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人形生成によって、この部屋の表面付近を人形化する。
城全体ならともかく、この部屋だけであれば、5号を作った時のような過負荷にはならないだろう。
神粘土と違って、不純物も多く、材質変化もできないけれど、単純な形状変化させるだけなら問題ない。
その形状変化は、人形操作で行えるし、その素材が石材であるというなら、尖らせると人形強化で金属鎧でも貫く。
すると、ご覧の有様になる。
「がああああああああああああ!?」
「腕が!うでがあああああああ!」
「ばかな!?足が床に縫い付けられて……!」
円卓に着いてた野郎たちは勿論、周りにいた護衛と思われる騎士たちも、部屋の床や壁から突き出たトゲで手足を貫かれている。
返しもついてるから簡単には抜けないはず。
「エグイのう……。」
「人の家族に手を出そうとしたんだ。死んでないだけマシじゃないか?」
「それはそうじゃの。逆にこやつらは、おぬしを無理やり従わせようとたくらんでおったわけじゃしな。」
まあ、家に残してきたメンバーなら、そうそう害されることも無いだろうけど、だからと言って許してやる筋合いも無い。
「それにしても、兄上はかなり痛そうじゃな……。」
「流石にこいつは躾が必要だろって思ってさ。」
他の奴らは、とりあえず動けないようにできれば良いやと思って手足を貫いているだけだけど、この第1王子だけはそうもいかない。
手足はもちろん、尻と乳首も貫いてやった。
尻は、痔にしてやろうと思った。
乳首は、なんか汚いから見たくなくて……。
「貴様……!この俺にこんな……!」
「いや、この俺にっていうか、お前だからこんなことになってんだろ。」
お前さえ変な事しなければ、俺だってこんなスプラッタな光景作りださないよ。
それに、俺自身に決闘でも申し込んできたなら、それ相応に無難な対応だってするさ。
「あのさぁ、狙うなら家族はダメだろう家族は。お前今までもそんな事してきたのか?」
「ぐっ!ああ!?」
乳首に突き刺さってるトゲを上下させてみる。
結構痛そうだ。
「もしかしたら、そこで痛みに震えてる連中の中にも、家族を人質にされてる連中もいるのかね?」
「かものう。まあ、だとしても他の者を害して良い理由にはならんがの。」
「でも、こいつら見逃したらまた同じことするんじゃないっスかね?今ここで全員殺しておいた方がいい気がするっス。」
「うーん……。」
でもなぁ、流石に俺の仕業だってバレる形で王子や貴族殺しはしたくないなぁ。
今回は、完全にこっちが巻き込まれてるだけだけど、醜聞になっちゃうしなぁ。
「それなら、ダロスがこやつらを見張る人形でも作れば良いのではないか?」
「あー、見張りを付けるのか。それはいいかも。どんなのにしようかな?」
「常に傍に置けて、尚且つ命を奪いに来る凶悪さを持ってる感じのデザインが良いっスね。」
というわけで、神粘土を大量に生み出します。
作り出したのは、眼鏡が似合う美少女型人形1人と、部屋の中で張りつけになっている王子以外の49人と同じ数の黒い塊。
美少女型には、犯罪は起こさない程度にサディストで、後はランダムにデザインされた魂を。
黒い塊たちには、機械的に只管問題行動を判定する冷徹さ以外ランダムの動物型魂をそれぞれ付与した。
「初めまして主様、生み出していただき誠にありがとうございます。」
起き上がった美少女型が挨拶をしてくる。
服装は前世でのできる女感があるパンツルックのスーツ。
その美少女型の挨拶に合わせるように、一糸の乱れも無く敬礼をする黒い塊たちは、子熊のぬいぐるみだ。
「よろしくな!お前の名前は、カリストだ。子熊たちはアルカシリーズ。早速だけど、これからお前たちには、ここにいる奴等をそれぞれつきっきりで見張ってほしい。俺や俺の家族を害するような事を企んだら、その時点で殺せ。特に、この第1王子に関してはカリストが担当して、勝手な事をさせるな。真面目に仕事させて、無難な王族になれるよう制御してくれ。」
「かしこまりました。」
そう言うと、カリストは第1王子の傍に立ち、子熊たちは他の野郎たちの元へ向かった。
子熊の人形といっても、強化もしてあるために簡単にこの部屋にいる騎士程度なら殺せる。
全員に見張りが行き渡ったのを確認し、姫様に確認する。
「姫様、ここにいる全員の傷を出血しない程度まで治すことってできる?」
「できるぞ。刺し傷程度であれば、スキルなど使わぬでも範囲魔術のみで事足りるのう。」
「じゃあ今から、全員のトゲを引き抜くから、死なない程度に治してやって。」
「心得た。」
一気に、トゲトゲを抜いてあげる俺。
返しはそのままだから、これまでで一番の悲鳴が辺り一面から上がる。
「エリアヒール!」
そう姫様が唱えると、みるみる野郎どもの傷が塞がっていく。
先ほどまでの苦悶の表情がウソのように、安らかなものになっていく。
……あれ?でも第1王子の乳首は、傷は塞がっても治んねーな?
