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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第4章

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73:

「夢も希望もねーな。」

「私たちでなければ、近づいただけで餌ですわね……。」


 現在、与えられた領地の森を遠目から眺めております。

 でもですね、まだ森に入ってるわけでもないのに木々の間から得体の知れない生き物の姿が見えるんですよね。

 なんかもう森ごと焼き払っちゃ駄目かな……?


「大体さぁ、森って聞いてたのに明らかに大森林だよね?」

「見渡す限り……って感じですねぇ。」


 ローラの言う通り、視界の続く限り全て緑。

 遠くの方は、靄で見えなくなっているためどこまでかはわからないけれど、とにかくアホみたいに広い。

 これ全部俺の領地だって言うんだから笑える。

 どうしろと?


 今いる地点は、王都からずっと陸続きの王領だ。

 王家が管理する土地ってことだけど、とてもいい場所だから王家で独占したい土地の場合と、あまりに管理するのが大変で貴族に与えられない土地の場合がある。

 後者の中でも、更にヤバすぎて与えられない土地と、不毛過ぎて与えても嫌がらせにしかならない土地があるけれど、あの森はどう考えてもヤバイ。

 まあ、こっちがロボットに乗っていなければだけど。


「ニルファ、思ったよりヤバそうだから先制してドラゴンブレス撃ち込んでもらえる?せっかくだし全力でいいぞ。」

「いいんですの!?わかりましたわ!」


 あ、ちょっと早まったかな?

 なんて俺が思っている間に、早速とばかりに高密度の魔力を練りだすニルファ。

 これはもう大人しく対ショック体勢になっておこう。


「ローラ、ハコフグの後ろに隠れて。」

「危なそうですもんねぇ……。」


 アンカー代わりに八本の脚を地面に打ち込む。

 ハコフグの結界生成機に魔力をどかどか流し込んだので、これで多少の大爆発なら耐えられるだろう。

 俺の準備が終わり、ローラの白タロスが隠れるのと、閃光が放たれたのはほぼ同時だった。


「行きますわよ!ドラゴンブレエエエエエエエエエス!!!!!」


 火炎放射器ではなく、どちらかというと収束されてレーザーのようになった灼熱の炎が大森林を貫く。

 射線上の物体は、閃光が消えてから一呼吸置いて、一気にエネルギーを放出したかのように吹き飛んだ。

 どれだけのエネルギー量なのか見当もつかないけれど、とにかくキノコ雲が出来上がる威力だというのはわかった。


「はぁ……!久しぶりにスッキリしましたわ!」

「……ヨカッタネ。」


 それしか言えない。

 長い間つっかえていたものが外れたかのように朗らかな笑顔でコクピットから顔を出すニルファ。

 何よりその笑顔が可愛いと思ってしまうのは、しばらく一緒にいたせいで俺も絆されたという事なのかもしれない。

 もしくは、出来上がった直径数kmに及ぶクレーターから意識を逸らしたいがための現実逃避なのかもしれないけれど。


「貴様、こんな危ない生き物連れて歩いとったのか……。」

「驚くべきことに魔王まで一緒だからな。」

「我は結構良い子にしてるが?」


 良い子かなぁ……?

 食っちゃ寝してるだけだけど……?

 顔はいいけどな。

 すごくいい。


 何はともあれ、ここから見えていた魔物っぽい生き物たちは軒並み吹き飛んだようだ。

 この世界にはゲームのレベルみたいに位階というものがあって、魔物等を倒せば上がっていくらしいけれど、今ニルファのステータスが表示されていたらレベルアップ!と出まくっているんだろう。

