4 魔族が何百体いても、今の俺の敵じゃない
魔族の『死者兵』に守らせているから、村は当面大丈夫だろう。
『死者兵』になった魔族には、俺の魔力をたっぷりと注いであるからな。
生半可な高位魔族より強いくらいだ。
よし、ここからは前線基地攻略に集中しよう。
――というわけで、俺は飛行魔法で魔王軍の前線基地までやって来た。
「ええと、この時期って魔王軍はどんな侵攻状況だったかな……」
頭の中を整理する。
俺の体感時間でいうと、もう四十年以上前の話だ。
記憶が薄れている部分もあるけど、なんとか思いだした。
魔王軍は最初に七つの軍団を編成し、各大陸に同時侵攻を開始した。
剣士型を集めた軍団、魔術師型を集めた軍団、獣型や不定形、あるいは竜や不死者――様々な魔族、魔獣で編成された七つの強力な軍団は、最強の魔族である『七魔将』にそれぞれ率いられ、人間たちの国家の反攻をものともしなかった。
侵攻から数か月で、世界の大半の国家が壊滅的なダメージを受けた。
その時現れたのが、神の啓示を受けて聖剣を授かった勇者アベルだ。
その彼のもとに魔術師シリル、僧侶ターニャ、戦士ガードナー、魔法剣士クレイン……他にも何人もの猛者たちが集い、『勇者パーティ』が結成された。
ちなみに俺も荷物持ちとして彼について行った。
幼なじみのよしみで、だけどな。
そう、幼なじみ――。
アベルは、俺と同じ村で育った少年だ。
今も村に住んでいるはずだった。
……とはいえ、一周目の世界では最終的に奴は人類を裏切って、魔王の軍門に下ったわけだが。
「いや、アベルのことは今はいい。まずこの辺りに攻めこんできている軍団を倒す――」
さらに飛んでいくと、前方に巨大な城が見えてきた。
禍々しい魔力を感じる――。
間違いなく、あれが魔族の拠点の一つだろう。
軍団長である七魔将もいるかもしれない。
俺はスピードアップして、一気に城の上空へとやって来た。
「ちまちま敵兵を倒していくのも面倒だな……」
眼下には数百体……いや数千体の魔族がひしめいていた。
このまま最上階に――魔将がいるかもしれない場所まで最短距離で行くか。
そう思ったとき、眼下の魔族軍団の中に人間の姿を発見する。
「あれは――」
どうやら魔術師の一団のようだ。
そのうちの一人には見覚えがあった。
勇者パーティの仲間である魔術師少女――。
「シリル!?」
早くも、かつての仲間と再会できたようだ。
「ここで私たちが踏ん張らなければ、魔族の軍団が各都市を襲うわ! みんな、がんばりましょう!」
シリルが叫んだ。
彼女は俺より二つ年上だから、このときは十九歳だろう。
その若さに似合わぬ老成した雰囲気があり、可憐な美貌には覚悟を秘めた厳しい表情が浮かんでいた。
他のメンバーも全員が女だ。
そういえば、シリルは女性だけで構成されたレーガ公国の魔法師団出身だったっけ。
……なんて、懐かしがるのは後にしよう。
シリルは超一流の魔術師だけど、あれだけの数の魔族に囲まれたら、さすがに危ない。
俺は飛行魔法を制御し、彼女たちの傍に急降下した。
「えっ、あなたは――!?」
突然現れた俺に、シリルは驚いているようだ。
他の女魔術師たちもみんなキョトンとしていた。
「助太刀だ。こいつらは俺が片付ける」
言って俺は身構えた。
……聖剣がないので、当然素手で戦うことになる。
「巻き添えを食わないように注意してくれ、シリル。他の人たちも」
「えっ、どうして私の名前を知って――?」
「いくぞ」
宣言して、俺は前方の魔族に向かって拳を放つ。
ぐしゃっ、と一撃で頭部を粉砕した。
さらに生じた衝撃波がその後方の魔族たちを撃ち抜いていく。
「つあっ!」
次は蹴りだ。
回し蹴りで三日月形のエネルギーが生まれ、手近の魔族たちをまとめて薙ぎ払った。
「【雷撃】!」
最後は、攻撃魔法。
衝撃波で倒しきれなかった残りの魔族を、片っ端から焼き尽くしていく。
――この間、わずか十秒。
俺の周囲には数百体の魔族の死体が積み重なっていた――。