3 心象の世界
見渡す限り、誰もいない。
地面も空も、太陽さえも――すべてが純白の世界に、俺はたたずんでいた。
一体ここはどこなのか。
なぜ俺はこんな場所に来たのか。
何も分からない。
「とりあえず上から見てみるか」
俺は飛行魔法で上空へと飛び上がった。
上空数百メートルの地点から眼下を見下ろす。
真っ白い大地が地平線まで続いていた。
生物らしきものはどこにもいない。
建造物のようなものも何もない。
――いや。
「あれは……!?」
よく見ると、地平線の果てに長大な塔が見えた。
行ってみるか――。
俺は塔まで一直線に飛んでいく。
塔のふもとに黒いシルエットがあった。
この世界で唯一の――『黒』。
「お前は……?」
人間じゃない。
人と同じようなシルエットではあるが、翼や角を備えたその姿は――。
「魔族……!?」
「ようやく会えたな、カイン」
黒い魔族がニヤリと笑った。
「っ……!」
よく見ると、そいつの顔は俺にそっくりだ。
「ここはお前の精神の世界」
黒い魔族が語る。
「この世界の白さはお前の純粋さを示している。そして――」
じわり……。
突然、空の一点に黒い染みが広がり始めた。
「あそこから侵食しているのが、お前の中に在る魔族の力だ」
――黒い染みは徐々に広がっていく。
嫌な感じだった。
俺の中が『魔』で埋め尽くされていくような悪寒――。
「どうした? あの黒い染みが広がれば、お前はより多くの『魔族の力』を使えるんだぞ」
「けど――」
「まあ、全部埋め尽くされたら、お前は完全な魔族になってしまうが……い
や、それもいいんじゃないか? お前はさらなる力を欲してるんだろう?」
魔族が楽しげに言った。
「魔族、お前は――」
「シャドウとでも呼べ。俺はお前の影だ」
魔族――シャドウが笑う。
「いつまでも『魔族』じゃ分かりにくいし呼びづらいだろう」
「じゃあ、シャドウ……お前はそもそも何者なんだ?」
俺はシャドウをあらためて見つめた。
シャドウは俺の視線を真っ向から受け止めた。
「さっき言っただろ? 俺はお前さ。お前の中に眠る魔族の力――それが具現化した存在。そして」
ヴンッ!
いきなりシャドウの姿が消えた。
一瞬にして俺の間合いに侵入すると、問答無用で拳を振るう。
「っ……!?」
とっさにその一撃を避けた。
ごうっ……!
シャドウの拳撃が空間を歪め、衝撃波を吹き散らす。
ゾッとなった。
直撃していたら、俺の頭部は跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない。
「何を……」
「いつまでもお前が『主』じゃ気に食わないからな。乗っ取ってやろうと思ったのさ」




