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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第4章

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82:

 戦わずに勝つにはどうしたらいいか?

 相手の戦意を折ればいい。


 じゃあ、神様を拠り所にしていてそうそう戦意が折れない相手の場合はどうしたらいいか?

 神の使いになって適当に言い含めるか、神っぽいプレッシャーで無理やり心を折ればいいんじゃないか?


 というわけで、神々しい天使に見えるようなパワードスーツを作るぞ。

 非殺傷兵器も幾つか搭載した上で、殲滅戦もできるようにしないといけない。

 正規軍どころか、宗教を相手に戦うなら、その程度の性能は絶対に必要だ。

 軍人ならともかく、神の信者という括りの人間がモリモリ攻めてきた場合、そいつら全員殺してしまうと国の運営が成り立たなくなる可能性も高い。

 しかも信心を理由に死ぬまで戦いたがる奴が多いから猶更面倒だ。

 難民が押し寄せてくるような状況は御免被りたい。


 もっとも、調べた限り聖教の勢力と言うのは、あくまで範囲が広いだけであってそこまで敬虔な信者が多いわけでもないらしい。

 真聖ゼウス教皇国内では、聖教こそ絶対のように信仰されているようだけれど、他の国だとそれぞれ別々の神をメインに据えているそうだし。

 神聖オリュンポス王国だって、神様といえば女神……というかディオーネーだから。

 聖教は、回復を仕事にしている病院みたいな扱いか。

 これも神の陣取りゲームみたいなもんの結果なんだろう。

 その神の支配領域では担当の神に対する信仰心が強くなる的な……?


 それでも、聖教の信者に対しても天使っぽい見た目のヒルデたちはかなりウケが良かったし、見た目を天使にするのは効果的なはずだ。

 正直、鳥みたいな翼って言うのは、見た目以外兵器としてあんまりメリット無いんだけど、今回は見る者への心理的な印象を重視しておく。

 人型の見た目の時点で趣味以外の何物でもないんだけども!


 翼は魔術的な飛行能力だけではなく、やはり飛び道具と盾と近接武器としての機能を兼ね備えたものにすべきだ。

 デカいからって近寄られたら何にもならないようじゃただの邪魔なものだし。

 無尽蔵の魔力を使ってモリモリ羽を生成していくことにして、その羽自体をミサイル兼盾にできるように作る。

 ついでに、魔力を電気に変換することでスタンガンのようにも使えるようにしておく。

 ぼくのかんがえたさいきょうの金属で構成された白い羽は、一定以上の攻撃を受けるとバラバラと外れることで衝撃や熱を散らす。

 恐らくこれだけでも現行の人類が保有する武力相手なら、何の不安もなく一方的な戦いができるだろう。


 それとは別に、手に持つ武器も欲しいな。

 これも見た目重視にするために、大きいものがいい。

 となると、でかい槍だろうか?

 素材は羽と一緒にするけど、色まで一緒にすると目立たないので、こっちは金色にしておく。

 普段は1.5m程だけど、込める魔力量でサイズが巨大化する機能をつけた。

 ついでに、こっちにも槍先に電流を作り出してスタンロッドのように使える機能を付けておく。


 そしてこの槍を扱うために、手甲は比較的頑丈さより器用さを重視してデザインする。

 指は全て独立して動かせるし、キーボードの打ち込みだってできる程の精密さを実現した。


 そして手以外の体だ。

 胴体部分や関節部分など、急所のみを金属で覆い、残りは黒いタイツみたいな装甲で覆う。

 見た目は守りが薄く見えるけれど、魔力を流すことで作動する結界生成機によって大砲だろうが雷だろうが直撃しても傷一つつかない防御力を持たせる。


 あとは、催涙ガスを散布できる機能も追加しておこう。

 モリモリ魔力を使うけれど、問題ない。

 俺から遠隔で魔力を吸い上げるようにしておこう。


 こうして、()()()パワードスーツが完成した。

 無論、これを着るのは俺ではない。


「じゃあ、試しに着てみてくれ!」

「貴様!この前我を守ると言ったではないか!前線で戦わせるのか!?」


 半ば無理やり連れてきたルシファーに押し付けてみる。

 案の定怒っているけれど……。


「別にウソは言ってないぞ。このパワードスーツは、お前を守るための装備だ。」

「……どういうことだ?」

「勇者は、魔王と戦う時に戦闘力が100倍になるんだろ?だったら、勇者の能力が100倍になってる間でも圧倒できる能力がルシファーにあれば、勇者なんて怖くない!」

「脳筋すぎないか!?」


 脳筋結構だ!

 結局兵器を使った戦いなんて性能の押し付け合いなんだから!

 環境や使用者の腕が影響しない確実性こそが最も重要!


