59:
隠れ家を3つ作った俺たち。
現在そこからのトンネル開通待ちです。
それまでは、下手に地下施設に手を付けるとドリルで穴をあけられてしまうため、現在充電期間となっております。
なのに、現在我々は洞窟の中にいます。
休めっつったけどやる気が有り余ってる奴らが多いため、この前変なアリ型の魔獣が湧き出してきた場所を調査することにした。
地上をうろつく狼はともかく、アリが増えて地下の隠れ家に影響が出ても嫌だし、何よりそいつらの巣を調査に来た奴らに隠れ家を見つけられたりしたら目も当てられない。
APL1:ニルファ・ヒルデ
APL2:俺・エイル
APL3:ディオネ・スルーズ
ハコフグ:姫様・(操作は俺)
このような布陣でやってまいりました。
ディオネが家の中ばかりじゃつまらないと文句を言っていたので、わざわざ人形操作のスキルを与えてまで連れ出した。
その付き添いで姫様にも来てもらったけど、姫様に人形操作は無理なため、本当にただついてきてもらっただけだ。
3号を抱きしめてる姿はかなり愛おしい。
こっちはこっちで家の中に籠りっぱなしにしちゃったし、まあちょっとくらい外に出て気分転換してもらった方が良いだろう。
いや、洞窟の中なんだけど。
『アリが1匹もいませんわ!』
「この前ので全部だったのかなぁ……。それならありがたいんだけど。」
『『『振動センサーにも反応ありません。アリどころか、小動物すら確認できないのはおかしいかもしれません』』』
数日前、ニルファが洞窟内にドラゴンブレスを放った際にあふれ出した巨大アリ。
名前は、確か女王トールアントだったっけ。
女王がワラワラとでてくるのは、アリと前世で戦ったことがある人間にとっては悪夢かもしれない。
こっちの世界でも悪夢だけど。
それが残っているかと思って来てみれば、影も形も無いのだから不気味だ。
ドラゴンブレスの出力がアホみたいに高くて、洞窟の奥の方まで焼き尽くしたってだけならいいけど、どうなのかなぁ……。
『ねぇダロス、お弁当はまだなの?結構経ったしそろそろ食べようよ!』
『ディオネ、まだお昼まで何時間もあるゆえ我慢じゃ。』
『えー……。ダロスー!イリアが僕を虐めるよー!』
『妾、一応ディオネの使徒なんじゃが、たまに改宗したくなるのう……。』
姫様が子守り……神守りをしてくれるので大分助かってるけど、任せっぱなしも流石に可哀想だな。
「いったん休憩しようか。ごはんじゃないけど、お菓子とお茶で。」
というわけで、全員でハコフグに集合してティータイムです。
え?周囲警戒しなくていいのかって?
でーじょうぶだ!俺ロボットに乗らなくても操作できるから!
趣味で乗ってるだけでぶっちゃけ洞窟の中に入っていく必要すら本当は無いから!
「いやー、肉体があるっていいねぇ。食べ物にちゃんと味があるもんねぇ!」
「神様の世界だとそういうのないのか?」
「ないよ。栄養を取る必要自体無いからね。中には他の神様を飲み込む頭のおかしい神もいるけど、アレも別に味は感じてないんじゃないかな?」
「ごはんがない生活なんて考えられませんわ……。」
うちのドラゴンがシュンとしてる。
そうだよな……ほっぺパンパンにしながらお菓子食ってる奴からしたらキツイよな……。
会話にも参加せず黙々と食べてる3姉妹みたいなのもいるけど。
「して、ダロスよ。この後はどうするんじゃ?まだかなり奥まで続いておるようじゃが。」
「昼まで探索して、何もなければそのまま撤退かな。別に何か依頼を受けてきてるわけでもないし。アリの巣が地下の隠れ家まで繋がったら嫌だなって思って独断で調査来ただけだから。俺たちの他に調査しに来れる冒険者もそうそういないだろうしなぁ……。」
「僕はこういう場所にくるのも新鮮でいいけど、きっと普通の感性してたらこんな何が出てくるかわからない洞窟になんて入りたくないよねぇ。」
まあ、巨大アリの巣の中にお散歩気分で入っていくのなんて、よっぽど頭おかしい奴か、こうやって休憩場所を確保しながら進めるやつだけだろう。
俺は頭おかしくない。
「そうだダロス!キミに新しい技を教えてあげようと思ってたんだ!」
「新しい技?魔術でも使えるようにしてくれるのか?」
「うーん、技っていうか、スキルの新しい使い方?人形生成なんだけどさ、ダロスっていつも無生物とか無抵抗の生物にしかつかってないでしょ?アレを敵に使ってみようって話。」
「あー、それは考えたこと無かったな。成功すれば、そこから人形操作で勝ち確定かもだけど。」
「成功すればね。でも、大抵の敵はダロスのスキルに対して抵抗するから、何度も何度も繰り返しスキルを使って徐々にその耐性を削らないといけないんだ。」
なんだ。一発で成功するわけじゃないのね。
それだとあんまり実用性無いかなぁ……。
敵の前で必殺技のバンクモーションし続けるようなもんだろ?
