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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第3章

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 その日、王都の住人は、兵士や王宮勤めの者以外全員が休日となった。

 神聖オリュンポス王国第1王女イリア・オリュンポスと、ダロス・ピュグマリオン男爵の結婚式が開催されるため、王令により祝日とされたのである。


 民たちは、めでたい事だと浮かれに浮かれ、昼間から街中で酒を飲みだす者も多い。

 ピュグマリオン男爵のスキルにより、王都中に中継映像が流されるというこの世界初の試みがされることもあり、今までどれだけ頑張って集まったとしても一部の人間しか見る事が出来なかった王族の結婚式が、今回に限り王都中の民の目に触れるという事で、話題性もとても高くなっている。


 イリア王女が嫁ぐことにより、王太子は第1王子のアクタイ・オリュンポスに正式に決まった。

 以前は、その粗暴な行いと、婚約者への理不尽な行為で問題となっていた彼だが、ピュグマリオン男爵との出会いにより心を入れ替えたらしく、今ではとても模範的な王子となっていた。

 最近になってアクタイ王子を補佐するようになった麗人の手腕だと言う者もいれば、何故か軍部の貴族たちに起きたクマのぬいぐるみブームによるものだと噂する者もいるが、詳細は明らかになっていない。


 この結婚式の少し前に、第2王子であるエリクト・オリュンポスが、王城内に封印されていた悪魔を誤って解き放ってしまい、数人の令嬢たちが囚われてしまった。

 しかし、ピュグマリオン男爵とイリア王女が力を合わせる事でこの悪魔を討伐。

 この件で2人の仲は決定的となり、今回の結婚式が決まったとも言われている。

 解放された令嬢たちは、ピュグマリオン男爵の計らいにより保護されているそうだが、事件後に目撃した者の話によると、それぞれとても幸せそうな顔をしていたらしい。


 第2王子が自身の失態により王位継承権を剥奪されたことで、王族内での権力闘争にも決着がついた。

 第2王子派だった貴族たちも、第1王子がきちんと実力に見合った徴用をすると宣言したため、一応は落ち着いているそうだ。

 暫く不穏だった国内情勢が、イリア王女の結婚を境に改善されたことで、国民も貴族も、何よりイリア王女を溺愛する国王が喜んだという。



 結婚式自体は恙無く行われた。

 白いタキシードに身を包んだピュグマリオン男爵と、既存の技術では不可能なほどの繊細な意匠を凝らしたウェディングドレスに、男爵の瞳の色と同じ赤い大きな宝石を随所に使ったアクセサリーを身に着けたイリア王女が、自ら神官の代わりに名乗り出た王の前で、神に永遠の愛を誓った。

 そして、誓いのキスをした正にその時、驚くべきことに王の背後に聳える巨大な女神像が輝き、まるで2人を祝福するかのようだったという。

 後にこれは『女神の奇跡』と呼ばれ、神々を奉じる神聖オリュンポス王国において、これ程喜ばしい結婚式は過去例が無いと歴史研究家や宗教家たちは口を揃えた。

 王女を照らす暖かい光に王は感動し、壇上であるにもかかわらず涙したという。


 何故かこの結婚式に神殿関係者が全く出席しておらず、一部では神に背く行いなのではないかと揶揄されてもいたそうだが、この奇跡によってその噂は完全に消え去ることとなった。



