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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第3章

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63:

 神聖オリュンポス王国の王都オリュンポスは、メーティスよりは新しいとはいえ歴史ある街だ。

 何百年もかけて大きくなっていった都市というのは、大抵道がゴチャゴチャしていて、直線移動するのに比べて道に沿って移動するととても時間が掛かってしまう。

 なので、超大急ぎの今日は屋根の上を走ります。

 目立つし多分怒られるけど、あとでごめんなさいしますね。

 多脚型のおかげで、自重が分散して足場に伝わるから屋根も抜けにくい。

 これを2足歩行でやってたら一発で屋根ぶち抜きだったと思う。


 屋根から屋根へ走り回り、時に飛び移って自宅へ向かう。

 歩行者もいないため、外壁の門から普段の3分の1の時間で家まで到着できた。


「ただいま!ナナセ!ガラテア!家の中で何か問題起きてない!?」


 玄関から転がり込むようにダイナミック帰宅をかます。

 居間までくると、家にいたメンバーが全員集まっていた。


「あ!主様!おかえりなさいっス!ちょうど今サロメを睡眠魔法で寝かせた所っすよ!錯乱して酷かったんすから……。」

「……大切な人がいる事は覚えているのに、その人の事を思い出せないのはすごく辛かったと思う……。」


 やっぱサロメはそんな感じになってたかぁ……。

 愛されてて喜びたいような、それどころじゃ無いような……。

 うん、それどころじゃないな。


「他の皆は大丈夫か?」

「ジブンとガラテアは平気っすね。ただ、イレーヌとエリンとエクレアは主様の事忘れてるみたいっス。」

「……エリンもエクレアもちょっと動揺してたけど、とりあえずキッチンで料理してくれてる。問題は……。」


 そう言って、ナナセとガラテアがソファーに座るイレーヌを見る。

 俺の事を忘れているらしいが、パッと見た感じだとそこまでまずい状態には無さそうに見えるけど……。


「貴方が、ダロス様……ですか?」

「え、うん。俺ダロス。」

「…………あ…………あぁ…………。」


 俺の名前を確認しただけなのに、何故かぽろぽろと泣き出すイレーヌ。

 完全に予想外で、次にどうしたらいいのか頭が回らない。


「どうした!?大丈夫か!?」

「……貴方が、大切な人だということは何となくわかるんです。それなのに、貴方との大切な思い出が何も思い出せないんです……。きっと貴方の事が大好きだったはずなのに、今目の前にいる貴方が大好きだという気持ちが思い出せないんです……!」

「まじかー。」


 なんか振られた感じがして結構ショックなセリフだ。

 それにしても、イレーヌがここまで取り乱すとは思わなかったな。

 そういうのはサロメの十八番だと……。

 さてどうしたもんか。

 泣いてる女の子の相手はあんまり経験が無いんだけれど、抱きしめたりすればいいんだろうか。

 惚れられてない状態で抱きしめても警察呼ばれたりしない?

 大丈夫?


 わかんないけど、抱きしめました。

 イレーヌがビクっとするけれど、特に抵抗はしないでくれるみたいだ。


「もしこのまま思い出してもらえないんだとしてもさ、もう一回好きになってもらえるように努力するから、安心して待っててくれ。」

「……良いんですか?私は夫の事を忘れた女ですよ……?」

「いいんじゃないか?忘れられてたとしても、俺がイレーヌの事好きだから。」


 イレーヌが少し驚いたような目で俺を見ている。

 そもそもだけど、俺の事を忘れた程度で俺から逃げられると思ったら大間違いだ。

 こっちは、美人で巨乳の女の子には目が無いんだぞ。


 なんて思っていると、いきなりイレーヌがキスをしてきた。


「……貴方の事は何も思い出せません。それでもこの唇の感触は覚えている気がします。」

「短期間にいっぱいしたからなぁ。目隠しされててもイレーヌの唇だってわかるくらいに。」

「そんなにですか!?なんてはしたない……。」

「はしたないからこそ興奮してる部分があったのかもよ?」

「うぅ……。」


 泣いてた後にそんな話をしたものだから、顔を真っ赤にするイレーヌ。

 にも拘らず、またキスをしてきた。

 うん好き。


 でもいつまでもこうもしていられない。

 していたい気持ちはあるけども!

