9 ふたたび白の世界へ
気が付けば、見渡す限り純白の世界にいた。
「ここは……!?」
一度、来たことがある。
俺の心象の世界。
そう、あれは一年前――。
俺はここで自分の中の『魔族の力』の象徴ともいえる存在に出会った。
シャドウ、と名乗ったそいつとの戦いを経て、俺は『魔族の力』を完全にコントロールできるようになり、今までの数倍の魔力を得られたわけだが――。
「ひさしぶりだな、主よ」
俺の前に一人の人物が出現する。
俺そっくりの顔を持ち、角や翼を備えた魔族然とした姿――。
「シャドウか」
「魔王を倒し、その残党を討ち続け、すっかり世界の英雄じゃないか」
シャドウがニヤニヤと笑う。
「俺も鼻が高いよ」
「……なんの用だ」
俺は警戒心を強めていた。
ここ一年、奴が現れたことはなかった。
あのときの戦いで、奴は俺の中に取り込まれ――完全に俺と一体化したのかと思っていた。
それが今ごろ、なぜ――。
「お前の中の『魔族の力』が増大している」
シャドウが言った。
「見ろ」
空の一角を指さす。
「っ……!?」
かつては空の一部に黒い染みのようなものが広がっていたが、今は様相が変わっている。
「空が……」
俺は呆然とうめいた。
空の二割ほどが黒く染まっている……!?
「前に言ったよな? あの『黒』が、この『白』の世界を埋め尽くしたとき、お前は完全な魔族になる」
シャドウが爛々と光る目で俺を見つめた。
「すなわち、お前は俺になるということだ」
どくん、と心臓の鼓動が跳ね上がる。
自分が自分でなくなるような錯覚で全身に強烈な悪寒が走った。
違う。
俺は、俺だ。
他の何物にもなりはしない――。
そう言い聞かせながら。
「お前は――何者なんだ、シャドウ」
俺はあらためてたずねた。
こいつが、俺の中にある『魔族の力』の精髄であることは以前に聞いた。
じゃあ、こいつは本当に『もう一人の俺』というべき存在なのか?
それとも――。
俺の中にはもう一つの想像があった。
こいつは『もう一人の俺』なんかじゃなく……。
「俺と融合した高位魔族……その魂」
「ほう? 少し違うが、まあ遠からずといったところだ」
シャドウが笑う。
「俺が『お前』だということも間違いではない。ただ俺の本質はあくまでも魔族――かつて『一周目の世界』でお前と融合した高位魔族の残留思念さ」
「俺を乗っ取ることが目的なのか?」
「そうできりゃ最高だが」
シャドウがまた笑った。
「第一の目的は、お前に生きてもらうこと。この体は俺にとっても大切だからな。俺が存続するためには、お前に無事でいてもらわなきゃならない」
「一蓮托生ということか」
「そういうことだ。だから、これからもよろしく頼むぜ、相棒。くはははは!」
シャドウは愉快そうだった。
だけど、その笑顔は信用ならない。
どこまで信用していいのか分からない――。
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