最終話 エピローグ それでも世界は…
掴んだ未来でその老人は一人思う。
エリンからほど近い丘の上、そこに一人の老人が住んでいた。
老人はいつものように自分の部屋の窓から見えるエリンの様子を見ていた。
「__。体の調子はどうですか?」
そこに若いと思われる女性が食事を持ってくる。
「ああ、悪くない。…寝たきりにしたらな。」
老人は何とか上半身を寝ていたベットから起こすと笑顔でそう言った。
この老人は九十五を越えているがこの時代においては寝たきりにしては早すぎるとされていた。
医療技術が発達し平均寿命は百五十ほどであった。
しかし老人はあらゆる延命の治療を断り続け今に至る。
そして今、この老人は老衰にてこの世を去ろうとしていた。
老人は死期を悟るとこの丘に家を建て女性と二人で暮らしている。
「…フフ。」
「どうしました?__。」
食事の粥を食べ終わると老人は突然笑みを零す。
女性が理由を聞くと彼女の方を向きながら老人は嬉しそうに語る。
「いや、お前との付き合いも随分長くなったな、と。」
「…そうですね。…本当にそう。」
老人と女性は長い、本当に長い時間一緒にいた。
その一緒にいた時間は女性にとって、そして老人にとってかけがえのないものとなっていた。
「…最近になって思う事がある。」
「何を…ですか?」
「この九十年以上にわたる人生、自分なりに一生懸命に走り続けてきたつもりだ。その中で戦いも山ほど経験してきた。」
「…はい。」
「その中で英雄と表される事もあった。…しかし思うのだ、別に俺だけが英雄ではないのだと。あの時、あの時代に命を懸けて戦った者たちその全てが英雄だったのだ…と。」
「…。」
女性は同意も否定もしなかった。
自分なりに言いたい事はあったがこれは老人が一生を懸けて導き出した答えである。
その答えに安易に肯定や意見をしてはいけないと思えたのだ。
老人はその女性の様子を笑みを浮かべながら更に言葉を紡ぐ。
「そうして散っていった者らの魂が、今生きる者らの平和を紡いでいく。それは…人として残せる物があるというのは素晴らしい事だと。」
老人は再び窓からエリンを見る。
この距離からでは見えないがそこには沢山の人々が今日という日を生きているであろう。
「そして貴方もその素晴らしい事を成し遂げました。これまでの功績は勿論、__の子どもらや孫らが__の繋いだ未来をこの先の未来に繋いでいってくれるでしょう。」
「フフ、それが出来たら一人前だな。」
老人の頭の中では世話を焼かされた子どもたちや孫らの姿が浮かんでいる。
「…ちょっと喋りすぎたな。少し休む。」
そう言って老人は女性に支えられながらベットに横になる。
老人が横になって食器を片づけようとその場を離れようとすると声が掛けられる。
「__。今まで世話になった。ありがとう。」
「__。いきなり何を…。」
女性が振り向くと老人は既に息をしていない事が確認できた。
ショックを受けながらも女性は食器をその場に置くとゆっくりと老人の肉体に近づいた。
そして優しく頬を撫でる。
冷たくなっていく老人の体の体温を感じながら女性は聞こえないのを知りつつ言葉を掛ける。
「こちらこそ世話になりました。…お疲れ様でした、ユーリ。」
享年九十七歳ユーリ・アカバ、AIアイギスに看取られながら老衰にて死亡。
かつて英雄と呼ばれたユーリはこの日死亡した。
されど彼が、彼ら英雄たちが必死に繋いだ世界はそれでも進み続けるのであった。
これにて最終話です。
これまでのご愛読ありがとうございました!
様々な伝えたいことはありますがその言葉を送りたいと思います。
では最後に。
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