4 白と黒と1
ボウッ!
シャドウの全身から黒いオーラが立ち上った。
禍々しい瘴気のオーラだ。
「その代わり――お前が俺を調伏できたら、俺の力は全部お前のものになる。これならフェアだろう?」
血のように赤い瞳が俺を見据える。
「力を得るためには、お前を倒せばいいってことか」
「そういうこと! さあ――始めようぜ!」
「【ルーンブレード】!」
俺とシャドウ、二人の声が同時に響く。
俺は右手に、奴は左手に、それぞれ魔力の剣を生み出した。
「同じ魔法だ。ぶつけ合えば、どっちが強いかが丸わかりだな、ええ?」
ぺろりと舌を出しながら笑うシャドウ。
「俺が勝つ――」
静かに言い放つ俺。
「やってみろ」
シャドウが突進してきた。
俺も同じく突進。
互いに魔力の剣を振るい、打ち合う。
ばきんっ。
「なっ……!?」
二、三度打ち合わせただけで、俺の魔力の剣は半ばから砕け散った。
「ははははははは! 思った以上に脆いなぁ!」
「この……っ!」
俺は慌てて魔力の剣を捨て、魔力弾を撃ち放ちながら、奴と距離を取った。
正直、今の一連の攻防はショックだった。
純粋な魔力のぶつけ合いで、俺は奴よりも劣っている――。
が、いつまでも呆然としていても仕方がない。
少なくとも魔力量では、奴の方が俺より多いんだろう。
正面からのぶつかり合いや接近戦は不利だ。
「ならば――距離を空けた戦いに持ちこむまでだ」
「おおおおっ!」
俺は魔力弾を連発した。
並の魔族はもちろん、七魔将クラスでもこれで押し切る自信がある。
だが――、
「はっ、その程度かよ!」
ばちぃっ!
数百単位で降り注ぐ魔力弾の雨を、シャドウは右手の一閃ですべて吹き飛ばしてしまった。
「そこらの魔王軍が相手ならそれでもいいんだろうけど……俺には通用しねぇよ」
シャドウがニヤリと笑う。
「いい機会だからレッスンしてやる。俺が――本当の魔力の使い方を、な!」
ごうっ……!
シャドウの全身から黒いオーラがさらに立ち上った。
空を覆いつくすほどのオーラ量だ。
「ここまで魔力量が違うのか――」
俺はゾッとなった。
「魔力量が違う? 馬鹿か、お前は」
シャドウが表情を歪める。
「俺はお前の影、お前は俺の光――俺たちは同じ存在の裏表ってだけだ。その能力に差はねぇ」
「な……に……!?」
「当然、魔力量もな。お前が俺を見て『魔力量が違う』と感じるなら――それは単にお前が自分の魔力を使いこなせてない証拠ってことだ!」
「ぐっ……」
「そうら、いくぜ!」
余裕を見せながら、シャドウが突進してきた。
身にまとうオーラを推進力に変え、すさまじい速度で間合いを詰めてくる。
くそ、反応しきれない――。
「はっはっは、遅い遅い!」
シャドウの拳と蹴りが俺の四肢を打ち据える。
「あっ、があっ……!」
両手が、両足が、激痛を発した。
全部、折れたか――?
「【フライト】……っ!」
俺は激痛をこらえて、なんとか魔法を発動した。
「ほう、その痛みでまだ魔法を使えるのか。褒めてやる」
「これ以上の苦痛を……『一周目』で散々味わってきたからな」
俺は痛みをこらえ、なんとか口の端を吊り上げてみせる。
無理やり笑ったのは、もはや単なる意地だった。




