8 人間狩り
アベルを連行する魔族たちが向かったのは、中規模の都市だった。
魔族は全部で五体。
彼らが都市を襲っている間に、隙を見て逃げられないだろうか――。
アベルは虎視眈々と機会を狙う。
「おい、逃げたら殺すからな」
が、そんな彼の気持ちなど魔族は当然のように見通していた。
「少しでも素振りを見せただけで殺す。代わりはいくらでもいるんだ」
「ま、まさか。逃げたりしませんよ」
アベルは慌てて言った。
「なんなら俺も戦います。ボルグ様たちの役に立ってみせますよ」
ボルグ、というのは目の前にいる魔族の名前だ。
この五人の中にリーダー格だった。
「……ほう?」
ボルグは興味をひかれたようだった。
「同族相手に戦う、と?」
「俺は魔族の奴隷なんでしょう?」
アベルがニヤリと笑う。
実際、彼は『一周目の世界』では人間を相手に戦っていたのだ。
……魔王の軍門に下った後は。
ここでも同じことを繰り返すのに迷いはなかった。
最優先すべきは、自分の保身。
そのために魔族たちの覚えをよくしておくつもりだった。
「面白いじゃねーか。お前、剣は使えるか? それとも魔法が得意か?」
「あいにく魔法は使えないんです。剣なら多少は」
「じゃあ、こいつを貸してやる」
ボルグが一振りの剣を差し出した。
やや小ぶりで、決して腕力が強いわけではないアベルでも扱いやすそうな剣だった。
「……ありがたくお借りします」
アベルは恭しく剣を受け取った。
魔族たちの『人間狩り』が始まった。
ボルグをはじめとする五体が空中を飛び回り、火球や雷撃を降らせる。
「きゃあっ!」
「うわあっ!」
悲鳴とともに倒れる人々、そして破壊される町並み。
アベルは剣を手に、そんな騒乱の中を進んでいた。
奴隷のノルマは30だそうだ。
とりあえず健康そうな若い男を探す。
「あいつだ――」
逃げ惑う人々とは違い、魔族に立ち向かおうとしている男を発見する。
「この町は俺が守る!」
彼が叫んだ。
「このガードナー・アクスが!」
「っ……!?」
アベルはハッとなる。
その男は、かつての勇者パーティの一員――。
戦士ガードナーだった。




