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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第3章

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66:

(存在としての格が違う……!)


 魔王の存在感に当てられてるダロスです。

 なんかもう全部終わりだろって思ってた所にこれなので、正直かなりびびってます。

 心を強く持ってないと色々漏れそう。

 でも大丈夫!

 パワードスーツにはおむつパックがついてるの!


「ダメだよルーちゃん!ここで神気なんて使ったらまた勇者送り込まれちゃうよ!?」

「で……ですがディオーネー様!私はもう我慢ならないのです!あのハゲにできる一番の嫌がらせでもしない限り、私は私を保てません!」

「ハゲって言い放つのが既に最大級の嫌がらせだからそれでいいでしょ!神にだってハゲは治せないんだよ!?」

「でもハゲって言った人相手にクマをけしかけて虐殺して満足しちゃうじゃないですか!そんな次元じゃない致命的な仕返しをしないと!」


 よくわからないけど、神界住民共通の認識下にあるハゲがいるらしい。

 嫌な奴なようだ。

 それより、ディオネの説得によって時間稼ぎができているようなので、どんどん人形生成をかけていく。

 もう何回やったのかわかんなくなってきた。


「……ふん!貴様の無駄話に付き合っていられるほど我はヒマではない!そこの人間!」


 ルーちゃんがこっちを見ながら偉そうに話しかけてくる。

 でももうちょっとそのよくわからないプレッシャー放つの控えてくれんかね。

 今俺の下半身が人の尊厳を保てるかどうかの瀬戸際になってるんだ。


「貴様がこれから何か余計な事を少しでもしようとした場合、先ほどの術をまた掛けて貴様の大切な者たちから貴様の記憶を完全に消し去ってやろう!それが嫌なら、そこで大人しくしているんだな!」


 魔王が俺に話しかけるだけで、この吐き気のするプレッシャーが増す。

 でも、実の所それだけだ。

 久しぶりにやった3Dゲームでバチクソ3D酔いした時に近い。

 それにその脅し方、なってないよ。


「悪いけどさ、アンタが本当にそんな事できるなら、まずは術をかけてから解除を引き合いに出してくるんじゃないかな?さっきのバカ王子みたいにさ。それをせずに交渉を始めたってことは、自分の体じゃないからスキルが使えないとか、弱ってるから発動できないって感じなんじゃないかと予想するんだけど、どう?」

「ぬ……!ぐぬ……!」


 あれ?

 この娘腹芸とか全然できないタイプ?

 可愛く見えてきたんだけど。


「付け加えて予想するなら、そうやって俺に脅しをかけて動きを封じている間に、全力で逃げようとしてたんじゃない?もうまともに戦う力は残ってないけど、ここに残っても負けるだけだから、せめて限界まで力を振り絞って逃げようとしてるんでしょ?勇者に狙われかねない神気とやらを使ってるのもその一環なんじゃない?無理すんなよ。」

「う……うるさい!」


 ハイ可愛い。

 どうしようこいつ。

 後輩に居たら毎日一緒に遊んじゃうわ。

 年末年始とかゴールデンウィークにに2人で大乱闘とかカートレースしたい。


 恐らくこの気持ち悪いプレッシャーが神気というのなんだろう。

 これは、生き物で言えば威嚇に相当する使い方をしているようだ。

 今こうして表層に意識を出しているのだって、かなり無理をして出てきているはずだし、ろくな力は回復していないだろう。

 じゃなければ、大昔の魔道具を使ってまで大掛かりな作戦を考える必要なんてなかったはずだ。


 よって、これはブラフです!

 まあブラフじゃなかったとしても、「じゃあ術を使う前にお前倒すね?」ってなるだけだし。


「……ふ、フフフ!いいだろう!確かに我には記憶を操る術など使えない!この者のスキルを使う事はどうやら難しいようだからな。しかし、全力で逃げる我を貴様は捕まえられるかな?この体、大切なんだろう?」

「大切?確かにできれば助けてやりたいとは思ってるけど、そこまで仲良くなってるわけでもないんだけど……。」

「何?しかし貴様、先ほどからこの者の胸をチラチラと見ているではないか!欲情しているのではないのか!?人間とはそういう生き物のはずだろう!?いいのか?もう二度とこの胸が触れなくなるのだぞ!?」

「いや……うんまあそれは否定できないけど、それでもやっぱりできれば……程度かなぁ……。」


 人質立てこもり犯との交渉の基本は、相手の言葉を頭から否定するのではなく、かといってレートを引き上げられると思ってしまうほどの切羽の詰まり方を見せない事だと習った気がする。

