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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第4章

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72:

「領地……ですか?」

「左様。」


 左様……ってシリアス顔で認めないでもらえっかな王様!

 こっちはそういう面倒なの嫌なんだけども!

 あーもう!イリアの言ってたことが当たったわ!


「領地経営の仕方なんて知りませんし、うちでそういうのできそうなのフェリシアくらいです。いきなりポンと渡されても困りますよ?」

「そこは心配ない。何故なら領地とは言いつつも、領民もおらぬただの森じゃからな。」


 違う方向に心配事が増えたよ?

 何してくれてんの?


「嫌がらせ的な?」

「まあ、見方によってはそうともいえるな?」

「帰っていいですか?」

「ダメじゃ。」


 陛下によると、やっぱり俺への報償案が揉めに揉めているらしい。

 金で喜ぶわけでもないので金銭でというわけにはいかない。

 まあ最近色々やらかして王宮に金が少ないというのもあるけど。

 そして、爵位にも興味が無い。

 だけど何も無しだと他国に逃げられるかもしれない。

 だから何かいいものを与えないと!という話になっていたらしい。


 しかし、そこに元第2王子派の貴族が異議を唱え始めた。

 なぜ新興の貴族である俺にばかりそう報償を与えるのかと。

 意訳すると、あいつばっかずるいぞ!ってことだけども。

 まあ俺がやってることは、半分くらい内密の話になってるわけで、国の中枢の人間でも極一部しか知らない物も多い。

 だからこそ、第1王子派閥にも入れずにいた元第2王子派閥たちは文句を言い始めたんだろうけども。


 あ、未だに第1王子派閥の大半の面々は、傍らにクマちゃんのぬいぐるみを抱えて生きているので、俺に対して敵対行動したら死ぬ状態なんですけども。

 監視対象を殺したクマことアルカシリーズは家に戻ってくるんだけど、最初にイキって死んだ騎士の分も合わせて現在5体も帰ってきているため、あれから更に4人も死んだことになる。

 俺なんて相手が何もしなければ、こっちも敢えて攻めたりしない人畜無害な男なのにご苦労な事だ。

 人の家族に手を出してまだ生きるチャンス与えられてるんだから感謝してほしい。


 それで、その俺に対して不満がある貴族たちを抑えるために、王室側はある提案をした。

「では、開拓困難な場所を領地として与え、開拓させることにしてはどうか?」

 と。

 この提案に、元第2王子派閥たちは賛成した。

 俺の鼻っ柱を折れると思ったらしい。


 まあ実際、未開拓地を人が住めるようにするのには、本来であれば金も時間も青天井でかかる。

 そんな損な役回りなんて、貴族はだーれもしたくない。

 冒険者なんて呼ばれてる奴らですら、冒険をしない世界なんだ。

 冒険心なんてものは殆どの人間がフィクションの中で満足してる。


「しかものう、この森なんじゃが、大量の強力な魔物がおって普通は近づくこともできん。」

「やっぱり帰っていいですよね?」

「ダメじゃ。」


 俺に与えられる場所は、『ミュルクの森』という強力な魔物で溢れた魔境なんだとか。

 俺が住んでいる『神聖オリュンポス王国』と、隣国である『真聖ゼウス教皇国』の間に広がる広大な森林地帯で、両方の国が長年にわたって魔物を追い払って行った結果、間に広がる森の魔物の密度が極端に上がってしまい、魔物たちが切磋琢磨して強力になってしまったんだとか。


 真聖ゼウス教皇国は、我らこそはこの世界の秩序を担う正義の国と自称しているけれど、当然周りの国はそれを良しとしていない。

 ただ、世界中で信仰されている聖教という宗教の総本山が真聖ゼウス教皇国にあるため、あまり強くも言えないという面倒な関係になっている。


 そんな真聖ゼウス教皇国に、神聖オリュンポス王国は、ミュルクの森の所有権を押し付けられてしまっているらしい。

 本来であれば、国土が増えるのはいい事ではあるけれど、使えない土地が増えても何の意味もない。

 それどころか、ミュルクの森から迷い出てくる魔物は、神聖オリュンポス王国が管理すべきなので、真聖ゼウス教皇国側に出てきた魔物の討伐費用は神聖オリュンポス王国に請求してくるんだとか。

 この滅茶苦茶な要求を前王までは支払っていたらしいけれど、今の王になってから断っているために国同士でちょっと仲が悪いんだそうだ。


「つまり、俺にあの国を滅ぼして来いと?」

「何でそうなるんじゃ……。」


 だってもう何か色々面倒なんだもん!

 神々のゲーム的にはそれが多分正解なんだもん!

 うちで元気を持て余してるドラゴン娘けしかければいけっかな!?