 だって、明らかに普通じゃない魔物ばっかりだったもん……。

 存在が呪いの塊みたいな奴等がうようよだったもん……。


 未だに煙なのか湯気なのかわからない何かが至る所から立ち上っているクレーターに近づくのを諦め、今日は今いる丘をキャンプ地とすることにした。


「キャンプで一番楽しみな物は何だと思う?じゃあまずローラ!」

「私ですか?そうですねぇ……キャンプというのは初めてですのでよくわかりませんが、夜にこうやって集まると恋バナというのが盛り上がると聞いたような覚えが……。」

「女の子同士ならね……。」


 公爵家の令嬢で王太子候補の婚約者ともなればキャンプなんてしたことないか……。

 ほんと、何がどうなったらこんな良い娘が俺なんかとこんな所で焚火囲むハメになるんだか。


「じゃあ次ルシファー!」

「御託はいいから早くメシにしてほしいんだが?」

「正解!」


 そう、キャンプといえばグルメですねぇ。

 というわけで寸胴鍋2つに大量に用意しましたカレーです。

 普段の食べる量から言って、俺、ローラ、ルシファーがお玉1~2杯ずつ食べるだけで、残りは恐らくドラゴンと天使っぽいやつらの胃に収まります。

 前世の世界の米ほどではないけれど、この世界の米もまあまあイケるんだよこれが。

 ごはんは飯ごうで炊いても量が絶対足りないため、一升炊きの炊飯器を5つほど作って魔力をエネルギーに炊いてある。

 この世界のスパイスはちょっと高いけれど、手に入らないという事は無いからガンガン買ってる。

 昔アニメで見たカレールーの作る歌を思い出しながら作ったカレーは、案外美味しくて満足している。


 全員に配ってから、挨拶をさせる。


「いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」


「これって人間の間では流行っているのか?」

「私は知りませんが、なんだか楽しいので好きですよ?」


 落ち着いて話していられる余裕があるのはルシファーとローラくらいで、ドラゴンと天使っぽいのは貪るように食べている。


「カレーというのは初めて食べましたが、とても美味しいですね!」


 そう言って俺が作った料理を褒めてくれるローラ。

 それだけで嬉しくなれるんだから俺は幸せな思考回路してると思う。


「……あの、ダロス様?どうかなさいましたか?」

「あーいや、奇麗な食べ方だなぁって見とれてた。普段食べさせてるのがアレだから……。」


 そう言って横を見る。

 掻き込むように食べている美女たちが見える。


「ふふ、元気があって宜しいじゃないですか。」


 そう言ってほほ笑む彼女は、正しくお姫様といった雰囲気で、やっぱり見惚れてしまう。


「俺は詳しい事聞いてないんだけどさ、ローラはどうして実家から追い出されたんだ?しかも呼び戻そうとされてるのを拒否してるんだろ?言いたくなければ別に言わなくてもいいけどさ……。」

「……そう……ですねぇ。言いたくないというわけではないのですが、正直よくわからない、といった所でしょうか?」

「わからない?」

「えぇ。私はずっとアクタイ王子の婚約者として育ってきました。王子の婚約者として相応しいく在れるように努力もしてきました。ですが、もう1年近く前になりますか。王子主催の夜会に招待されたのですが、通常女性の自宅までエスコートしに来てくれるはずの婚約者が何時までたっても現れません。仕方なく、父と一緒に馬車で会場に参りましたら、入場と当時に王子から、大声で婚約破棄を告げられました。その後、私の記憶にない罪状の数々を読み上げられ、最後に私の代わりに伯爵家の女性と結婚すると宣言されたのです。当然私は反論しました。それらの罪状に身に覚えが無い事を訴えました。しかし、王子は絶対に認めてくださいませんでした。次第に、父もそれを信じ初めまして、そのまま私を家まで連れ帰り実質に閉じ込めたのです。数日たち、父の執務室に呼び出された私は、勘当を言い渡されてしまいました。その瞬間まで、きっと家族は私を信じてくれると思っていたのですが、それが勘違いだったとわかって絶望しましたね。その日のうちに荷物をまとめて家から出ていくように言われ、気がついたときには鞄1つ持って門の外に立っていました。これからどうしよう……そう思っていた時に、アルゼさんが私の話を聞いたと言って馬車で駆けつけて下さって……。その後はずっと、アルゼさんのお世話になっていました。そんな事があったら、家族との関係修復なんてできませんよ……。本当、何故あんな風に王子も家族も、皆さん揃って態度をコロコロ変えられるのか……私にはわかりません。」


 ローラとはロボット談義は何度もしてきたけれど、よく考えたら今まで身の上話みたいなことはしたことがなかった。

 普段どちらかというとおっとりしているイメージがあったから、フワフワっとした説明が出てくるのかと思ってたけれど、案外マジトーンだ。

 それだけ本人にとって忘れがたい出来事だったんだろう。

 まあ、ここにいる時点でかなり色々あったんだろうなとは思っていたけれど、色々苦労したんだなぁ。

 そう思っていると、なんだか嗚咽が聞こえてきた。

 発生源は、どうやら魔王らしい。


「うっ……ううっ……!貴様も苦労してきたのだな……!我の肉をひとかけらやろう!」

「あ……ありがとうございます?」

「気にするな……!何かあったら我に言え!我は虐げられるものの味方だ!」


 魔王が何言ってんだ?

 なんて思うけれど、ローラが嬉しそうだからいっか。


「ローラの気持ちが晴れるかわからないけどさ、実は第1王子は1回俺がボコボコにしてるんだよね。」

「え?王子をですか?それは知りませんでした……。王族に手を出してよく無事でしたね?」

「家族に手を出されそうになったからな。絶対に情報が漏れないように恐怖政治を敷いたわ。特に王子の乳首を重点的に甚振った。」

「乳首をですか!?」

「貴様は第2王子の乳首も消し飛ばしてなかったか……?」


 雰囲気を入れ替えるように、敢えて馬鹿らしい内容を選んで話す。

 俺にもう少し対人スキルがあればいいんだけれど、基本は陰キャのコミュ障だからなかなか難しい。


「っと、話がズレたけどさ。まあ、なんだ……。ローラももう俺の家族だし、何かあっても絶対守るから、何でも言ってくれよ?」

「あ……はい!」


 一度愛してると言った相手になら何とか愛を囁けるようになったけど、そうじゃない相手だと家族であるというだけで恥ずかしいのは何故なんだろうか。

 もっとサラッといい事言いたいのにな。


「もちろんルシファーも家族だ。一生お前は俺の監視下にある事を忘れるな。」

「我は別に頼んでいないんだが……。」

「私……ルーちゃん……ディオーネー様……!」

「我を脅す気か!?」

「ダロス様とルシファー様は仲が良いのですねぇ?」


 そこからしばらく、俺たちの談笑と、すごい勢いで何かを吸い込む音が夜の闇に響いていた。



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