 状況確認からの速やかな行動が必要な気がする。


「ガラテア、この術は妊婦には悪影響ある?」

「……睡眠魔法で寝かせている分には大丈夫。錯乱したら悪影響もあるかもしれないけど、この術自体にはそんな効果は無いみたい。効果を限定することで、私の結界も突破できるくらいの出力にしてるんだと思う。術者を殺すか、術を解除させれば記憶も戻るはず。あんまり長い間眠らせておくのはまずいけど……。」

「そっか、それならよかった。因みになんだけど、術者の居場所はわかる?」

「……逆探知はできてる。ただ……。」

「ただ?」

「……場所は王城。」

「あー……。」


 第2王子かなぁ……。

 この前会った時ぶっ殺しとけばよかったか?

 どうしたもんか……。


 どう王城にカチコミかけようかと悩んでいると、誰かが肩に手を置いた。

 そちらを向くと、マジモードなディオネがいた。

 ただ、ちょっと目線は泳いでる。


「ダロス、ここまで事態が進行してしまったなら、僕が多少重大な秘密をばらしても怒られないと思う。だから、ちょっと聞いてほしい。」

「情報があるなら聞こう。」

「今回の相手だけど、魔王だよ。」

「はい?」


 なんでここで魔王が出てくるんだ?

 魔王が俺の事を皆に忘れさせた……?

 え?魔王のやることだとするとちょっとしょぼくない?


「多分だけど、相手はダロスの事よくわかってないんだと思うんだよね。」

「どういうことだ?」

「この魔王だけど、今すごく弱体化してて、自分1人の力じゃ大したことできない。だから、大昔からある大型の魔道具で力を蓄えようとしたけど、それをダロスが壊したもんだから手詰まりになっちゃったわけだ。」


 あの時、ディオネに言われて地下の魔道具を破壊したけど、そんな魔王が大切にしてる規模のもんだったのか。

 異世界から来た俺からしたら、魔道具はどれもすごいもんだから実感なかったけど、やっぱでかいのはそれだけすごいのかもしれない。

 大きければ大きいほどいいですからね。


「あれ?でもだとしたら今更俺にチョッカイかけても意味なくない?もう破壊しちゃったんだし。嫌がらせの最後っ屁ってわけでもないんでしょ?」

「あれほどの規模の魔道具を一部とはいえ破壊できるなら、修理もできるんじゃないか?って軽く考えてるっぽい。彼女、神をすごい恨んでいるけど、それと同じくらい崇拝というか、畏れみたいなのももってるからさ。神の使徒であるダロスと、女神の分け御霊である僕が一緒にいるのを見て、チャンスだと思たんだと思う。人々からダロスの記憶を消したのは、戻してほしかったらいうこと聞けーって人質みたいにしたいんじゃないかなぁ……。」


 魔王結構行き当たりばったりだな……。

 しかも、それを行き当たりばったりな俺に防がれてるし……。

 ただ、話しを聞いてみてすごく気になってることがあるんだよなぁ。


「ふーん……。あのさぁ、気のせいならそれでいいんだけど、その言い方だと魔王の候補者は俺の中で1人だけになるんだけど……。」

「アルゼでしょ?半分くらい正解かなぁ。」

「もったいぶらずに教えてくれるのか……。でも半分って?」

「正確には、アルゼに魔王が取り付いて操ってる状態ってこと。」


 魔王って悪霊か何かなのか?