「ちょっとミュルクの森をおぬしに好き勝手に開発してほしいだけじゃよ。切り開かれれば、魔物も自然と減っていくじゃろう。幸いと言ってはなんじゃが、領民がおらぬという事は税を取り立てる必要もない。そもそもお主から税は取り立てぬという約定もある。既に開拓された場所で変に面倒な運営をするよりも、手つかず土地を自分で切り開く方がお主にとっては楽じゃろ?」

「まあそれはそうですね。後から面倒な事言ってこないって約束してくれるなら引き受けますよ?」

「もちろん約束する。ただし、真聖ゼウス教皇国側がどういってくるかはわからんがな。その場合でも、おぬしなら切り抜けられるじゃろ?」


 まあ多分戦力的にはイケると思うけどさ……。


「そもそもじゃ!結婚してすぐワシの可愛い娘の純潔を散らし、即妊娠させた貴様には少し痛い目見てほしいんじゃ!」

「そういう危険思想のお爺ちゃんは、生まれてくる孫には会わせられませんね。残念です。」

「冗談じゃ。」


 結婚してから2週間でイリアは妊娠した。

「おぬし……ケダモノじゃのう……。」

 とか本人から言われたけれど、半分くらいはあっちが主導でやってたから冤罪だと思う。



 王宮を後にして、愛しい家族の待つ我が家へ帰る。

 ここ数か月で一番の変化が、そこにはあった。


「ただいま!マルス!プリシラ!お父さんだぞ!」

「ダメですダロス様。今すぐ手を洗いに行ってください。でなければ接触禁止です。」

「酷いぞアルゼ!俺は汚くなんか……。」

「赤ちゃんは成人より病弱なんですから、貴方を基準に清潔と不潔を考えないで下さい。」

「はい……。」


 イリアとの結婚式の日、イレーヌは男の子のマルスを、サロメが女の子のプリシラを産んだ。

 母体もイリアが回復してくれたおかげで健康そのもので、子供も元気。

 ただでも結婚式後のテンションだったため、我が家は一気にフィーバーした。

 特に、貴族社会では長男の誕生をとても喜ぶ傾向があり、義父であるイレーヌの父親も大泣きしていた。

 まあ、うちは貴族としてはちょっと特殊で、俺自身がその辺りの事をあまり重視していないためプリシラはプリシラで大人気だ。

 というより、俺の中では野郎は谷底に落とされてから這い上がってくるべき存在であり、女の子は蝶よ花よと育てる方針なので、むしろプリシラの方が俺の寵愛を受けているかもしれない。

 なんて事を家族の前で言ったら、


「いや、主様はマルス相手でもちょっとウザったいくらい構いすぎっスよ?」

「……赤ちゃん言葉で話しかけまくるのは教育に悪い。」

「赤ちゃんは私たちに任せて外で働いてきてください。」

「これからオムツ替えるから男の人は退室ねがいまーす!」


 などなど、辛辣な言葉をかけられた。


 手を洗って子供部屋に戻ると、丁度妻2人が授乳中だった。

 その慈愛に満ちた姿が俺を魅了する。


「聖母……。」

「何を言っているんですか……。」

「ダロス様はいつも通りですね。」


 イレーヌには呆れられ、サロメには微笑まれる。

 どっちの対応も俺にとってご褒美だ。

 好き。


「あ、そうそう。なんか領地貰ってそこ開発に行かなきゃいけなくてさ。何日か家空けるかも。こまめに帰ってくるけども。」

「この子達がお父さんの顔を忘れない程度に帰って来て頂ければ十分ですよ?ダロス様は、少々子供に構い過ぎです。」

「筆頭メイドとして私もついていきたいですが、流石に今は子育てを優先しますね。」


 やっぱり俺は子供に構い過ぎらしい。

 でもでもだって!我が子だよ!?俺と大好きな女性との間に生まれた命だよ!?


「はいはいダロス様、お子さんの事はベビーシッターの私に任せて、ダロス様はダロス様にしかできないことをお願いします!それに、授乳中はあまり男性が覗いたらダメですよ?マナー違反です!」

「はい……。」


 今度はエリンに追い出されてしまった。

 悲しい。


 てかちょっと待て。

 俺が来るたびに誰かに追い出されてるけど、その追い出す連中は毎回毎回俺の赤ちゃん眺めに来てるんじゃないのか?

 不公平だ!