 ただ、厳かな雰囲気で行われたのはここまでだった。


 結婚式の後は披露宴と呼ばれる催しということで、王都の者たちは何が起きるのかと息を飲んでいた。

 前回のピュグマリオン男爵の結婚式では、大きな人形が踊り狂っていたり、とにかくとんでもなかったという噂を皆が聞いていたからだ。


 ピュグマリオン男爵によって王都中に設置されたテレビジョンと呼ばれる板に映る男爵本人が、披露宴の開始を宣言した。

 すると、王都中に今まで聞いたことも無い様々な音楽が流れだし、至る所で人形たちがひとりでに動き回って飲み物や料理を配り始めた。

 最初は戸惑っていた王都民たちも、音楽を楽しみながら飲み食いするうちに、次第に当初のお祭り騒ぎを軽く超えた賑わいとなっていった。


 王都中が人々の活気であふれた辺りで、テレビジョンに映る男爵がイリア王女をお姫様抱っこし、大きな赤い人形の手に乗ると、そのまま人形が飛び立った。

 すると、黒い翼の天使1人と白い翼の天使2人が先導し、王都の空を飛びまわる。

 テレビジョンの中で王女は、まるで愛を確かめ合うように男爵に硬く抱き着いていたという。


 辺りが暗くなり、テレビジョンを通じて男爵が閉会を宣言する。

 皆多少の寂しさを感じつつも、これ程の不思議な体験ができたことに興奮冷めやらぬといった風に家路へ着こうとしたとき、暗い夜空に何故か明るい虹がかかった。

 まるで、神々の悪戯のようなその現象をみて、王都にいる平民、貴族問わず、明るい未来を信じざるを得なかったという。


 神聖オリュンポス王国。

 神の世より続き、神と共に在るとされるこの国にとって、歴史に残る日となった。






「ダロスどうだった!?虹奇麗でしょ!?」

「いや、帰れって言ったタイミングでアレやったら危なくないか?」

「大丈夫だって!万が一の時はイリアが王都中にヒールかければいいんだから!」

「妾に丸投げなんじゃなディオネ……。まあ、やってやれんこともないが?」


 舞台裏へ戻ると、他の家族たちが未だにモリモリと食事している。

 先ほどまで役割があった面々もいるから、仕方ないと言えなくもないけど、それを加味してもすごい量食ってんな……。


「主様、ジブンも料理手伝ってピザって言うの作ったから食べてみてほしいっス!」

「……これ、案外イケる。」

「チーズが熱くて火傷しましたが?」

「フーフーしないとダメだって言ったじゃん!」


 ナナセ、ガラテア、フレイ、ディのテーブルは案外スタイリッシュでオシャレな感じのメニューが置かれている。

 大食いキャラがいないからかもしれない。


「あ!それ私のカスタードパイですわよ!?」

「「「早い者勝ちですよ」」」


 それに引き換え、ニルファ、ヒルデ、エイル、スルーズと大食いキャラばかり固まったこのテーブルは活気に満ちている。

 全員が顔にクリーム付いたままなのはどうにかならないだろうか?