「まあ、あんまり役に立たないって思うかもだけどさ、何度も繰り返して人形にさえ出来ちゃえば、どんな強い敵だとしても操り放題なのは、手札としてはかなり便利だと思うよ。」
「殴っても効果ない敵とかでてきたら使ってみるかな。俺って基本殴る刺す斬る撃つしかできないし。」
「ダロスが作る人形たちは、魔法も魔術もバンバン使っとるんじゃがなぁ。なぜダロス本人は、スキルしか使えないんじゃろうなぁ。」
「俺の魂が、魔法が存在しない世界出身だからかもな。」
「未だによくわからん世界じゃな。」
しばらく雑談をしていると、テーブルの上に並べたお菓子が食べつくされた。
丁度いいので、それを合図にティータイムを終了する。
各々が自分の機体に戻り探索再開だ。
暫く進むと壁に突き当たった。
行き止まりというわけではなく、左右に道が続いているT字路といった感じだろうか。
なんだか天然の洞窟はもちろん、アリの巣っぽくもない構造に思えるけど、どこに続いているんだろうか?
『『『主様、センサーで確認した所この左右の通路は、緩くカーブを描きながら進んでいくようです。計算した結果、王都をグルッと1周回るようになっているものかと。』』』
「なんだそれ。何かの遺跡かなぁ?」
『……あー、ダロスダロス。あんまり僕がキミに肩入れすると周りから文句言われるから詳しくは言えないんだけどさ、この穴は通路でもあるけど、同時に魔法陣になってるんだよ。ある儀式に使う奴だけど、キミたち人間にとってはもう害しかないから、ここで破壊しておいた方がいいかも?』
「何それ怖い。早速ぶっ壊そうか。ニルファ!左側の道を100m程人形生成と人形操作で分解した後埋めておいてくれ!右側は俺がやる!」
『わかりましたわ!』
「ディオネはハコフグの護衛な。不自然なアリ型魔獣の大量発生がもし人為的な物だとしたら、目的は恐らくこの魔法陣の防衛かもしれない。破壊しようとしてたらワラワラ来るかもだし。」
『わかった!僕に任せると良い!ちょっと戦ってみたかったんだ!』
うわぁ……すっげー楽しそう……。
女神様なのにトリガーハッピーだったりしないよな……?