「これって傷を塞ぐだけなの?」
「そうじゃな。欠損部位の再生はできぬ。治すスキルは……魔力が足りなくて無理じゃの~。」
やろうと思えばできるのか。
やる気が無いだけで。
すげーな姫様。
俺の人形生成による治し方とはやっぱりちがうっぽい。
粗方の傷が塞がって、落ち着く面々たち。
すると、部屋を護衛していた騎士っぽい奴が鬼の形相で立ち上がった。
「おのれぇ!よくもこのわ」
そして、首から上が消し飛んだ。
アルカによる単純な殴り一発である。
「お前たちには、俺が見張りを付けた。こいつらから逃げようとしても無駄だ。その小さな子熊だってお前たちより強い。俺よりも強い。それよりもさらに強いのが、このカリストだ。こいつは第1王子に着ける。変な事をしないように見張らせるから。もし、俺たちに害成すような事をすれば、その時点でお前たちの命は無いと思え。」
どうやら、大半のおっさんたちはもう心が折れてしまったらしい。
抵抗する気も無いようだ。
第1王子は、一度は抵抗しようとしたようだが、カリストに左手の指を折られて観念したらしい。
サディストにはしたけど、流石にそこまで直接的な暴力で躾けてくるとは正直思ってなくて、俺もちょっとビビってる。
「カリスト、後は任せるぞ。」
「お任せください。きっとこの変な乳首を立派なマゾ豚に仕上げて見せます。」
そんなことは頼んでない。
「じゃあ帰ろうか姫様、ナナセ。」
「そうじゃな。」
「了解っス。」
戦慄の会議室を後にする俺たち。
今日あの場にいたおっさんたちは、これから愛らしい子熊のぬいぐるみを抱えて生きていくんだ。
周りからは暖かい目で見られるだろう。
本人たちの心は常にスリル満点だろうけど。
「そういや、第3王子もあんな感じでサロメを人質として手籠めにしようとして返り討ちにあったらしいんだよなぁ。この国の王子どうなってんの?」
「返す言葉もないのう。因みになんじゃが、第2王子に関しては妾も良く知らん。会話すらしたことないくらいじゃ。」
「王族って大変だな。家族を家族として認識できなくなっちゃう生活なんてなぁ。」
「妾もそんなのは願い下げじゃな。……おぬしとの子供には、そんな思いさせたくないのう?」
「何人欲しい?」
「とりあえず2人じゃな……。」
よし!やる気が出てきた!
「ジブンともちゃんと赤ちゃん作ってくれるんスよね!?」
「今夜からでいいか?」
「……衣装の希望はあるっスか?」
まずはそのメイド服かな?
王城から出て、城下町へと入る。
振り返ると、白亜の城が聳え立ち、どんな汚れも許さないような清廉さを感じさせる。
中身に住んでるのは、碌でもない奴らもいたけども。
「なんかさぁ、田舎に引っ込みたくなったよ俺。」
「田舎とはどういう所をイメージしとるんじゃ?」
「そうだなぁ。適度に山と海があって、白いビーチに行けば皆で安全にキャッキャうふふができて、山へ行けば、皆で楽しくキャンプでキャッキャうふふができるような場所かなぁ。」
「おぬし、キャッキャうふふとやらがしたいだけでは無いのか?」
そうだよ!
今の俺に足りないのはそういうの!
「姫様と結婚したらさ、もう家族みんなで静かな所に引っ越さない?」
「小さい子供を育てるなら、王都の方がいいのではないかのう?」
「あー、それはあるかもなぁ……。」
薬とかは、王都にでもいないと流通量少ないか?
もしかしたら、姫様でも治せるかもしれないけど、姫様頼りも悪いしなぁ。
「あの第1王子をカリストがマトモに調教してくれるのを期待するしかないのかなぁ。」
「第2王子が何してくるかもわからないっスけどね。」
「憂鬱になるわ。」
この国の未来、は正直あんまり興味が無いけれど、自分とその家族の未来に憂いを抱きながら、自宅へと鋼鉄の馬車で走る俺たち。
今日はもう、何もする気が起きないくらいに疲れてしまっていた。
それでも、つかの間の平和を家族と楽しむために、家に着いたら笑顔を崩さない。
ディとフレイによると、俺たちが城にいる間に数人の暗殺者が攻め込もうとしたらしいけど、全員ガラテアの結界で消し飛んだらしい。
結界って、そういうものなんだなぁ。
食事の時間。
やはり、義理の父になる国王様と姫様談義をしながらの食事も悪くないけど、こうして家族で食べるのが一番いいなぁ。
家族みんなで集まって仲良く食事できる日々が続けばいいんだけど……。
そう思いながら、ナナセが作ってくれたやけに精力がつく料理を食べる。
不思議なもので、人はご飯さえ食べればヤル気がモリモリ出てくるものだ。
先ほどまでの陰鬱な気分も、今この瞬間は気のせいだったのではないかとすら思えてしまう。
こんな俺にも、皆のためにヤれることはあるはずだ!
1週間後、ガラテアの解析魔術によって、ナナセの妊娠が発覚した。