 まあ、俺にそれを実践することは不可能に近いので、やれることといえば会話を引き延ばして、人形生成をし続ける時間稼ぎをするのを優先する。


 実際、操られてる人を無遠慮に死なせられる程俺も人の心を無くしている訳じゃないし、力ずくで逃亡を図られるのが今の状況だと一番困るんだけども。

 完全復活というわけではないにせよ、これほどの力を俺に感じさせる存在だ。

 本気で抵抗されたら、無事に助けられる保証はない。


「よしっと。はいルーちゃん、神気封印しといたからね!これでしばらくは勇者に追われることも無いよ!」

「……え?」


 魔王硬直。

 神気が封印されたからか、一気に気分が楽になって俺も硬直。

 女神強い。

 女神だった記憶があるだけの人間とか自称してたけど、やっぱり神は神って事だろうか。

 神気が無くなると、印象によるごまかしが効かなくなったからか、そこまで圧倒的な身体能力差があるようには感じない。

 まあ、なんとか追いすがれるかなって程度だけど。


 でも、多分今の魔王にとって、神気っていうのは数少ない切り札だったんだと思うんだ。

 それを無効化したら……。


 直後、魔王がどす黒い魔力を纏ったと思ったら、その魔力がそのままセクシーな衣装と翼になった。

 とっても淫魔っぽい格好だから、アルゼの体の本気モードって事だろうか。

 黒い翼だけは、天使っぽい気がするけれど。


「……くっ!!!」

「あーもうバカ女神!」

「え!?なんでダロス怒ってるの!?」


 そのまま逃げだす魔王。

 そりゃ他に手が無くなるまで追い詰めれば、逃げるか一か八かで殴り合いを始めるかしかなくなるだろうさ。

 仕方ないので、こっちも全力で追跡する。

 飛行機能はつけてないけれど、超高速で走るのとジャンプすることは得意だ。

 それに、飛んでる奴を撃ち落とすのもな!


「落ちろよルーちゃん!」


 思い切り加速している状態で地対空ミサイルをバラまく。

 このミサイルの追尾性能は、全力のニルファを基準にしている。

 弱っている魔王なら捉えられるだろう。

 ファフナーに使った時と違って、大爆発は起こさないように制限をかけているけれど、それでもぶつかれば相当痛いはずだ。

 更に、レーザーガンで翼を狙い撃つ。


「あぁ!?」


 いきなり自分の翼が焼ける感覚にびっくりしているようだ。

 その一瞬の減速が致命的。

 ミサイルがドンドコぶつかっていく。

 飛行状態を保てなくなったのか、魔王は王都の外の森に墜落していった。




「諦めて観念したらどうだ?別にお前を殺そうって言うんじゃない。大事にしてやるからその人から出ていけ。」

「……ほざくな!神々が我にしたことを考えれば、神の使徒たる貴様の話を信用することなどできるはずがない!」


 墜落現場でボロボロになりながらこちらをにらみつける魔王。

 でもさ、俺善意99%でお前と相対してるからな?

 残りの1%は劣情かもしれないが……。


「大人しくしてくれないなら、ちょっと痛くしてでも取り押さえないといけなくなるんだけど?」

「はっ!舐められたものだな!?確かにこの体に備わったスキルなど使えないし、我自身のスキルも大半が使用不能なほど弱っているが、それでも貴様程度殴り倒せる程度の魔力は残っているぞ!」


 弱点めっちゃ教えてくれる。

 ほんと仲良くしたいんだけど、ここで素直になられるのもそれはそれで悲しいと感じてしまうのは何故だろう。


 まあ、落とし前つけるために多少殴ろうとは思っていたから、ゼロ距離人形生成かますついでにちょっと痛い目を見てもらうか……。

 もっとも、その場合俺の方が痛い目を見る事になるんだろうけども!

 自分が殴られるの覚悟しながらじゃないと、格上相手に近接戦闘なんてできない。

 だから、自分の体が壊れる前提で事に当たることにする。


 魔王から目線を逸らさないまま、パワードスーツの中に神粘土を作り出し、パワードスーツ自体や体が損傷した場合でもすぐ修復できるようにしておく。

 自分自身にも人形生成と人形強化をかける。

 多少のダメージ覚悟で、相手の体を触りながら人形生成だ。

 別に如何わしい事をするわけではない。

 純粋な戦闘方法だ。

 本当だ。



 睨みつけていた魔王の目が細くなったと思った瞬間、残像が見える程の速度で踏み込んでくる。

 今のままでも俺を倒せるというのはハッタリではなく、客観的な事実だったんだろう。

 それでも、こっちはこっちで対抗策はあるけどな。

 何せ、俺の勝利条件は別に相手を殴り倒すことじゃない。

 隙をみて何発か殴っておこうとは思っているけど、人形化さえできればそれでいいんだ。

 だから、魔王の殴打を横合いから殴りつけてとにかく逸らす。

 常人なら恐らく全く見えない程の速度での応酬をしている自覚はあるけれど、やってることは女の子の体に障ろうとしてる俺と、それを防ごうとしてる女の子の構図だ。

 碌でもないにも程がある。


「き、貴様……!何だその動きは!?先ほどまでとは別人のようではないか!」

「だろ?結構頑張ってるんだこれでも。代償も大きいしね。それでも、アルゼとルシファーを助けたい。ディオーネー様にも頼まれてるしな。」

「……正直、我もこの体の持ち主も、ディオーネー様と貴様の事を信じたいと思ってしまっている。ディオーネー様には恩もある!この娘は貴様に感謝してしまっている!それでも!素直にはいそうですかと恭順などできるか!」


