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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第3章

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65:

「アルゼは今、誰なんだ?」

「……申し訳ありません、質問の意図がわかりません。私は私のつもりですが……。」


 魔王ルシファーに操られているかもしれないアルゼと話し合いを始めました。

 誰だって可能であれば平和的な手段で解決したいよね?

 たとえその直前に王子をグーパンしてたとしても、冷静に話し合いを求める努力は怠ってはいけないと俺は思う。

 まあ、その間も絶えず内緒で人形生成ぶち込んでるんですけども。

 これはアルゼのためなの。

 王子を派手にぶっ飛ばしたのも、アルゼへの心理的な影響を目的としてやっただけで、別に王子自体はどうでもよかった。

 アルゼがビビればビビるほど人形化のハードルは下がる。

 それに話し合い交渉って言うのは、交渉が通じない相手だと思わせた方が勝ちだ。

 だからアルゼが半べそになっててもダロスわるない。


「簡単に説明すると、今アルゼは魔王に憑りつかれている。」

「魔王……ですか?」

「うん。森の中の焼け焦げた広場で、変な翼みたいなアイテム拾わなかった?」

「……そういえば。何故かアレを拾いに行かなければいけない気がして、死体の懐から取り出したんですけど、すぐに黒い光の粒みたいになって消えてしまって……。」

「それが魔王が封印されてたまやかしの翼って言う国宝らしいよ。」


 魔王とか国宝とか、アルゼは全く予想していなかったらしい。

 かなり驚いているようで、説明しているこっちはちょっと気持ちがいい。


「それで、今ここにいるアルゼは、アルゼ自身なのか魔王に乗っ取られてるのか、それを確認しておきたかったんだよ。」

「……その、まやかしの翼を手に取ってから、私の中に身に覚えのない記憶や怒りの感情が生まれているんです。おそらくこれが魔王の影響だとは思うのですが、主人格は私本人だと思います。」

「うん、こっちのディオネ曰く、魔王の影響が強い場合は人質とられたところで意に介さないらしいから多分そうだと思うよ。本人がどう感じているのか聞いておきたかっただけ。」


 受け答えも特に違和感なし。

 変に洗脳されている感じはしないな。

 本当に魔王が入ってるのか?って疑問が湧くレベルだ。

 本人が自分の知らない記憶や感情があるっていうんだから、中にいるのは確かなんだろうけども。

 初めて会った時から既にアルゼが完全に魔王に操られていたんだとしたら、俺の印象は参考にならないが。


 次に何を聞こうか考えていると、ディオネが前に出た。


「僕からも質問いいかな?キミは、王都を囲むように設置されていた古代の魔道具をどういう目的で使おうとしていたの?」

「……王都の人間を全てエネルギーに変換することで、とてつもない力を見に宿すことができるとかなんとか、私に植え付けられた記憶にはありました。ただ私としては、私を苦しめたこの国の人間を消してしまえばスッキリするだろうという程度のイメージしかなかったのですが、その前に私が虐げられていた家はお取り潰しになり、もう憎んでいた人間なんて残って殆ど残っていないため、計画遂行の熱意はあまり……。」

「でも、王族相手に淫魔のスキルも使えばもっと簡単に色々できたんじゃないの?いくら女神の加護があるって言っても、1人相手に長時間かけ続ければ催淫や魅了くらいはかけられるでしょ?」

「え?嫌ですよ。だって人間って汚いじゃないですか……。変に体液飛ばされたり触られそうな事したくないです……。」

「あー……。」


 何故か1人納得顔のディオネ。

 わかったことがあるなら教えろと目で訴えていると、ちゃんと通じたのか耳元で囁く。


「魔物を統べるルシファーと、アルゼの淫魔ってジョブはすごく相性が良いから、どうしてこんなに彼女が抵抗できてるのか不思議だったんだけど、潔癖症のアルゼと淫魔ってジョブの相性がすこぶる悪いみたいで、ルシファーでも簡単には洗脳できなかったみたいだね。何か指示出しても、それは汚いからやりたくないっていう嫌悪感による抵抗が強く働いてたみたい……。」