「それに、お前を虐げてた神様相手にリベンジできるぞ?魔王としてでは無くて、俺の味方としてだけど。」

「それは確かに爽快かもしれないが……。」

「何よりさ、家族が震えて眠るような状態を良しとしておけるわけがないだろうが。」

「……そ、そうか。」


 家族だと言ったから照れているようだ。

 ふふふ、愛い奴め。

 俺もそこそこ恥ずかしいけども。

 ここが押し切るチャンスだ!


「大体、こんなゴツイ装備を着て活動などできんだろう?」

「そこは安心しろ。胸の所にある青いブローチみたいな所を触って魔力流し込んでみ?」

「む?……こうか?って!?」


 一瞬にして、ルシファーの腕の中で、普段本人が来ているような黒いドレスへと変わるパワードスーツ。

 以前姫様に渡したものと一緒で、通常時は鎧ではなく服のように変化できる。

 これはこれで、結界によって強度が底上げされているために、十分な安全が保障されている。

 まあ、姫様に渡したのはあくまでパイロットスーツの延長線上にあるものだけれど、ルシファーの奴はそのまま戦う武装として作ってあるという違いはあるけれど。


「ルシファーがこの世界で幸せに生きられるように、俺なりに真剣に考えて作った。受け取ってほしい。」

「……そこまで言うなら、我も受け取るしかないが……。だが!我が勇者と相対した時には、ちゃんと貴様も助けに来ないと許さんからな!」

「わかった。仮にその時神様と戦っていたとしても、お前を助けに向かうよ。」


 俺がそこまで言う事で、やっとルシファーはパワードスーツを着てくれた。

 感想とかは特に言ってこなかったけれど、白い翼にはちょっと喜んでくれている気がする。


「しかたない!貴様の顔を立てて着てやろうではないか!因みに、この服の名は何というのだ?」

「え?名前?特に決めてなかったけど……。」

「では我が名付けようではないか!そうだな……、対峙する者に恐怖を振り撒く鎧、エギルギアとする!」


 ウッキウキじゃん。

 ただ、恐怖よりも愛を振り撒きそうな美しさだけども。

 いやぁ……、やっぱ奇麗だなぁこの元天使……。

 見た目からは、まさか隣で寝てる人間を寝相で蹴り飛ばすような奴には見えない。


「ここじゃ狭いから、もし飛行能力とか調べたいなら地上に出て確かめてきたらいいよ。俺はここで自分のロボット作ってるから。」

「ふむ、では我はそうしよう!」


 地上への出入り口へと飛んでいくルシファー。

 喜んでくれているようで何よりだ。

 そして俺は俺で、自分の好きなように乗機を作ろう!

 上手く作れたら、ニルファやローラにも1機ずつ渡しておこうかな?


 そういえば、ルシファーと戦った時にディオーネー様に無理やりジョブレベルを上げられたからか、俺でもヒルデたちのサポートがあれば慣性制御を使えるようになっていた。

 それどころか、もう1機分の慣性制御まで賄えたから、新型機は慣性制御を前提にした機体にしよう。

 ニルファは自分でやってもらうとして、ローラの機体も慣性制御が使えればかなりの戦力アップだ。

 オーバーキルさが上がるだけかもしれんけども……。


 基本のデザインはAPLに近いものにする。

 手足は細長く、上半身がマッシブになるように。

 ただ、駆動方式を変えることにした。

 今までは、主に関節部へ魔力モーターを組み込んで動かしていたけれど、今回は魔力糸を使って引っ張ることで動かすようにする。

 これによって、機体内部を空、もしくは金属で埋まることができ、機体の強度を上げつつ軽量化もできる……はず!

 更に、推進力も慣性制御で担う事で、今まで長距離ジャンプやホバーに必要だった噴射機構の類が必要なくなる。


 デメリットは、高温の噴射による視覚的な演出が無くなって地味になり、パイロットが加速や減速のGに耐えるというおなじみのアレが無くなってしまう事だけれど、それをデメリットと感じるのは、前世ならともかくこの世界で多分俺だけだから……。

 まあそれらが無いロボットも嫌いじゃないし、我慢することにしよう!

