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ゼウスの首が斬れた瞬間、人形操作が完璧に効くようになった。
抵抗力が切れたという事なんだろう。
今更かという気がしないでもないけれど、少なくとも神相手に支配の押し付け合いをする苦痛は無くなっている。
奴がキッチリ死ぬまで、人形操作と神魂支配を解くわけにはいかないし、その苦痛が無くなるだけでもかなり楽ではある。
ふと気がつくと、俺の頭に回復魔法をかけていたディオネがいない。
っと思ったら、ゼウスの頭をキャッチしに行っていたようだ。
「こんな事になって残念だよゼウス……。僕は、キミを許してあげることができない。だから、このまま消滅してもらうよ。でもその前に……。」
そう言うとディオネは、ゼウスの頭を両手で挟むように持つ。
すると、ゼウスの頭が光り始め、中から何かが出て、そして見えなくなった。
「ディオネ、今の何?」
「ゼウスに飲み込まれてた神々を解放したんだ。彼は、他の神を取り込んで強くなっていたからね。このまま消滅させちゃうと、彼らも消える所だったし。」
「へぇ……。神様ってそんな感じなんだ……。因みに何人……何柱?くらいの神様がいたんだ?」
「1000以上かな?」
1000以上の神様が犇めく体内ってどんなんよ?
寄生虫だらけの魚を捌いた時みたいなの想像したわ!
「受肉した状態の神に輪廻転生なんてものがあるのかは、神である僕ですらわからないけれど、もしキミに来世があるのなら、その時は仲良くできるといいね?」
そう語り掛けるディオネ。
ゼウスの方は、既に口と呼吸器と繋がっていないために、話すこともできていない。
だけど、その表情からして好意的な返事は期待できないだろう。
口をパクパクしながら、憎悪の表情をしていたゼウスは、次第に生命の感覚が薄れていき、やがてただの肉でできた人形へと戻った。
「うん、これで終わり!ダロスも皆もお疲れ!」
「あ、最後にまとめるのディオネなんだ?」
「だって、今余力残してるの僕くらいだからね!」
それを聞き、辺りを見回す。
頭がガンガン痛くてフラフラしている俺は置いておいて、目立つのは倒れ伏すロボットたち。
中にいるのは、支配から抜け出そうとして無駄に体力を使ったらしく、疲れた様子のニルファと、何とか状況を打破しようと、外の様子が分からない状態で極度の緊張状態だったせいで、モニターが復活した瞬間力が抜けてへたり込むローラ。
ヒルデたち3人は、お腹が空いたとジェスチャーしている。
喋るのもめんどくさいらしい。
人質にされてた人たちは、何が何だかわからないと言った表情でへたり込んでいる。
俺に変な魔道具押し付けた女性は、未だにビクンビクンしながら泡吹いてるけど、段々表情が光悦のモノになってきていて怖い。
そして、今回のヒーローである3人は……。
「アダダダダ……無理に剣振ったり走り回ったりしたせいで、体中痛いんだけど……!」
「貴様は、まだまだだな……!我は……何故か翼が痛い……!使いすぎて翼を消しても感覚が消えていない……!」
「魔王との戦いによる100倍と……身体能力を10秒間50倍にするスキルを併用したせいで……笑っちゃうほどの筋肉痛ですねぇ……。」
死屍累々といった状態。
回復してやりたいけれど、今の俺の状態だと繊細な治療は厳しいだろう。
筋肉痛くらい、ご飯いっぱい食べて治してくれ……。
「てかマルタ、回復魔法はどうした?」
「……身体能力を10秒間50倍にするスキルを使うと……効果時間終了後に魔力がすっからかんになるんですよぉ……。」
「セリカは、回復魔法もってないのか?」
「私も魔力を剣に全部注ぎ込んですっからかんだわ……。」
「ルシファーは?」
「我も同じようにドバドバ剣に突っ込んですっからかんだ……。」
ダメらしい。
驚きのすっからかん率。
まあ、ディオネが気が向いたら治してくれるさ。
とにもかくにも、この戦争はこれで終わりだろう。
とは言っても、この国にとってはここがスタートラインなんだろうけど。
「ティティア、勝鬨を上げてくれ。」
「え!?えええと、勝鬨ってどうすれば!?」
そう言えばこの娘、勝った事ない人生だったな……。
「そうだなぁ……。神様を倒したし、台本54ページ目の4行目を読み上げて。」
「わ……わかりましたっ!」
そう言ってフンスっと気合を入れたティティアは、マイク片手にカメラに向かってポーズをとる。
「聖教を歪めた元凶たる邪神と、それに与する神官たちを討伐しました!我々の勝利です!」
そう言って、剣を引き抜き空へ向ける。
活気だつ人質組。
皇帝陛下なんて号泣してるぞ?
