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「ルーちゃーん!」
「疲れてるのであんまり耳元で大きな声出さないで下さいディオーネー様……。」
王城の中庭に戻ると、待ってましたとばかりにディオネがルシファーに抱き着いている。
「アルゼ!大丈夫なの!?その痴女みたいな恰好は何なの!?」
「リリス……無事だったのですね……痴女は酷いです……。」
サキュバスコスのアルゼには全体的にピンク色の女の子が抱き着いている。
この娘が例のリリスらしい。
3号で見ていた限り、アルゼ以外とは一言も口きいてなかったんだが、アルゼとは随分快活に話している。
酷い頭痛を感じながら、ボロボロの状態で町中を駆け抜けたダロスです。
行きは建物の上をジャンプして森林地帯まで行けましたが、戻ってくるときは俺よりぐったりしてる2人を抱えてだったので、仕方なく街中を道に沿ってやってまいりました。
微動だにしない美女2人を抱えて滑るように走る俺は、周りからどう見えていたのか気になります。
本当に気になります。
「戻ったかダロス!ってお主まーたボロボロじゃのう……。」
そう言って回復スキルを使ってくれる姫様。
そうなの、またボロボロなの。
今日の朝起きてご飯食べてる段階ではこんなことになるなんて思ってなかったの。
「呪われてたりするのかな俺?」
「妾みたいな絶世の美女と結婚できるのじゃからそれは無いじゃろ。」
「……あ!バランス調整か!」
「何じゃその変な言葉は?」
そうだよな!
俺なんかが美人と仲良くしてたらそりゃバランスとるために他で苦労させられるよ!
最近大変すぎてその法則忘れてたわ!
だったら甘んじて受けるしかないな!
「何でもない。ところで、俺がここから飛び出してから何か問題起きなかった?」
「そうじゃな……。父上が兄上を殴りつけておったのと、近衛を任ぜられておった聖騎士たちがクビになったのと、人質にとられておった令嬢たちがダロス家預かりとなった事くらいかのう?」
「へぇ……。なんか色々あったんだな。……え?あの娘達俺が面倒見るの?」
「不服か?皆美人揃いじゃし喜ぶかと思ったんじゃがのう?」
「いや、皆すごい美人だと思うよ?でも本人たちの意思も……。」
「本人たちにも確認した上で決まった事じゃよ。名目上は保護じゃな。ダロスが連れ帰った2人もこちらで面倒を見る事になっとるが、そちらは監視の意味合いが強い。」
以前アルゼにも言っておいたけど、本人たちが望むなら面倒を見るのはやぶさかではない。
でもまさか、全員うちに来たいと言うとは思っていなかったな……。
アルゼとルシファーを除くと、パッと見5人くらいか?
「……まあ、いっか!もう今日は脳みそ使えないよ俺。とりあえずハコフグをこっちに走らせてるから、家に来たい人は全部それに乗せて一回帰ろう。聞き取り調査とかは後日にしてもらってほしい……。」
「そういうと思って話は通しておるぞ。無事に帰ってくるのを見越して、父上からも良くやったとお褒めの言葉を言付けられとるしのう。ついでに、避妊もしろと言っておったが……。」
「そんな無節操にシねぇよ!って頭いってぇ……。」
今回は、ロボットを操っていなかった分人形化のダメージはそこまで高くなさそうだけど、それでもインフルエンザにでもなったぐらいの体調不良になっている。
姫様の回復スキルでも、こればかりはすぐに治せないのが実証済みなため、また何日この苦しみを味わうのかと考えると頭が痛い。
本当に頭が痛い……!
ハコフグが到着したので、早々に全員に乗ってもらう。
冷静に考えると、この機内の高貴な血筋レベルがヤバイ。
今は貴族ではなくなっているらしいけれど、保護した令嬢たちはもともとかなり上位の貴族家にいた者が多いらしい。
今ハコフグに乗っているメンバーで、貴族じゃないのは俺とルシファーとディオネだけか。
あ、俺も魂はともかく一応貴族の体だし、ルシファーとディオネはもっと上の何かか。
やべーな。
やべーしか言えない位俺の脳は今追い詰められてる。
頭痛に耐えながらハコフグで家の玄関に乗り付けると、お腹が大きくなっているにもかかわらずイレーヌが出迎えてくれた。
「安静にしてなきゃだめだってんぐ!?」
注意しようとしたけど、唇で塞がれた。
舌まで入れてくる熱烈なソレに、流石に俺も何も言えなくなる。
ついてきた令嬢たちからも「ウソ……」「すごい……」「舌が……」なんて声が聞こえてくるが、イレーヌの耳には入っていないようだ。
「……おかえりなさいませ。」
「もう一度好きになってくれた?」
「はい、この子を生んだらすぐに次の子供が欲しいくらいに。」
それは頑張らないといけないな……。
顔を赤くしながらもそう言ってくれる妻の希望には応えないと。
それはそれとして、急遽家に滞在することになった娘達の事も伝えておかないとな!
