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「……んで、ティティアさぁ、何故キミはここにいるんだね?」
「ダロス様のお嫁さんになるためです!ダロス様に喜んでもらえそうなもので、我が国が提供できる対価はこの位しかございませんので!」
「人身売買かな?」
ゼウスと戦った翌日。
頭痛・眩暈・吐き気・疲労によってなぁなぁで色々処理していた結果、とんでもないことになっていました。
ティティアには、今回の件でヒロインになってもらわないといけないんだよ。
真聖ゼウス教皇国でな。
それなのに俺と一緒に来たら、俺まで巻き込まれちゃうじゃん!
対真聖ゼウス教皇国戦争では、ゼウスとの戦争以外はばっちり撮影出来ていたらしく、世界中のテレビで皇女が国を正す行程を観ることが出来たらしい。
それはもう視聴率もとんでもないことになっていて、合間合間に挟まるCMのお店は、当日から既に大混雑だったとか。
そのお陰でCM依頼が殺到しているそうで、商売は上々だとイレーヌが言っていた。
今度、イレーヌ自身もコンサートを生放送するらしい。
ジョブ的に歌上手いからなウチの嫁。
戦場には、まず連れて行かないから、今の所『戦歌姫』というジョブが有効活用できたことは無いんだけど……。
話が逸れた。
「とにかく、お礼で結婚なんてダメだろ。もっと自分を大切にしなさい。」
「……ダロス様は、私で欲情しませんか?」
「そう言う話じゃなくてだな……。」
何故そんな泣きそうな顔をするんだい?
俺は、女の涙には弱いぞ?
「俺は、今回の件で特別対価を要求しようとは思ってないぞ?」
「しかし!何も無しでは、国としての沽券に関わります!」
「それならもっと別の何かでだな……。そりゃ貴族とか王族なんて奴らの結婚なんて、政治的な駆け引きで勝手に決まってしまう事が多いんだろうけどさ。ティティアは、今全世界で人気急上昇中なんだから、選べる時にわざわざ目先の男に入れ込む必要なんて無いんだぞ?」
「別に男性が好きなわけではありません!貴方が好きなだけです!だから大丈夫です!」
「うーん……。」
結局、ああいえばこう言うという感じで、国へ帰る気は更々ないらしい。
だからと言って、そのまま結婚というわけでも行かないので、妥協案として親善大使として滞在してもらう事になった。
テレビで演説したり、王様に会って今後の事を話しあっている風を装ってもらう。
ただ、彼女は真面目だし素直だから好感を持てるけど、別に外交の手腕があるわけでもない。
今まで大した役割も持っておらず、ほぼ軟禁状態だった女の子にそれを期待するのは酷だろう。
だから、アドバイスできる人材が必要なんだけど、じゃあ真聖ゼウス教皇国にそういう人材を派遣してもらおうと思っても、そもそもあの国自体が宗教団体に牛耳られていたため、恐らく国の中枢にそんな都合のいい奴はいないんだよなぁ……。
ティティア第一皇女以外で、唯一あの国から派遣されている人材はと言うと……。
「……。」
「いつまでそこでそうしているんだ?別に怒ってないって……。」
「そうはまいりません!操られていたらしいとは言え、大恩あるダロス様に対して私の行ったことは決して許される事ではなく!」
「許してるっつってんだろ!」
今、目の前で土下座しているエイラ・ホーライ伯爵様。
土下座の文化ってこの世界にもあるんだな、なんて変な感心をしてしまう。
俺と同い年らしいけど、既に伯爵として仕事をしているらしい。
まあ、領地経営等ではなく、皇族の護衛をする近衛騎士団団長をしているらしいけど。
ゼウスに洗脳されて、洗脳用魔道具を俺に押し付けた人でもあるわけで、本人はかなり気にしているらしく、意識が戻ってからずっと土下座している。
今はまだハコフグの中でやってるだけだけど、家帰ってからもこの調子だったら家族にどう思われるんだろう……。
「なぁ、今からでもいいから帰ってくれない?」
「ダメです!それでは筋が通りません!どうか罰を!体罰でも仕事でもなんでも構いません!経験はありませんが、卑猥な事でも大丈夫です!」
「ますます人身売買染みてきやがったな。」
あの国の人たちからの俺に対する評価ってどうなってんだ?