「うぅ……。神々の世界なんかよりこの世界の方がよっぽどいいじゃないか……。どうして我はあんな奴等に無駄に喧嘩を吹っ掛けたんだ……。」

「ルシファー、このプリンというのも美味しいですよ?」

「アルゼはこの大きなキノコを食べてください!歯を立てたらだめですよ!」

「揚げた生地の中に、お肉やお野菜が入っているのでしょうか?とても美味しいですね。」

「あぁ……、こんなに食べたらまた女の子っぽくないと思われてしまいそうです!でも食べるのがやめられません!」


 ルシファー、アルゼ、リリス、フェリシア、サンドラのテーブルは、サンドラ以外非常に上品に食べている。

 サンドラだけはモリモリ食べててこれはこれで好印象だけども。

 あ、ディオネがルシファーに絡みに行った。

 ご愁傷様……。


 フェリシアとサンドラとの結婚は、今回は見送られた。

 もう少し関係を深めてから正式に行おうという事になっている。


 ふと気配を感じ上を見上げると、新造したタルタロスからローラが飛び降りてくる所だった。


「はぁ……、最高の時間でした!あの大きな人形で踊れるなんて、この前までは夢にも思いませんでしたよ!」

「コクピットの中にいると案外水分失いやすいから、水分補給忘れないようにな?」

「はい!ダロス様!」


 ローラは才能があるのか、あっという間にロボットの操作を覚えてしまった。

 下手したら俺より上手いかもしれない。

 ちょっとジェラシー。


「ダロス様、イレーヌ様とサロメ様が席でお待ちです。」

「わかった。」


 うちのメイドになったセシルが案内してくれたテーブルには、お腹を大きくしたイレーヌとサロメがいた。

 もうすぐ出産のため、エリンとエクレアさんがつきっきりで世話をしている。


「お待たせ!いやぁ、疲れたなぁ……。」

「今日は倒れるような無茶はしていないのですね?」

「前回で流石に懲りたよ。俺は同じ轍は踏まないように気を付けてるから。」

「サロメさん、この前のダロス様の土下座は何回目でしたっけ?」

「さぁ……5回はされてると思いますが……。」

「すみません。」


 謝る時は素直に謝る。

 この世界で生き残るための鉄則だ。


「おぬしは相変わらず尻にしかれとるのう……。」

「イリアさんもこれからはしく側になるんですよ?」

「そういえばそうじゃったな。その……これからよろしく頼む。」

「ええ、これ以上ライバルが増えて行かないように頑張りましょう!」

「無理じゃないでしょうか……?私はダロス様のお嫁さんが増えても筆頭メイドの座は渡しませんが……。」


 何も言い返せず言われるがままの俺。

 優柔不断ですみません。

 でも絶対皆大切にするから!


「……んっ、あら?」


 イレーヌが少し困惑したような声を出す。


「どうした?」

「いえ、あの……。破水したみたいで……。」

「え!?」


 周りの全員が戦慄する。

 実は、この場にいるメンバーで出産の経験があるのはエクレアさんだけだ。

 何せ、俺が作り出した人形たちを除いても平均年齢が20歳行かない面々だから。


「とにかくハコフグに乗って家まで帰ろう!ディオネはお産の手伝いできるよな!?」

「実際にやるのは初めてだけど知識はあるよ!」

「じゃあ頼む!エクレアさんも一緒に!エリンとセシルはここに残って他のメンバーの世話と後片付けを頼む!」

「「「はい!」」」


「……あ、あの、ダロス様」

「どうした!?」


 今度は申し訳なさそうにサロメが声をかけて来た。

 サロメもメイドとは言え、出産間際の妊婦に仕事は任せる気無いんだけど?


「私も、破水したみたいで……。」

「えぇ!?イレーヌと同じタイミングで!?陣痛とか無しに始まることもあるのか!どうするどうする……!」


 流石に俺の頭のキャパシティがオーバーし、めったにしない程のオロオロを披露してしまう。

 我ながら情けないという事はわかってしまうあたりが悲しい。


「落ち着けバカもん!どんなケガも妾が治してみせる!おぬしは妻2人の手を握っておればよい!妾の夫となったからには情けない所を見せるでない!」

「う、お、おう!わかった!愛してる!」

「妾もじゃ!さっさとハコフグに乗れ!ナナセ!ガラテアも一応一緒に帰るぞ!」

「了解っス!」

「……わかった!」


 この時、やっぱり俺は妻の尻に敷かれる運命だと理解した。


「これだと、妾が初夜を迎えるのもいつになるかわからんのう!」

「明日には必ず……!」

「……いや、まあ、そんなに力強く言われるのも恥ずかしいんじゃがな……。」


 通りはまだまだ人が多いため、可能な限り慎重に屋根の上を行く。

 目指すは、イレーヌとサロメの出産のために家の中に整備した分娩室だ。

 まさか2人同時に産気づくとは思わなかったけれど、そう言えば今夜は満月だ。

 それも関係あるのだろうか、なんて妙に冷静に考えてしまう。


 俺は、この1年で頼れる存在になれただろうか?

 彼女たちの夫として、誇れる存在になれているだろうか?

 正直自信は無い。

 頑張ってはいるつもりだけれど、割と常にいっぱいいっぱいだ。

 それでも、こうして愛しい人が俺の手を必要としてくれるなら、命続く限り応えたいと思う。


「ダロス様、手握っててくださいね?血を見て気絶なんてしたらダメですよ?」

「頑張る!」


 イレーヌが脂汗を流しながらお道化て言う。

 きっと俺も同じような表情をしているだろう。


「赤ちゃん、可愛がってくださいね?私と同じくらい愛してください!」

「生まれる前から愛しいと思ってる!」


 サロメも、まるで出会ってすぐの頃のようにニヤニヤっと笑っている。

 お互い心の余裕は無いようだ。


 結局、カッコよくキメる事なんてできなそうな俺だけれど、彼女たちとならなんとかこの世界でやって行けそうだ。

 そんな事を考えながら、もはや慣れ親しんだ我が家の玄関を慌ただしく潜った。




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