洞窟の中だから特殊金属の弾がばら撒かれたとしてもそこまで拾いに来るものもいないだろうと銃を解禁したけど、ばら撒くように撃って味方に当てられるのも怖いんだが……。
まあ、一応味方に銃口向いたら引き金が引けなくなる安全装置みたいなのつけとけば大丈夫か。
気を取り直して、魔法陣破壊作戦を開始する。
といっても、人形生成と人形操作で洞窟表面をどんどん削っていくだけだ。
ここ数日でその手の事は何度もしてきたから慣れた。
あっという間に魔法陣洞窟が200m程砂になった。
『『『主様、振動センサーに反応がありました。大量の魔獣が接近中です。恐らく例のトールアントかと。』』』
「了解!総員撤退しながら迎撃!できるだけ根絶やしにして帰ろう!先頭はディオネ!その後にハコフグ!後ろに俺とニルファがつけばアリなんて怖くない!」
『わかりましたわ!』
『『『了解。』』』
『ヤバイ!この緊迫感が堪らないよ!』
『緊張感のない女神じゃな……。』
うん、怖くない。
戦力的には、かなり過剰なほどだ。
ニルファが慣性制御無しでもAPL2機で殲滅できる程度の相手だ。
問題は……。
『『『主様、おぞましくて鳥肌がたちました。』』』
『気持ち悪いですわ……。』
『あはははは!本当に虫だらけだね!』
『妾、もう外に出るまで目を閉じておくことにする……。』
大量の昆虫が暗闇から群れを成して向かって来て、先頭から順に弾けていく。
地球を防衛しているような気分になるけど、とりあえずキモイ。
もうやだ……焼こう……。
「ニルファ、ドラゴンブレスで一気に焼いちゃってくれ。」
『その方が楽そうですわね……。行きますわよ!ドオオオオラゴン……ブレエエエエエエス!』
そんなに技名を力を入れて言わんでもいいとは思うけど、やっぱりブレスは手から出るのか。
まあいい。
とりあえずかなりの数のアリを焼き払えたようだ。
洞窟だから敵が密集していて攻撃が当てやすいのも良い。
入ってきたときは、半分ピクニック気分でゆっくり進んでたけど、帰りはハコフグの全力疾走にAPLが合わせて進んでいる状態なので、すぐに洞窟から出る事が出来た。
振り返ると、かなり減らすことはできたけれど、それでもまだまだアリがいるようだ。
そのアリたちを、APL1のブレスと、APL2と3の銃でバンバン撃っていると30分程でアリの反応が無くなった。
どうやらやっとアリを殲滅できたらしい。
「もったいないけど、今から戻ってアリの素材集める気にはならないな。」
『アリなんかよりお昼ご飯が食べたいですわ!』
『お昼なの!?とうとうおひるごはんなんだね!?』
『いやいや、もう少し離れてからにした方がいいじゃろ……。巨大アリの巣の近くで食事なんて妾いやじゃ!』
というわけで、洞窟から少し離れた森の中で、ハコフグの中に皆で集まってます。
ティータイムと一緒ですね。
昼食は、洞窟の中で食べる可能性が高かったため、手軽に食べれるサンドイッチだ。
俺と姫様は普通サイズの容器だけど、大食いのドラゴンと地味に黙々といっぱい食べる3姉妹の分は、トランクケース数個分の弁当箱……というかコンテナみたいなものに入っている。
これが、すぐに食べ切られるというんだから驚きだ。
「ディオネも俺や姫様と同じ量のサンドイッチ用意してあるけど、足りなかったらニルファたちに混ざって食べてくれ。ただ、アレは結構すぐ無くなるから、食べるなら急いで。」
「いや、僕はこれだけで十分。食べるのは好きだけど、食べ過ぎて苦しくなるのは嫌いなんだ。」
そう言って、上品に食べ始めるディオネ。
ボーイッシュな感じだから、なんとなく胡坐で座ってモリモリ食べそうに見えるけど、意外と女の子らしい食べ方でちょっと興奮する。
「キミさ、今何か失礼なこと考えてるでしょ?」
「そんなこと無い。可愛いなって思ってただけだ。」
「……そう?今、神の権能ほとんど使えないから、思考を読み取ることもできないし、ただの勘で推測するしかないんだよなぁ……。」
そう言いながら、顔を赤くするディオネ。
案外コイツも可愛い奴じゃないか。
度々めんどくさいけど。
「それにしても、サンドイッチはやっぱり手軽でおいしいな。」
「妾は、やはりこの卵サンドが好きじゃな!カラシの刺激とマヨネーズと卵のコクが堪らんのじゃ!」
「僕は、この鳥の照り焼きサンドかなぁ。お肉!って感じの方が好きみたいだ。」
会話も織り交ぜながら、楽しく食べる3人。
「美味しければなんでも構いませんわ!とにかく量がほしいんですの!」
「「「もむーももむももむもむ!(フルーツサンドおいしいです!)」」」
ほっぺをパンパンにしながら貪るドラゴンと幼女3人。
対照的な食事風景だけど、とりあえず両グループとも幸せを感じられる食事ではあるのだろう。
大事。大事だよそれが。
食べてる時に楽しめてるってことは、それだけ人生が充実している証だと思っている。
慢性的に食事時間すら仕事しているような状態だと、世界の色が無くなるというのを本当に体験することになるから。
よく食べよく寝よう。
ストレスを貯めない生活を心がけないと、案外人間は簡単に心を壊してしまう。
というわけで、家族たちの平穏を守るために、飯を食いながらオオカミの群れをこっそりAPLたちで狩りまくる俺でした。