 そういうと魔王は翼を再生させ、腕だけではなく翼での殴打もするようになった。

 中々痛い。

 けど、翼で殴るのって自分も結構痛くない?脆そうだよね?

 それでも、その特殊な戦闘法は今の俺に対して効果的だ。

 攻撃を逸らしたい側からしたら、相手の攻撃手段と手数が増えるだけでも十分な脅威だ。

 更に、翼の存在自体が飛行能力に直結しているのか、時々重力を無視したような動きで攻撃してくる。

 移動速度も格段に上がった。


 正面から突っ込んできたかと思えば、移動速度に振り回されることなく一瞬で俺の側面へと回り込み、鋭い一撃を放ってくる。

 慣性制御を使いこなしているニルファのAPLを相手にしているようだ。

 それに対抗するためにこちらも正確性さを犠牲に速い攻撃をする。

 先ほどまでより更に俺への被弾が増えたけど、俺への攻撃がヒットする瞬間にも人形生成をすることにして、無理やり俺にとってメリットがある事にして精神的勝利を収める。

 どうだ参ったか!参れよ!お互い辛いだろうよ!


「いい加減!諦めて!俺に助けられろよ!」

「この状態の我すら御せぬなら、我を助ける事などできんさ!」

「ディオネ相手だったら自分のこと私って言ってたくせに!ルーちゃん!」

「その呼び方やめろぉ!」


 互いの踏み込みに地面が耐えられていないからか、最高速度というわけではない気がする。

 それでも、そんな事が気にならなくなるほどの速さでの殴り合い。

 いや違うな……、殴られてるのは今の所俺だけで、俺がやってるのはセクハラに近いわ……。


 そうなると、当然先に限界が来るのは俺なわけで。

 突然の眩暈にバランスを崩す俺。

 流石にそれを見逃してくれる程魔王もお人よしじゃないらしい。

 まあ人じゃないしな。


「どうした!この程度!か!?神の使徒よ!」


 一瞬の隙をついて翼と拳のラッシュを始める魔王。

 流石にこれを全て捌くのは無理だ。

 仕方なく、腕をクロスして防御の姿勢をとる。

 パワードスーツの中に、神粘土とは違う液体がドバドバ溜まっていく感触がある。

 これが汗なのか、血なのか、もっと別の何かなのか。

 それすらわからないけれど、壊れる端から人形生成と人形操作で治して耐える。

 その間も、絶えず魔王相手に人形生成をしている。

 なんとなく、もうそろそろ抵抗を突破して人形化できそうな気はするけれど、その決め手がない。


(魔王がこのラッシュを中断し、勝負を決めに来るのを待つ!こっちはその隙をついて反撃だ!来てくれなかったら厳しいなあ!)


 別に俺は戦闘の天才でもなければ、訓練された格闘家でもない。

 単純にそういう風に相手が動きそうだなぁと思って反射的に行動してるだけで、そこに積み重ねた技術なんてものは無い。

 それでも何とか戦えているのは、恐らくこの魔王ルシファー自身も、自分でステゴロした経験がそこまで多くないんじゃないかと思う。

 互いに足りない技術をその身体能力で補いつつのゴリ押しをしている。

 だから、待っていれば確実に隙はできる……はず!


 そのチャンスは、案外あっさりときた。

 膠着した状況に焦れたのか、魔王が右腕と右翼を今までより多く後ろに引き、タメを作る。


(ここしかないよなぁ!)


 心の中で自分を鼓舞し、当てられれば無事では済まないであろう攻撃に敢えて突っ込みながら、反撃の一手を差し込む。

 狙うは胸部からみぞおちにかけて。

 肺や横隔膜に衝撃が伝わって呼吸を乱せば更なる隙が生まれるし、心臓に衝撃が伝われば生命維持にも支障が出るかもしれない。

 まあ、心臓が止まっちゃったら死なないように再生してやるけど。

 とにかく、重視するのは痛みや恐怖によるに精神的ダメージ!

 できれば肉体的なダメージは抑えておきたい!


 俺の右手は、無防備になった魔王の胸に吸い込まれるように伸びていき、そして……。


「アン♡」

「……は?」


 ぽよんという感触と、短い喜声と共に、人形化が完了した。




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