「潔癖症に負ける魔王ってどうなの?」

「魔王でも病魔には勝てないってことかな。アハハ!」

「アハハじゃねぇよ。」


 潔癖症は、症と付いてはいるけれど、汚いのが嫌だと感じるのは本来生物が持っている正常な働きだ。

 その働きが強く出過ぎて日常生活に支障を来たす場合に潔癖症と呼ばれてしまう。

 免疫機能が過剰反応して起こるアレルギー反応や、高い所が怖くて動けなくなったりする高所恐怖症と同じような感じだ。

 そういう意味では、異物の魔王による洗脳を防いでいたのだから、アルゼの潔癖症は病扱いじゃなくしてもいいかもしれない。

 今だけはだけど。


「たださぁ……。そうなってくると別の問題もあってさぁ……。」

「まだなんかあるの?」

「潔癖症による抵抗によって魔王の精神汚染すら防いでたんだよ?人形生成への抵抗もすごく高いんじゃないかなって……。」

「あー。」


 現在、ダロスの脳内カウンターで2000回ほど人形生成をアルゼに叩きこんでいますが、まったく人形化できる気がしません。

 技名を叫ぶ必要が無いため、1秒間に複数回叩きこみ続ける事が可能なのに、効果は今の所実感できていない。

 ゼロ距離ではないとはいえ、ここまで効果が無いと流石に困る。

 それでも2mくらいの距離だからそこまで遠いわけでもないと思うんだけどなぁ……。

 やっぱり抵抗が高いのか……。

 近いほうが効果が高いとしても、潔癖症の相手に触れながらやったら逆に抵抗上がりそうな気もするんだよなぁ……。


「あの……。」


 俺とディオネが内緒話を続けていたのが不安だったのか、アルゼが話しかけてくる。

 人形生成を簡単にするためにもっと虐めてやりたい所だけど、変に刺激しすぎて暗黒面に落ちられても困る。

 話がしたいならそれに応えよう。


「申し訳ありませんダロス様……。私の本意ではありませんでしたが、王都中の人々から貴方に関する記憶を消したのは私に他なりません。この責任は、どうか私1人の命で許していただけないでしょうか?それと、もしあなたの慈悲に縋ることができるのであれば、私が保護していた女性たちをどうかお救い下さい!今もどこかで人質にとられています!彼女たちは被害者なのです!家族や周りによる謀で貴族籍を抜かれてしまった者たちであり、本人たちには何の非もございません!贅沢な暮らしをさせろとは申しません。せめて、愛人や使用人としてでも……。」

「あ、うん。それはいいんだけどさ。その人たちは今うちの姫様が兵隊引き連れて助け出したみたいだよ?2階の……あそこの部屋に監禁されてたみたい。監禁してた奴等は、俺が3号操作して倒しちゃったし。」


 近衛じゃなくて普通の衛兵しか連れて行かなかった辺り、やっぱ姫様も近衛の事もう全く信用してないな。


「本当ですか!?リリスは……リリスは無事なんですね!?」

「リリスって誰?」

「私の異母妹で、ピンクブロンドの髪にピンクの瞳、天使みたいに可愛い天使で……!」

「うん大丈夫っぽい。だから落ち着いてくれ。」


 妹の事になると早口になるなこいつ。

 3号の視界に1人、髪も瞳もピンクの娘がいるから多分この娘だろう。

 一言もしゃべんねーけど。


 妹の無事を知らせたら、ありがとうございますと繰り返しながらポロポロ泣くアルゼ。

 よっぽど大事な家族なんだろうか。

 俺には、血の繋がった兄弟なんていなかったからわからないけど、可愛い妹がいたらそりゃ大事にもしたくなるかもな。


 あれ?この世界だと俺は3人も兄貴いるんだっけ?

 当主を押し付けた長男は元気かなぁ……。

 ナナセに歯を折られた次男はどうかなぁ……。

 女の姉妹はどうだっけか……。

 ダロス君の記憶において家族と会っていなかった期間が長すぎるからか、家族構成が曖昧だ。


「あ!そうだった!俺の記憶消す魔術解除してくれ!それが目的でこんなとこまで来たんだよ俺!」

「ぐずっ……わかりました!……はい!これで皆さん元に戻ったはずです!本当にご迷惑をおかけしました!」

「いいよいいよ。結局第2王子がやらかしたのが大きかったみたいだし。むしろ魔王からの精神干渉受けてこの程度の被害で収まってるのはすごいと思うよ。よく頑張ったな。」

「あ……ありがとうございます……。」


 褒めたらやっと泣くのを辞めて笑顔になった。

 でも、流石ジョブ淫魔。

 笑顔と胸の揺れだけで俺の劣情を掻き立てる。

 まあ何はともあれ、終わり良ければ総てヨシ!だ。


 あ、やべ!

 まだ魔王引っ張り出してなかった!

 何がヨシ!だよ俺!


 でも未だに人形生成が通ってないんだよなぁ。

 既に3000回は超えてると思おうんだけどなぁ……。


『認めぬ……。』

「ん?」


『認めぬぞ……。』


 どこからともかく頭に響く声。

 地の底から響いてくるような、湿っぽさと憎しみをブレンドしたような声だ。


『我は認めぬ……!貴様らだけが幸せになる世界など!』


 そう聞こえた直後、アルゼから黒い何かがにじみ出るのが見えた。

 あまりに悍ましい雰囲気をそれが、俺たちが使うものとは性質が違うとはいえ、魔力であると気がつくのにしばらく時間が掛かった。


 空気が重い。

 体の周りが全て溶けた鉛で満たされているような圧迫感と不快感。

 今すぐにでもここから逃げ出してしまいたい衝動に駆られる。



 先ほどまでと違い、世界の全てを恨むような表情になったアルゼが立っていた。

 一目見ただけでわかる。

 コイツは、体はアルゼでも中身はアルゼじゃない。


『我が名はルシファー!魔物を統べる王にして憎き神々に戦いを挑むものだ!』

「久しぶりだねルーちゃん!ディオーネだよ!」

『ルーちゃんって呼ばないで下さいディオーネ様!』


 恐怖の魔王が復活した。




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