 もしそう言うのを体験したくなったら、またタルタロスなりAPLなりに乗ればいいんだ。


 後は、慣性制御を前提としているため、ニルファみたいな自分で慣性制御を扱える規格外の存在がいない限り、現状2体迄しか運用できない事だろうな。

 ドローンにして何機も自動で動かしとくような用途には使えないので、そっちは今まで通り小回りが利くタルタロスでやっとこう。

 単純に普通の人が動かす分には、タルタロスが一番クセが無くて適しているとは思う。


 ニルファの慣性制御は、今まで通りニルファ任せでいいけれど、俺とローラの機体は自動的に調整するようにしよう。

 武器の反動制御や重量軽減、格闘武器の威力上昇等は一々考えてたら間に合わん。


 そして使う武器に関しては、APLと共通にしておくことにした。

 これ以上のものを作る必要性を感じていないし、ある程度揃えておけば運用ノウハウも上がりそうだから。

 弾薬は基本的に弾頭だけを込めて魔力を爆発的に流し込み弾き飛ばしているだけだけど、その弾頭すらなくなったら、魔道具によって弾頭が生成されるようにもできる。

 ただ、その場合消費魔力は跳ね上がる。

 銃はともかく格闘武器に関しては、機体が変わるだけで威力が段違いに上がるはずだから、新調する必要もない。

 ただ、既存の銃には催涙弾を撃てるスモークグレネードと、指向性を持たせた音を飛ばせる音響兵器を追加で搭載した。

 音響兵器に関しては、平衡感覚を失ったり、吐き気を催させることができる音をぶつけるだけで、できるだけ体に障害が残らないように調整したつもりだけど、もしかしたら難聴等の被害がでるかもしれない。

 それでも、吹き飛ばすよりはマシだろうと思っている。



 出来上がった新型機は、APLを更に洗練したような外観になった。

 ただ、試しにと動かす時に、見えやすいように魔力糸に色を付けてみたら、本物の操り人形みたいになってしまったのがちょっと気になる。

 まあ、通常魔力糸は不可視なため、ビジュアル面で気にする必要はないんだけれど、これは今後の課題かなぁ……。


「貴様、それは新しいゴーレムか?」

「ゴーレムじゃなくてロボットだけど、そうだよ。」


 思う存分動き回って来たと思われるスッキリとした表情のルシファーが帰って来た。

 そして、興味深そうに新型機を見ている。


「今日の我は非常に機嫌がいい!これの名前も付けてやろうではないか!」

「……わー、うれしいなー。」


 明らかに名づけがしたくてしょうがないといった様子のルシファーの機嫌を損なわないように、はやし立てておくことにした俺。

 名前なんて正直そこまで重視していないしな。

 APLだって本当はニルファの命名によるリンゴチャンだし……。


「この機体の特徴は何か無いのか?」

「特徴……そうだなぁ。動かし方を変えたら、本物の操り人形みたいになっちゃってさ。俺のジョブの神人形師っぽくはあるんだけど、性能的にどうなのかはいまいちわかってない、って感じかなぁ。」

「ふむ……では、こやつの名前は、アイギス・ドールとする!アイギスとは我が喧嘩を売ったハゲがお気に入りの女神にプレゼントした神具でな、我がそれを奪ってぶち壊してやった武装だ!結局アレが決定的な確執になり我が堕天するきっかけとなったのだが、実に爽快だった!」

「自分で壊したもんの名前かよ……まあいいけど。」


 新型機改め、アイギス・ドールに乗り込んでみる。

 全方位モニターに広々としたコクピットのため、比較的居住性は良いと思う。

 サポートのヒルデたちも、これならロリにならなくても乗り込めるはずだ。

 よーし!早速乗り回してみっかなー!


 ……あっ。


「あー!」

「どうした?」

「ヒルデたち連れてきてないからこの機体を乗り回せない事に気がついた……。」

「迂闊すぎだろう貴様……。」


 そうか……この機体最大の欠点は、パイロットとサポートの2人が揃っていないと慣性制御が使えず、歩行以外の動きができないことかもしれない……。

 いや走って行けばいいんだけど、街中で大きなロボットで二足歩行をしたら、振動で大きな被害が出そうなんだよなぁ……。


「しかたない。俺は地下から戻るけどルシファーはどうする?そのエギルギア装着していれば地下鉄より速く帰れると思うけど。」

「ふむ、そうだな……。」


 少し悩んでいる様子のルシファー。

 しかし、その直後ニヤリと笑ってこちらを見た。


「良い方法があるぞ!」

「なんだ?なんか悪いこと考えてないか?」

「なーに、ただ我と貴様で空の散歩と洒落込もうと考えただけだ!」

「は!?」


 そういうと、俺を抱きしめてすぐに外へのハッチへと飛び立つルシファー。

 そのまま空へ舞い上がり、ジェット機のような速度で飛び出す。

 不思議と、激しい空気抵抗のようなものは感じない。

 結界でも張ってあるのかもしれない。


 でもな?

 俺は基本ただの人間でな?

 生身で空を高速移動するのには慣れてなくてな?

 つまり……。


「こえええええええええええええええええ!!!!」

「ハハハハハ!いい表情だなダロス!」

「クソ魔王があああああああああああ!!!!」

「今の我はただの天使だ!」


 ルシファーが家族になってから今までで、最高の笑顔を見せてくれた。

 これだけでも、エギルギアを作った甲斐はあったと言えるだろう。

 あと俺は吐いた。



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