2 俺はかつての強さをそのまま持ち越している
村での生活が始まった。
平穏な日々が戻ってきた――と思いきや、そういうわけでもなく。
「おい、昨日言ってた金は持ってきたのかよ?」
領主の息子オットーが俺をにらんだ。
そうだ、俺はこの村でいじめられてたんだ。
領主の息子はこの辺り一帯を回り、俺みたいに気弱な人間にこうして金を貢がせていた。
こいつにとっては、ただの遊びだろう。
けど俺にとっては苦しくて、屈辱的で、本当にこいつを憎んだもんだ。
「金は、ない」
「ああ?」
「父親の威光で偉そうにするのは、いい加減に辞めたらどうだ? 見苦しいぞ」
「てめぇ……この俺様になんて口の利き方だよ!」
オットーが怒声を上げる。
「おい、こいつにお仕置きだ! 徹底的に痛めつけてやれ!」
と、取り巻きの大男たちに言った。
彼らはいずれもオットーの忠実な手下である。
その体格に比して腕っぷしも強い。
当時の俺にとって脅威そのものだった。
けど、今は――。
ぱりぱりぱりっ。
軽い雷撃を当てるだけで、全員失神した。
「……………………へっ?」
「ごく少量の雷撃魔法だ。命に別状はない」
叩きのめしてもよかったんだが、手っ取り早い手段を取らせてもらった。
ちなみに、魔法に関しては俺には元々まったく素質がなかった。
けど、【吸収】スキルで魔族と融合することで、いきなり使えるようになった。
どうやら過去に戻ってきて、若返った状態になっても魔法は引き続き使えるようだ。
……ということは、俺の体は魔族と融合した状態のまま若くなってる、ってことか……?
その辺りの『現在の俺の能力』は早いうちにテストしておかないとな。
さっきまでは、その気力さえ湧いていなかった。
ただ、差し迫ったピンチのおかげで、こうして魔法を発動できたし、ちょっとだけ気力も回復した。
「ありがとう、オットー」
これは皮肉ではなく、本心からの感謝だ。
「後はお前だけだ」
「ひ、ひいっ」
「自分の力で戦ってみたらどうだ、オットー?」
「な、なんで……あのヘタレのカインが、こんな……ま、魔法を……?」
オットーはすでに戦意喪失しているようだ。
「お前が領地を巡回して、村や町でいじめを行っていることは聞いてるぞ」
俺は彼をにらむ。
「もう二度といじめをしないと誓え。そして、今までにお前がいじめた人間すべてに謝罪し、同時に十分な慰謝料を払うんだ。いいな?」
「うううう……」
「返事は?」
「ひいいいい、わ、分かりましたぁぁぁぁっ!」
オットーはその場に這いつくばって頭を下げた。
……よし、これだけ脅せば、もういじめはしないだろう。
もし万が一、再犯するようなら今度はもっときついお仕置きをすることにしよう。
――といっても、こんな奴に構っている場合じゃない。
俺にはもっと――大事な使命がある。
しばらく歩き、俺は村の外れまでやって来た。
この辺りには小さな森がある。
「カイドールの木が伸びてる……!」
俺は周囲の木々より長く伸びている白い樹木を見て、呆然とつぶやいた。
「これがあと数センチ生長するころ、魔族が攻めてくる――」
確か、そのはずだ。
俺の記憶が確かなら……。
数か月以内に、ここに最初の魔族が現れる。
そして両親や友人たちを含めた村人すべてが殺される――。
と、
「カイン……?」
幼なじみのリアムがやって来た。
キョトンとした顔で俺を見つめる。
「どうしたの、こんな場所で? 畑から随分と離れてるじゃない」
「いや、畑仕事はもう終わらせたんだ」
「えっ、もう!?」
まあ、今の俺の体力は常人をぶっちぎってるからな。
……なんて言えないんだけど、
「ここが人間界か」
突然、声が響いた。
「えっ……?」
まさか、と思って振り返る。
そこには赤黒い体をした男たちが立っていた。
頭からは角が、背からは翼が生えた異形。
それが、全部で三体。
「魔族――!」