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コンフィデンシャル・ラン JK  作者: おふとあさひ
6/8

亜衣のモノローグ

 え、えーっと。

 えー、どうも、あらためまして、わたし、香川亜衣です。


 ソフトボール部と演劇部を掛け持ちしてます。っていうか、演劇部の方は、今日、承認されたばっかりやねんけど。


 いやぁ、疲れましたけど、上手くいって、ホッとしています。

 結構、大掛かりな仕掛けやったし、わたしの書いたシナリオの完成度が高かったとはいえ、運に頼るところもあったし、アドリブで切り抜けやんとあかん場面もあって、ほんっと、大変でした。


 どこまでが、本当で、どっからが寸劇か、わかった?


 ここからは、わたしがナビゲーターとなって、記念すべき第一回公演『鴨川の笛吹き男のその後』の裏側をご紹介していきます。心の準備は、よろしいですか?


 では、はじまり、はじまり~。



 まず、演劇部をつくることになったきっかけは、約半年前にさかのぼります。

 高校一年の二学期の途中から、吉水が休みがちになりました。当時、同じクラスだったわたしは、小学生時代からの知り合いで、わたしの追っかけをやっていた吉水のことが気になって、仕方がありませんでした。


「お寺に通ってます……」


 ソフトボール部の試合を観戦しに来てくれた吉水がそう言うので、わたしは、次に会う約束をして、お寺についていくことにします。


 それが運命でした。


 そのお寺の住職が、和泉さんで、地域の駆け込み寺みたいなことをしていて、引きこもりとか、登校拒否児とかを相手に、相談会を開いていたんです。実は、昔から、ちょっと和泉さんとは知り合いだったんですけど……。


 その日、久しぶりに、和泉さんに会って、「亜衣ちゃん、この子のために、演劇部を作ってあげられへんかな」って頼まれました。


 なんでも、吉水は、カメラ撮影だけでなく、演劇にも興味があって、演出とかをやってみたいっていう願望が強かったらしくて。それで、わたしは、生徒会に、演劇部を作りたいって申請をしたんやけど、あっけなく却下されちゃいました。


 それから、しばらくは、申し訳ないと思ってたこともあって、和泉さんとは距離を取って……。


 転機は、高校二年になって、すぐに訪れます。

 京四条高校、二年に進級して、C組。同じクラスに北野っていう男子がいるみたいやのに、北野は一日も学校に来なくて、顔すら見たことがありませんでした。


 気になって調べると、北野も、吉水と同じ、和泉さんのお寺に通ってるってわかって、再び、和泉さんのところに出向きます。


「この子が作ったコレ、見てみてよ、亜衣ちゃん」


 それは、樹脂で作った、小さなエイリアンの像でした。北野は、造形が得意で、プロ並の腕前です。


「この子の能力を活かせるような活動、なんか、できへんかな?」


 和泉さんにそう言われて、思いついたのが、やっぱり演劇部でした。きっと、北野なら、特殊メイクもお手のものやと、思ったから。でも、その案、すでに却下されているのがネックでした。


 作戦を練ることになって、それからは、わたしも部活帰りに、週一のペースで、和泉さんのお寺に通いました。


 とにかく実績を作らないと始まらないので、わたしが脚本を書き、北野は、そこに登場する怪人の被り物の製作を始めました。

 和泉さんとわたしが交渉して、一度は、地域の公民館を借りられることになったんですけど……。


「公民館で一回、公演すれば、本当に部活動として、認められるんかな?」

 その頃には、ソフトボールを諦めたミクルも仲間に加わっていました。

「ミクルも、そう思う? わたしも、そこには、不安が残るんよねぇ」

 それでも、脚本は出来上がったので、練習を始めます。


 一方で、わたしは対策を考えました。生徒会長の頑固な性格はわかっていたし、部活動費がカツカツで、難癖つけて申請を却下される可能性が、めっちゃ大きかったから。

 和泉さんも、引きこもりの生徒のために、演劇部を作ってやってほしいと、何度も高校に足を運んでくれました。


「それは、生徒会が決定権を持ってますんで」って、門前払いされ続けたらしいけど、目黒先生が対応してくれた時があって、その日から、状況が一変します。

 目黒先生は、演劇部が出来たあかつきには、顧問にもなるし、全力で協力するって、言ってくれたらしいです。


 そうそう、和泉さんは、学校に来るたびに、わたしの様子を見に、ソフトボール部の練習にも、顔を出してくれました。わたしも、少し心が病みかけてたし、和泉さんの顔を見る度、わたしもがんばらなくちゃって、自らを奮い立たせていたんです。


