでも貴族家が代々受け継いできたような魔剣などには到底及ばない物を使っていた。
そこで昨日、恐る恐る俺におねだりしてきた際に喜んで了承した。
その話を隣で聞いていたフェリシアも興味がありそうだったので、彼女の分もお揃いで作ってみた。
サンドラは、てっきり俺が強力な剣を用意すると思っていたようだけれど、折角なので全身フルセットの装備にすることにした。
ルシファーに作ったエギルギアから翼を外した造りに変更し、戦闘形態になったら魔剣、つまり魔道具としての機能を持たされた剣を同時に装備されるようになっている。
サンドラは風の魔力適正があるらしいので、剣の切れ味を上げたり風魔術の強化も行えるだろう。
翼による盾の機能を無くしてしまっているので、直撃する攻撃に対して自動的に部分的な結界が生成されるようになっている。
全身を包むのではなく、攻撃の部分に限定することで、魔力効率はそのままに防御力を上げている。
まあ、ピンポイントの結界システムはただの趣味で作っただけで、基本の魔力は俺から吸い上げられているから、全身にダメージを負うような攻撃の時はリミッターが外れ、魔王の攻撃にも耐えられる強度の全方位結界がドバドバ魔力を消費しながら作動するけれども……。
一方フェリシア用の物は、剣ではなく純粋に魔術の強化を行うロッドが装備される。
攻撃魔術であれば、最大で大体10倍程強化できるはずだ。
サンドラ用もフェリシア用も、衣服モードはドレスに設定してあるけど、他にも冒険者風衣装、商家のお嬢様風衣装、競泳水着、メイド服等に変更が可能。
隠し機能で猫耳とキツネ耳も付けられるけど、使う事は多分ないだろう……。
使ってみたいけどな!
今回俺たちは、新しい機体のテストのために公爵邸裏手の森の中に作られた隠れ家周辺に来ている。
塾は本日お休みだそうだ。
今日あの隠れ家に来ているのは、本を作る作業を趣味でやりに来てるメンバーのみ。
もっとも、その趣味で作られた本たちが王都のご婦人方に大ヒット中で、何故か俺の名前で作られていたダロス出版社が一躍トップの売り上げを叩きだしている訳だけども……。
そのせいで俺は女性だけではなく、男性もイケるという噂が広がってしまっていて困る。
俺は胸の無い女の子にチンチンだけつけて男だと言い張る昨今の風潮は大嫌いだ!
いやムキムキのおっさんなら好きとか言うわけじゃないけども……。
「ダロス様!この剣はとてつもない物ですね…!岩がプリンのように斬れますよ!?」
サンドラが剣をブンブン振り回しながら喜んでいる。
ちょっと……いやかなり怖い。
「このロッドも素晴らしいですね!岩が一撃で砕けます!」
フェリシアもロッドをブンブン振り回しながら喜んでいる。
あれ?ロッドってそういう使い方だっけ……?
いや、本場の魔法使いはロッド片手に馬にまたがって先陣切って戦場を駆け抜けてたりもするから間違ってはいない……のか?
パワードスーツだから腕力も上がってるし、ロッドもオリハルコンとかミスリルを組み合わせて作ってあるから十分頑丈だと思うけどさ……。
「そのエギルギアは移動能力も強化されてるから、ちょっとそこら辺走って来てみたらどう?基本的にフェリシア達を前線に出そうとは思ってないけど、万が一の時に逃げられる程度には使い心地に慣れておいてほしいんだよね。」
「わかりましたダロス様!さぁ行きますよサンドラ!」
「ご一緒しますフェリシア様!」
風のように駆けていく2人の女の子。
恐らく生身の人類で彼女たちに勝てる者はそうはいないだろう。
俺でも勝てん。
エギルギアはその位の強化をした。
因みにだけど、スルトとフェンリルは人形生成と人形強化をかけなおすだけで、装備を新しくはしていない。
もともと神獣的な物をイメージしてデザインしているので、性能面は問題ないし、それを使っているディとフレイが、
「この子達はこのままでいいんです!」
「もう体の一部って感じだもんね!」
と、改造を拒否されているからだ。
自分の機体に愛着を持って接するのはいい事だ。
よくわかってる!