俺が劣情に任せて連れ込んだんじゃないという事も含めて!
「ちょっと色々な理由からこの娘たちを家で預かることになったから、エリンさんとか、あと手の空いてるメンバーで滞在の準備してあげて。」
「寝床と簡単な着替えくらいしかありませんが、それでも宜しければすぐにでもお通しできるように準備はできております。貴族家たるもの、突然の訪問に対応できないようでは困りますので。」
「流石!じゃあ俺は自分の部屋戻ってサロメを落ち着かせて来るから……」
「その前にお風呂で汚れを落としてください。あと、後ほど私もベッドにお邪魔しますからね!」
「わかった。今日は本当に疲れたから、一緒にゆっくり寝ようか……。」
イレーヌにも指摘されてしまったため、怠いけれど風呂に入る。
貴族の家ならこういう時使用人が体を洗ったり着替えさせた人してくれるんだろうけど、家の場合女性陣にしかそのサービスは無い。
というか、俺がそれを認めていない。
ビコーズ恥ずかしいから。
風呂の中は、前世のそこまで大きくないホテルの大浴場のような造りになっている。
全体的に石造りで、大きめの浴槽と、シャワーと蛇口が付いた洗い場が5席ほどある。
シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、石鹸、ボディーソープと女性陣の希望でどんどん増えて行った備え付けの備品が鎮座している。
しかし、今日は非常に面倒なため俺が使うのはボディーソープ一択だ
まずシャワーで体全体の汚れを落としつつ濡らし、ボディーソープを塗る。
洗面器に貯めた水を人形生成で人形化したら、それを人形操作で俺の体に纏わせ動かすことで泡立たせ全身を洗ってしまう。
最後にシャワーで流して完了だ。
風呂場に入ってから洗い終わるまで時間にして僅か1分少々、カラスもこれにはビックリだろう。
風呂場を後にし、居間にいたガラテアに頼んでサロメにかけていた睡眠魔法を解いてもらう。
そしてそのまま駆け足でベッドへ。
目が覚めた段階で俺が隣にいないと、俺の事を忘れていた自分を許せないとか言いだして何するかわからないと予想されるからだ。
一回キスで女の子を起こすというのをやってみたかったのもある。
ベッドの上には、まだ眠ったままのサロメがいた。
この世界に来てすぐの時、この娘とこんな関係になるなんて全く思っていなかった。
まさか、この娘を守るために魔王と戦う事になるなんてなぁ……。
顔を覗き込む。
とても安らかな表情で起こすのは躊躇われるんだけれど、それでも今起こしてしまいたい。
これはきっと俺のエゴなんだろうとは思うけれど、サロメもきっと喜んでくれる気がする。
キスをしようとして、寝ている相手にキスをするにはどういう体勢でするのが一番良いのかわからず少し躊躇する俺。
「まだですか?早くキスしてください。」
「……起きてるのか。」
「寝ています。ですから早く。」
白馬の王子様のようにカッコ良く行きたかったけれど、俺にはまだ無理なようだ。
観念して、不器用に唇をつける。
「……ただいま。待たせたな。」
「おかえりなさいませ。愛しています。二度と貴方を忘れないように抱きしめてください。」
「はいはい。」
一緒にベッドに入り、横向きになって抱きしめてあげると、俺の腕に手を乗せてホッとしたような顔になるサロメ。
「……もし私がまた貴方を忘れても、嫌いにならないで下さい……。」
「ならないよ。俺は結構重い男だ。サロメがボケようがなんだろうが、死ぬまで嫌いになってやらないからな。」
「はい……。約束ですよ……?」
「ああ。」
会話はそれだけ。
その後すぐに、俺は睡魔に抗えずに寝てしまった。
サロメの隣だからなのか、先に姫様に回復スキルを使ってもらっていたからなのか、酷い頭痛にもかかわらず安眠できた。
翌日、「サロメさんだけずるいです!」とイレーヌにプリプリと怒られ、更にその翌日には「前回寝込んだ時にはこうして添い寝してやったんじゃ!」と姫様までベッドに乱入しようとしてひと悶着ある事は、この時点では全く予想できていなかった。