 さっきから俺の中の魔王のイメージが崩れまくりなんだけども……。


「本当なら、魔王に関することはもっと詳しく人間に教えてもいい事にはなってるんだよ。魔王という存在が発生した時点で全人類に伝わるように前もって使徒に教えておいても怒られない。逆に、人類の中に勇者なんてものが生まれた場合は魔族に知らせが届くはずだし。」

「じゃあなんで今回はそうしなかったんだ?話しぶりからすると、そこそこ前から魔王として活動してるんだよな?」

「魔王は魔王でも、実の所残滓みたいなものでさ。このまま放っておけば、数千年後にはもとの魔王に戻るんだけど、今の所ちょっと特殊な力を持った魔族ってだけだから……。」


 もはや、ちゃんとした魔王ですらない子になっちゃったぞ。

 大丈夫なのかこの世界。

 魔王が魔王してねーけど。


「ところで、なんでさっきからディオネは目線が泳いでるんだ?」

「……言っても怒らない?」

「聞いてみないとわからないけど、そういう前置きがあるなら多分怒るんじゃないかなぁ……。」


 ディオネは、観念したように話し出した。


 今から数千年前、神々の役割を補助する使命を与えられた天使の一人、ルシファーが神に反旗を翻した。

 理由は、あまりにも労働環境がブラックだったから。

 我儘で傲慢な神々の要求に嫌気がさしたルシファーは、堕天使となって人間界へと降り立ち、大地を埋め尽くすほどの魔物を召喚して使役し魔王軍を結成。

 自身を魔王と定義し、神々のゲーム盤と化しているこの世界を破壊しようとした。


 怒った神々は、魔王を倒すために勇者を作り出し、瞬く間に魔王軍壊滅させ、ルシファー自体も瀕死の重傷を負ってしまう。

 しかし、神々の中にも良識のある者もいて、ルシファーが怒るのも当然だと考え、なんとか助命することに成功する。

 ただし、傷ついたルシファーを回復させることまでは許されず、不憫に思ったディオーネーがルシファーを封印して守ることにした。

 封印されたルシファーは、『まやかしの翼』という魔物の群れを使役し操れるアイテムとなり、人間たちにとってとても重要な宝具とされた。


 重要なアイテムとして扱われれば、魔王の封印として存在し続けるよりも大切にされるだろうというディオーネーの心遣いだったけれど、安置されていたそれを勝手に持ち出して使おうとした奴がいた。

 何を隠そう、この国の第3王子である。

 もう死んでるけど。


 バカ王子によって宝物庫から出てしまった魔王は、度重なる俺の眷属たちによる襲撃で所持者を失い、次の所持者としてたまたま近くにいたアルゼを操って所持させることに成功する。

 魔王にとって、このまま放置されるくらいなら誰でもいいから自分を持って行ってくれと考えての行動だろう。


 ただ、ここで魔王本人も予想していなかったことが起きた。

 なんと、アルゼのジョブとスキルによって、封印されているはずの魔王が魔力となって吸収されてしまった。

 当初非常に焦った魔王だったけれど、よく考えるとアルゼを操れば自分は早く魔王としての力を取り戻して、また神々相手に復讐ができるのではないかと思い至った。


 覚悟を決めた魔王は、アルゼの無意識下で指示を送り、自分の判断で動いているかのように感じさせながら操り始めた。

 特にアルゼの怒りと憎しみを増幅させることで、数か月で王子の秘書なんていう立場まで成り上がらせた。

 権力を手に入れたことにより、古代の巨大魔道具を秘密裏に捜索させ、その中の一つを使って王都中の人間を魔力に変換吸収させる計画をたてた。


 しかし、これをたまたまとはいえ邪魔したのがダロス、つまり俺だ。

 俺が計画に必要な魔道具を破壊したことまではたまたま把握することができたけど、同時に俺なら古代の巨大魔道具を修理できるかもしれないと考えてしまった魔王は、俺に対して愛する者の記憶を人質に取ろうと考えているのではないか……というのがディオネの予想だそうだ。


「話を整理するぞ?」

「うん」

「つまり、また神様達(てめぇら)のせいって事だな?特にお前。」

「いやもう本当にごめん!」


 やっぱりこの前おっぱいなんかに絆されずディオネを殴っておくべきだったか……。




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