宵の明星
金星は、地球より太陽の近くを公転しているから、明け方と夕方に見ることができる。、って言ったのは誰だ!
学校帰り、ズタボロになりながら見た夕焼けは赤く、眩しすぎて金星なんてどこだかわかんなかったよ。
今日は一日中駆けずり回っていた覚えしかない。
それが青春なのか?
そんな青春なんていらない!
聞いたことがある。妖怪が、人間の1日の記憶を食べてお腹いっぱいになるんだ。その間、妖怪はその記憶の主の姿になって、記憶を反芻するらしい。だったら、今日のぼくの記憶、食べておくれよ。
赤い夕焼け雲はやがて、紫のグラデーションに変わり、地上のオーケストラは新世界交響曲を奏でる。
壮大な1日の締めくくりに相応しく、地球が踊っている。
遠き山に日は暮れて♪
ああ、やがて逢う魔ヶ刻がやってくる。黄昏。たそがれ。誰ぞ彼。
「みろよ、金星、出てるぢゃないか」
言われて、ひときわ明るい星を見つめた。
自然と涙がこぼれて、ふと気づく。今の誰?
「よーかいだ、よーかいがでた!」
なにしろ、今日の記憶は空っぽになっている。
やがて来る夜に向けてパノラマの景色が広がる。
ぐすん、と鼻を鳴らして、とにかくいい日だったな、と思った。