9 アベルとの再会
アベルは母一人子一人の家庭で育った。
父は戦争に巻き込まれ、アベルが小さいころに死んでしまったんだ。
で、そんな彼と俺は幼なじみとして育った。
あいつは正義感が強くて、領主の息子ともよく衝突してたっけ……。
本当にまっすぐな奴だった。
俺にとって自慢の親友だったんだ。
なのにどうして――。
あいつが人類を裏切り、魔王の配下になったことは今も許せない。
怒りや憎しみは俺の心の中にずっと燃え盛っている。
そして同時に悲しみと喪失感も。
「カインか? さっき噂で聞いたんだけど、お前……魔族を倒したんだって?」
アベルの家に行くと、彼は驚いた顔で俺を見つめた。
「ああ、まあ……」
ジッとアベルを見つめ返した。
彼からはなんの力も感じない。
『一周目の世界』では魔王から『魔族の力』を与えられていたはずだけど、今は欠片も感じない。
そもそも俺が魔族を倒したことに心から驚いている。
演技とはとても思えなかった。
つまり、こいつは――俺の『力』を何も知らないんだ。
こいつは『一周目の世界』の『人類を裏切った男』じゃない。
まだなんの力もない、ただの村人……と判断していいだろう。
「信じられないよ……カインにそんな力があったなんて」
「その、いきなり『力』に目覚めたんだ。俺自身気づいてなかったけど素質があったみたいで」
俺の『力』については適当に説明しておく。
「で、魔族の基地を攻撃するために村を出立するんだ。他にも他国の魔法師団の人とか、超一流の騎士や魔術師と一緒に作戦に当たる」
「すごいな……カインがそんなことを」
「人類が滅びるかどうかの瀬戸際だからな。がんばってくるよ」
「俺は何もできないけど……応援しているよ。気を付けて行ってきてくれ、カイン」
アベルが俺の手を握った。
「がんばれ。無事に戻ってこいよ」
その顔は、俺を心から案じているようだった。
人類の裏切り者なんかじゃない、幼なじみで親友のアベルそのものだ。
ああ――。
油断すると涙が出そうになった。
――翌日、俺はシリルと一緒に出立した。
まず目指すのは『回復の神殿』だ。
聖剣の力を失った代わりに、俺の中に在る『魔族の魔力』を目いっぱい回復させる。
今後の戦いのために。
※
SIDE アベル
カインが去って、すぐに。
「うううう……」
アベルは頭が割れそうな痛みを感じた。
同時に、眼前に見たことのない光景が浮かび上がった。
(なんだ、これは――)
初めて見る光景ばかりだった。
聖剣を持ち、勇者として持てはやされている自分。
仲間たちと一緒に魔王軍と戦っている自分。
そして、魔王の前に跪き、人類の敵となった自分――。
見覚えのないはずの情景。
だが、その数々を、なぜかアベルは知っていた。
(これは……俺の記憶……?)
直感で理解する。
「俺が『未来で』体感した記憶――」




