2 アリシア姫
『一周目の世界』において、俺と出会った時、アリシアは『ディルヴァース』という国の王女だった。
そのことを知ったのは、俺が彼女と恋人同士になる直前くらいだったか。
魔族によって彼女の国は滅び、彼女とごく少数の人間だけがかろうじて生き延びた。
そして彼女は復讐を誓い、戦ってきた。
けれど、この『二周目の世界』ではまだ彼女の国は滅んでいない。
いや――滅ぼさせはしない。
と、
「あたしを知っている様子ですが、どこかでお会いしましたか?」
たずねるアリシアの視線が冷たい。
それはそうだろう。
この世界の彼女にとって、俺は初対面の見知らぬ相手だ。
「い、いえ、その……知り合いに似ていたので」
俺は慌てて誤魔化した。
つい焦ってしまう。
「失礼いたしました、アリシア……様」
背中から変な汗が出てきた。
こんなに緊張するとは、自分でも驚いた。
魔族と戦っている方が、数百倍も気が楽だった。
「……誘っているなら、お断りです。ときどきいるんですよね。初対面でいきなり誘ってくる男の人。全部断ってますけど」
アリシアの態度は険悪だった。
『一周目の世界』では恋人だった女性だけに、正直ショックだ。
だけど、それ以上に――喜びがあった。
彼女が、生きている。
生きて、こうして話すことができる。
ただ、それだけで――。
万感の思いが、あった。
今はもうそれだけでいい。
「私は、これで……」
深々と頭を下げ、俺は背を向ける。
これ以上一緒にいても、きっとアリシアを不快にさせるだけだろう。
今の俺たちは、かつてのような恋人同士でもなんでもないのだから。
と、
「お待ちなさい」
アリシアが俺の背に声をかけた。
「もしや、あなたは――魔族の前線基地の一つを滅ぼしたという戦士殿では?」
ざわっ……。
周囲がざわめいた。
俺の戦いぶりは結構な評判になっている、と聞いていた。
まあ、いきなり現れて、魔族の前線基地をほぼ単身で壊滅させたからな……。
と、
「へえ、魔族の基地を潰した猛者ってのはお前か」
一人の巨漢が俺の元に歩いてくる。
ガードナー・アクス。
伝説の傭兵として名高い男だ。
そして『一周目の世界』では勇者パーティの最強前衛として活躍してくれた。
もちろん、この世界においては初対面だが――。
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