「おぬし、まーた赤子の所に行って追い払われてきたようだのう……。」

「イリア!皆が俺を子供から遠ざけようとするんだ!」

「はいはいそうじゃな。それで、父上は何故おぬしを呼び出したんじゃ?」

「あー、それなんだけどさ……。」


 俺は今日陛下から言われたことを話した。

 領地を貰って、

 そこがヤベーとこで、

 第2王子派に嫌われてて、

 聖教とかいうのと揉めるかもしれなくて、

 イリアとエッチな事をした報いを受けるよう言われたことを。


「あのアホジジイは今度鉄扇か何かで叩いてくれるわ!」

「でも、俺なんかがこんなに奇麗な嫁を貰ったら、そりゃ未開の土地の開発くらいしないとバチも当たるかもしれないよ。」

「おぬし、時々何故か自己評価が低いのう……。」

「いやいや、イリアが奇麗なだけだ。」

「……サラッと言ってくるのやめよ。」


 その後、ササっと出かける準備をして、領地に出掛けることにした。

 連れて行くのは、ルシファー(強制参加)、ニルファ、ヒルデ、エイル、スルーズ、そしてロボットに乗って遠出したがっていたローラの6名。

 因みに他の面々は、妊婦と使用人たちは家にいる事になっていて、その他のメンバーは公爵家裏の森の中に作った隠れ家でレッスン教室を開き、それぞれの得意分野を教えている。

 これが案外評判が良く、地下通路から乗り物に乗って運ばれるため、建物がどこにあるのかもわからないというミステリアスさがウケているらしい。

 しかも、ディオネとガラテアの異なるタイプの二重結界で守られているため探知魔術すら通さないレベルで非常に安全。

 更に、ドローンタイプのロボットもいて、日中は周りでディとフレイが遊んでいるから更に防御が厚くなっている。


 フェリシアが貴族としての教養を教え、サンドラが最低限生き残るための護身術を伝授し、ディオネがダンスを教えている。

 しかし一番人気はリリスの教えるロマンス小説講座で、最近王都では女性向けにかなりディープな書物が増えてきていると噂になっている。

 一番の売り上げを叩きだしている小説の主人公は、何故かこの国の第1王子の名前で、ヒロインの名前はダロスらしい。

 俺は考えるのをやめた。



「なぁ、本当に我も行かないといけないのか?聖教の奴らの国になど近寄りたくないんだが……。」

「他のメンバーはともかく、ルシファーだけは強制だ。慈悲は無い。」

「はぁ……。もう少し自堕落生活を送りたかった……。」


 魔王としてのやる気がとことん折られてしまったルシファーは、俺の家に来てから燃え尽き症候群の如くダラダラと生活していた。


「ぶっちゃけ我って、今あの神々が来たくて来たくてしょうがないと思ってるこの世界で生活できている時点で勝っているのでは?」


 という見事な精神的勝利を経て、やっと心が落ち着きを取り戻したらしい。

 だからって、毎日ソファーに寝転がってお菓子ばっかり食べてるのは体に悪いぞ?


「魔物しかいない森であれば、私が全力で動いても構わないですわよね!?」

「いや、ゆくゆくは俺らが住むかもしれないんだから程々で頼みたいんだけど……。」

「ションボリですわ……。」


 ニルファは別に必要な役割があるわけではないけれど、相変わらず元気が有り余っているから連れて行く。

 ナナセたちが身重で動けない以上、最強戦力は間違いなく彼女だ。


「「「……。」」」


 3姉妹はニルファの付き添いだ。

 お菓子で釣った。

 今もビスケット入りチョコレートを口いっぱいに頬張っている。


「ロボットを使っての待ちに待った遠出ですね!あぁ、楽しみです~!」


 このメンバーの中で実は一番テンションが高いのは、元公爵令嬢のローラかもしれない。

 最近は、如何に高速で森の中を木を避けながら走り抜けられるか試すのがお気に入りらしい。

 朝から晩までディとフレイと一緒に遊んでいるそうだ。

 この前、冒険者登録までしたらしい。

 ニコニコ顔で教えてくれて可愛かった。

 ロボットで楽しめる貴重な人材、機会があれば真っ先に連れて行くメンバーにいれようと思っていた。


 APL-1にニルファとヒルデ。

 白いタルタロス(白タロス)にローラとエイル。

 そして今回未開の土地に行くという事で、武装を増設して宿泊用設備を増強した強化型ハコフグを作った。

 ベッドが10人分備え付けてあり、シャワーと水洗トイレも完備。

 キッチンまである優れモノだ。

 因みに、ニルファがいるので食料は大型冷蔵庫に大量に詰め込んである。

 野宿なんて絶対しないという決意の元作り上げた。

 これには俺とスルーズとルシファーが乗っている。


 因みにどの機体も自動で動かすことが可能なため、夜間でも恐らく見張りは不要だ。

 夜は皆でぐっすり寝よう!

 辛い思いなんてしたくない!


「今回の目的は、とにかくどんな場所なのかの視察だけだから、皆気楽にな!」

「「「「おー!」」」」

「じゃあさっさと行ってさっさと帰るぞ!」

「「「「おー!」」」」

「ルシファーだけ声出てない!」

「…………おー。」


 何も考えてなさそうな返事を聞き、出発する俺たち。

 何より、俺自身が全く何も考えてなかったりするんだけれど。

 目指すは、人が全く寄り付かないという謎の大森林。

 きっとまだ見ぬロマンが俺たちを待っている事だろう!


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