女を買いあさってるように見えてんのか?
しかたなく、親善大使として滞在中のティティアの護衛として雇う。
なんで俺が他国の貴族の雇い主になってるのか知らんけど、そうでもしないと気が収まらないらしいので仕方ない。
しかも、給料を払おうとしたら断固辞退されて困ったので、無理やり押し付けるのに苦労した。
というわけで、現在ティティアをサポートする執政官的な人材が足りてないわけだ。
仕方ないので、人形で作るか……。
と、その時、そういえばゼウスを倒した後にジョブレベルが上がっていたっぽいのを思い出した。
人形作るのに何か有用なスキルが増えていないか確認するか……。
―――――――――――――――――――――――――――――
神人形師:レベル10
解放スキル:人形生成、人形操作、人形強化、神粘土、魂付与、遠隔操作、複数操作、神魂支配、ディオーネー、魂簒奪(小)、魂身逆算、アストライア
―――――――――――――――――――――――――――――
……………………………………………………あすとらいあ?
説明によると、ディオーネーってスキルと同じように、アストライアの分け御霊を呼び出せるらしいけど、誰だよアストライアって?
わからないけど、多分ディオーネーと一緒で呼べって事なんだろう。
しかたなく、アストライアを起動して、出てきた魂から魂身逆算を行って体を作った。
そして、完成したその顔を見て、ハコフグの中が騒然となる。
「ゼウス!?何故ゼウスがここにいる!?」
「まさか、またダロスが操られてんの!?」
そう叫ぶ魔王と勇者が、俺を目覚めさせようと何発か殴ってきたけど、俺はたん瘤があるくらいで元気です。
たん瘤がすげー痛いけど、元気です。
ゼウス(仮称)が目を覚まして、俺たちと目が合う。
「失礼、貴公がダロス殿で相違ないか?」
「……ああ。貴方は?」
「申し遅れた。私はアストライア。貴公らが倒した神に飲み込まれていた間抜けといえば伝わるか?」
「あれ?アストライアじゃないか!どうしてここに!?」
「ディオーネーか?噂には聞いたが、本当にこの世界にいるのだな……。」
あーはいはい。
ディオネが、ゼウスから神を抜いたって言ってたもんな。
そういや、ゼウスが顕現する時に、取り込んだ女神の中で一番強い体を選んだって言ってたっけ?
強い体と言う事は、強いという事です。
こっわ……。警戒しとこ……。
「その女神様が何用でここに?」
「いやなに、助けられた神の代表として、礼を言いに来ただけだ。感謝の気持ちとして、とりあえずジョブレベルを上げさせてもらったが、他に何か希望する物はあるだろうか?体で払うのが一番手っ取り早いのではないかと思うのだが……。別に私がしてみたいわけではないぞ?」
「嘘だー!アストライアだって絶対自分で赤ちゃん産みたいと思ってるー!」
最後の方はスルーするとして、希望する物……?
おっぱい……?
「正直、いきなり言われても困るというか……。そんなに気になさらなくても結構ですよ?気にくわないから処理しただけなので。」
「それでは困る。現時点でも、相当数の女神たちが、助けてもらった礼にとこの世界に顕現して貴公と交尾し、孕んでみたいと叫んでいるのだ。礼と言いながら、己が興味本位である事は明確であるために引き留めているが、そろそろ暴発が起きても困るのでな。何かしらの形で礼をさせてもらいたい。」
「って言われてもなぁ……。」
その時、先ほどからの悩みを思い出した。
神なら、何とかならないだろうか……?
「このティティアを親善大使として受け入れたいんですけど、本人にあまり経験がないので、補佐する人材を探してたんですよ。アストライア様の方で用意して頂けませんか?」
「ふむ……。その者は、私の加護を受けし者だな?」
「え?そうなの?」
「はい!真聖ゼウス教皇国は、元々真聖アストライア教皇国という名前でしたので!」
「うむ。ゼウスに取り込まれてからは、随分好き勝手をされていたようだがな。」
そう自嘲気味に笑って、少し考えるアストライア様。
おっぱいがプルンと揺れてる。
「良いだろう。その娘の補佐、私が承った!」
「…………へ?」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
「うむうむ!我が信徒を助けるのも久方ぶり故、これもまた一興だ!」
ご機嫌な様子のアストライア様。
でもなんだろう……、この人からは脳筋の波動を感じる……。
大丈夫なんだろうか……?