この泣き方、多分皇帝の権威の復活とかそういうのじゃなくて、娘の晴れ姿に感動しているだけだな。
「こんな感じでどうでしょうか……?」
「上出来上出来!今回の戦争のヒロインはティティアだ!」
これで、面倒な賞賛なんかは全部押し付けられる。
もっというと、褒賞も辞退しやすい。
「褒美として領地をやろう!」なんて言われようものなら目も当てられない。
今まで滅茶苦茶されていた国を再建するのは並大抵の事では無い。
これから数年、下手をすると数十年は、できるだけ関わりたくない。
じゃあお金とかお宝なら欲しいか?と言われても、お前らにそれ払う余裕ねーだろ!
って言いたくなるから貰いたくないしなぁ……。
今回の俺の目的は、鬱陶しい聖教のお片付けだった。
ルシファーが魔王になる切っ掛けになった神まできっちり排除できた以上、報酬なんてもう要らんのです。
こちらからは、本来手出しができない存在がわざわざ倒されに来てくれる可能性は、あまり高くなかっただろうから、現状でも宝くじが当たったくらいの幸運だと思う。
まあ、何だかんだでティティアとも仲良くなっちゃったし、国の再建に強い人形でも作って派遣するくらいはしてやろうかな?
ただ、今はちょっと頭痛いんでまた今度で……。
俺は、人質が乗るために作ったコンテナに脚を生やして、独立したハコフグにした。
かなり機能を制限した物で、今ここから人間を城まで運ぶためだけの機体だ。
自動運転なため、俺が頭痛に耐えながら色々する必要もない。
「じゃあ、城まで送り届けるので皆さんこれに乗って下さい。我々は、この場でしばらく休憩した後国へ帰りますので、ここでお別れです。」
「待って下され!流石にこの国の救世主様をなんのお礼も無く返すわけには!」
皇帝陛下、めっちゃ腰低い。
でもね、もう疲れたし、お礼とか要らんから帰りたいんよ。
「そのお気持ちだけで十分です。我々は、ティティアの友人として動いたに過ぎませんので。」
「なんと……!?」
皇帝、感極まって涙ぐんでいる。
いいから早く簡易ハコフグに乗り込んで帰ってくれんか?
「貴殿らの尊き精神、深く理解いたしました!神よ!この巡りあわせに深い感謝を!」
皇族並びに貴族の方々が一斉に神に祈りを捧げ始める。
やっぱ皆さん信心深いんですね……。
でも、そういうの良いから早く乗れっつってんだろうが!
「では、ティティアよ。誠心誠意、ダロス殿に尽くすのだぞ?」
「はい、父上!」
そう言って、皇族と貴族たちは簡易ハコフグに乗り込み、城へと帰って行った。
ティティアと、俺に変な魔道具を押し付けて、未だにビクンビクンしてる女の子を置いて。
「あん?なんでティティアが残ってるんだ?」
「何故って……私がダロス様と結婚するためですけれど?そう言うお話だったと思っていたのですが……。」
「……そっか……。うん、正直なんかよくわからんけど、もう面倒だから連れて帰るよ……。」
「はい!」
エギルギアで強化されているティティアは、ビクンビクンガールを抱えてハコフグへと乗り込んでいった。
なんでそんな話になったんだっけ?
頭が痛くて考えが纏まらない……。
そういえば、さっきジョブレベルが上がった感覚が久しぶりにやってきたけど、ちょっと今は確認してらんない……。
「ディオネー、そろそろ撤収したいし、ちょっとそこら辺で倒れ伏してる奴らに回復魔法かけてやってくれる?」
「え?僕はダロスに回復魔法かけ続けてたのと、ゼウスから神を抜くので魔力使い切ってすっからかんだよ?」
お前もかディオネ。