まああの2人は、ナナセやガラテアと一緒で素の状態でも十分強いはずだし、魔物も倒しまくってるらしいから人形レベルも上がってるんだろう。
位階上げを続けている期間ならうちのメンバーの中でも上位に入るだろうし、多少厄介な敵という程度じゃ止められないだろうから大丈夫だろうな。
今日もあの2人は森の中を駆け回って魔獣狩りをしているはずだ。
その成果をギルドに納めて、ついでに甘い物をこっそり食べてから帰ってくるのが日課となっている。
暗くなるまでに帰らなかったり、夕食を食べられない程に間食をするとイレーヌやサロメに怒られるので注意が必要らしいぞ。
「さて!俺もアイギス・ドールを動かすぞ!来いスルーズ!」
「もぐもーぐもぐー(了解です主様)。」
今日はサポート3姉妹をホットケーキで釣りました。
まずは、静止している状態から全力で加速してみる。
慣性制御によって、この機体最大の弱点である俺の負担を考慮せずに加速することができるようになっている。
今までは、Gに耐える演出を入れたとしてもできなかった殺人的加速もこれなら可能!
ちょっと趣が無くなっただけで、性能的には飛躍的に上がってる!
問題があるとしたら、やっぱりパイロットである俺の方だろう。
だって生身だもん。
人形強化で動体視力でも上げない限りは、この殺人的な加速を使いこなせるわけがない。
つまり、こうなる。
「うわー……、今俺らどう動いてるんだ?」
「足を引っかけたのが原因で、約時速300kmで縦回転したまま吹っ飛んでいるところです。」
その後、約3km程吹っ飛んでから地面に叩きつけられて止まった。
ダメだこれは。
ニルファみたいに何でもなんでもマニュアルでできるような能力、俺には無いというのがはっきりした。
ならオートマにするだけだ。
昔はMTの自動車の方が燃費が良かったり、自由度も高かったらしいけれど、最近はATの方が燃費が良い車種も多く、自由度なんて皆そこまで求めてないからとAT限定の免許持ちも多いと言われていた。
終いには、加速も減速もほぼアクセル1本でやる車が大ヒットしたりもしてたしなぁ……。
加速と減速に関しては、ちゃんと俺の操作で行ってもらうけれど、そのコース上に障害物がある場合には、それを自動的に避けるように動くように設定しておく。
これをしないと、また俺は空中大回転で舞う事になるだろう。
ただ、今後もどんどんこんな感じで、俺の操作が追いつかない事態が起きまくる事だろう。
というわけで、これから俺が何か操作ミスをするたびに、自動的にAIが学習して補助してくれるようにしてもらう。
一昔前のリアル系ロボットモノによくあった学習型コンピューター搭載機みたいなイメージだ。
白い悪魔とか、警察のパトロール用のロボットとかそんなん。
学習型と言う事は、とにかく操作をして学ばせないと何の意味もない。
これからしばらくは、俺も森の中でアイギスを乗り回さなければ……。
その学習データを使えば、人が乗らない機体限定でなら、自動操縦で動かせるかもしれない。
人が乗るから、それを保護するために慣性制御を使って大変なんだ。
人が乗らなければ、大して負担もかからないどころか、機体の処理能力だけで慣性制御も使いこなせそうな気がする。
いやほんと、どこまで行っても人間って弱点だよなぁ……。
それはわかってる……わかってるんだ最初から……。
でも、やっぱり人間が乗るからこそカッコいいんだよなぁ!
「スルーズもやっぱり人間が乗ってるロボットの方がカッコいいと思うよな?」
「いえ。主様が乗っていなければ興味ありませんね。」
「そうだよなぁ!人間ありきだよなぁ!」
その後、機体を振り回す様に無茶な動きを重ね、ある程度安定して高速移動ができるようになった頃には夕方になっていた。
今までのタルタロスやAPL程度の動きであれば、アイギスでもできるようになったと考えていいだろう。
そもそもミサイルなどの飛び道具を撃つだけであれば、そこまで動く必要も無いのが俺が使う重装型の利点だ。
今日の所はこれで満足して、イレーヌたちに怒られないように帰ることにするか。
「総員!家に帰るぞ!」
今日一緒に来てるメンバー全員に通信を送る。
隠れ家周辺に集合することにしたので、スルーズと2人で待っていると、何故か隠れ家の中から人が近寄ってくる反応がある。
「あれ?アルゼとリリスか?」
「申し訳ありませんダロス様、少々お願いがございます。」
「何だ藪から棒に……。」
アルゼがリリスをくっつけながらやってきた。
リリスは、自分の趣味に関する話題以外はまともに会話できないらしく、未だに本を書く時以外はアルゼにくっついて移動している。
今日もアルゼにくっついてやってきただけかとも思ったけれど、リリスがアルゼの前にずいっと出て話し始めた。
「ダロス様!メディアを支配してみませんか!?」
悪役みたいなことを。