「アストライア様は、交渉事が得意だったりするんですか?」
「うむ。私は、権能によって相手の主張が正義か悪かを判別することが出来る。私の前で、悪意のあるウソは通用しない。それに……。」
話を遮り、拳を見せつけてくる女神。
先程まではスラっとした印象だったのに、力を入れた瞬間ピッチリ目の服の上から筋肉の筋が見えるようになった。
「大抵の場合、力こそ正義だ!」
うん、脳筋だ。
石橋を叩き壊しながら進むタイプ。
まあ、正義の女神らしいので、そこまで酷いことはしないだろうし任せておくか。
エイラの土下座先も、いつの間にかアストライアの方に変わっているため、それはそれで好都合だ。
「そういえばアストライアの交渉って、8割がた肉体言語だけど大丈夫かな……?」
「ディオネさぁ、そう言うのは先に言って?」
「だって話すの久しぶりだし……。」
大丈夫……だよな……?
「じゃあまずこれからの計画なんだけど、大筋として今回の戦争の功績は、ティティアに殆ど全てを被ってもらう。これは、ティティアのためだ。」
「……待て。貴公、少し悪ポイントがたまったぞ?何か嘘をついていないか?」
そう言って拳を見せつけるアストライア様。
なんだよ悪ポイントって!?
こえーよその拳!
「……正確に言うなら、俺にとってもティティアがメインになってくれた方がありがたい。真聖ゼウス教皇国側から貰いたい褒賞なんて無いし、自国内でも最近やっかみが面倒だから。」
「ふむ、悪ポイントが下がった。本心のようだな。」
拳を下げるアストライア様。
ポイントを稼いだらどうなるのかよくわからないけど、正直に行こう正直に……。
「まずは、王都に着き次第ティティアには、カメラの前で王様に感謝を述べてもらいたい。その上で、神聖オリュンポス王国内の聖教信者たちに対して、今後汚職は一切認めないって宣言してくれ。特に聖騎士は、現状腐りきってるみたいだから、重点的に叱責してほしい。」
「わかりました!」
「おお!正義ポイントが上がったぞ!これは素晴らしい提案らしい!」
悪の反対のポイントもあるのか。
これはもうわかんなくなってきたな。
「とりあえず最初はそんな感じかな?その後は、臨機応変に行こう。」
「ねぇダロス、アストライアに臨機応変な判断なんて無理だよ?」
「うるさいぞディオーネー。私は、どんな問題もたちどころに解決して見せる!」
「あのねアストライア、臨機応変って言葉の意味わかってる?」
分霊とは言え、目の前で女神2人があーだこーだと言い合ってる。
それを知ったら、きっとこの世界の大半の人間たちは驚愕して失禁することだろう。
エイラなんて、とうとう土下座どころか地面にうつ伏せになっている。
……いやまて、それって敬っていると言えるのか?
一方ティティアは、目を輝かせながら女神たちの一挙手一投足を目に焼き付けている。
案外肝が太いのかもしれない。
まあ、1人で魔物の森を突破してきた猛者だからなぁ……。
「マルター、マヨネーズとってー。」
「申し訳ございません。今私が使ったので空になりました。」
「……え?昨日の夜開封したばっかりだったよね……?」
それに引き換え、体力回復のためと言ってこちらを無視し黙々と食事をしている聖女と勇者。
まあその他のうちの家族たちも、大半が寝てたり食ってたりだからいいんだけどさ、一応お前らがいた国の話だからな……?
「そういえば、貴公、先ほどから気になっていたのだが……。」
唐突に、アストライア様の視線がこちらを向く。
大丈夫そうだとは思っているけれど、今でもやっぱり多少は警戒心が働いている俺。
あの拳、振るわれたら痛いだろうなぁ……。
怖いなぁ……。
「ディオーネーの事はディオネと呼んでいるのだから、私の事も愛称で呼ぶべきでは?」
「え!?」
「一応言っておくが、私だって女の子なのだぞ?友人からは可愛く呼ばれたい。」
「はぁ……。え?女の子?友人?」
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