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鉄道で往く人生に幸あれ  作者: 東神奈川の幾等
第一章 
10/10

始まりと終わり

遅くなりました。

誰もいない踏切を渡る。


音の鳴らない遮断機。

雑草の生い茂った線路。

真っ暗になった信号機。


そして、青い空。


レールの軋む音も全く聞こえてくる気配がしない。

目に映る、そんな風景は、とても空虚なものに思えた。



廃線



この二文字だけで、何を意味するかが分かる。

ある人にとっては重く、ある人にとっては軽い余命宣告。

そんなものだ。


去年、母のいるこの地を訪れたときには、まだ高らかな警笛が聞こえていた。

そのときに母が口走ったこの二文字の言葉の意味を、そのときはまだ分かっていなかったのかもしれない。

なぜそんな悲しそうな顔をしていたのかも。




「この電車はねぇ、おかあさんが子供の頃にできたのよ」


そういえばこんなことを言っていた。

遠い昔の記憶だが、なぜかこれは覚えていた。


恐らく、興味を持ったのだろう。

それで母は、話し始めた。


「そうなのよ。最初にあそこの駅に入ってきたのを見たら、何か分からないけれど感動しちゃったのよね」


まだ今よりももっと緑が多かった時代だから、そんなもの見るのも初めてだったのだろう。

だから感動したのだろうか。


いや、そうでもないか。


子供の頃、母に連れられて都市部へ出たところ、見たこともない列車が走っていたのを覚えている。

ただ、そこで興奮していたのは自分だけだったようで、母ははしゃぐ自分を宥めていたような気がする。



今、思い返してみると何となく分かる。

母にとって、始めてが特別だったのだ。


初めてこの地に列車が来たこと。

それは特別なこと。


だから母は、感動していた。


だが、あの母を感動させた列車が、もう消える。

だから母は悲しんでいたのだろうか。



始まり、そして終わる。


それもまたこの世の理に合っているような気もする。

人間もいつかは必ず死ぬ。

母がそうであったように。


「でも、生まれてから最後まで見ることができたのはよかった」

と母は言っていた。

これこそまるで、命のようだ。




誰も居なくなった線路を歩く。

緑の色しかない雑草をかき分けて進む。


前方には、終着駅の印がある。

軽く盛り上がるように積まれたバラストの上だけは、緑に抑え込まれてはいなかった。


その隙間に、拾った野菊を差した。

せめて、まだこの線路だけは残りますようにと祈りながら。


※廃線にされた線路には勝手に入らないで下さい。

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