 ケンケンガクガクと話し合って、トリッキーな初回公演の構想が固まっていって……。

 生徒会長に承認させることと、初回公演という実績を作ること、それらを同時に実現する方法。

 ただ、詳細にシナリオを詰めていくうち、どうしても一人分、役が足りないことがわかりました。



 解決策も思いつかないまま、数日が経ち、はぐれ虹を見つけた朝。本当にヘンタイが現れたと思って、スマートフォンの着ぐるみを着た北野に、本気で、ローリングソバットを食らわせちゃいました。北野は、ようやく完成した被り物を見せたくて、やってきたらしいけど、そうと知ったのは、後になってから。


 ホント、申し訳なかったです……あれは。


 ま、それはそうと。その日、クラス委員長会議で配られたプリントを見て、目黒先生が、援護射撃をしてくれているって気付きました。そして、会議のあと、七宮は、はぐれ虹が出てくる本のことを知っていて、不吉だと言ったんです。

 それを聞いた時、わたしは、全身にビビッと電気が走ったんです。


 その夜、和泉さんのお寺で、セリフ合わせがあったんやけど、急に体調が悪くなって、参加できなくなりました。

 だから、お堂のホワイトボードに、七宮を巻き込むっていうことだけを殴り書きして、帰宅。ムードを出そうと、ブレーカーを落として、ろうそくだけのお堂で練習しようって提案したのはわたしやったから、あの時は、欠席して申し訳なかったです。


 次の日は、自転車で通学しました。帰りに、七宮と話がしたくて。

 夜の八時過ぎ、ライトアップされた二条城の前で、わたしは、七宮に全てを告白して、協力してくれるようにお願いしたんです。

 生徒会長と交渉したり、怪人になる演技をしてほしいって。七宮は、二つ返事で快諾してくれたけど、そのあとに出てきた話には、驚かされました。


「ボ、ボクは、香川さんが、演劇部を作りたがっているっていうことは、ずっと前から、知っていましたよ」


 どこから、情報を仕入れたのかは分からないけど、七宮はそう言いました。それで……。

 ま、まあ……その話は……。そ、その話は、話せば長くなりますので、また、別の機会にします。


 同じ夜、九時に和泉さんのお寺に集まったんやけど、そこに七宮を連れて行きました。

 話し合いの結果、七宮には、『シカクシメン怪人』を演じてもらうことになります。

 わたしは、急いでシナリオを書き換えて、北野は、七宮の上半身を採寸します。


「七宮の着ぐるみ、明日には間に合わへんよ。せめて、明後日にしてよ」

 そう言う北野を説得して、外形だけのパーツを即席で作ってもらいました。塗装や仕上げは後回しにして。


 七宮に、そのパーツを取り付けて、明日、学校に来るように言いました。そして、生徒会室に出向いて、さりげなく、生徒会長に触らせるように、お願いしました。


 でも、翌日、トラブルが起きます。七宮が生徒会室を追い出された後、わたしが、会長の部屋を訪問する予定だったんです。わたしは、そこで、窓の外にスマホ怪人を見つけて、その恐ろしさを会長に伝える役だったんやけど……。


 思いがけない大雨で、部活の無くなった咲が、わたしより先に生徒会室に入ってしまったんです。

 急遽、わたしは、作戦変更の指示を出しました。

 生徒会長が、大雨の中のスマホ怪人を見つけてくれたことは、運がよかったとしか言えません。わたし、香川亜衣と会長のツーショットを撮る予定が、思いがけず、咲と会長のツーショットを撮ることになるスマホ怪人に扮した北野。


 生徒会室の外の廊下では、フラッシュが光ったのを合図に、わたしと七宮が、激しく扉を揺らしました。


 バス停で待ち伏せしている、和泉さんにも、予定変更の連絡を入れます。生徒会長だけでなく、咲も魂導士に仕立てることにしたんです。


 でも、そこでも、ちょっとしたトラブルが起こりました。

 和泉さんは、事前に準備した、桃花眼の話を、咲に対して使ってしまったんです。後から聞いた話によると、咲の方が、桃花眼の印象に近い目をしていたから、思わず……ということでした。


 それで、「オレは?」と生徒会長に問われたことに窮した和泉さんは、時間を稼ぐために、出まかせを言います。

「ここで、言ってもいいんですか? 大丈夫ですか? 彼女の前で……」

 この出まかせが、意外にも、生徒会長を黙らせたみたいです。


 次の日は、クソ忙しい朝になりました。早朝から登校して、学校中に、生徒会長と咲のツーショット写真を貼って回ったんです。


 わたしは、『鴨川の笛吹き男』がやったっていう、でっちあげた事件を生徒会長と咲に吹き込んで、信じさせることに成功しました。そこまでは、台本通りやったんやけど……。


 放課後は、七宮が、倒れて、わたしが介抱する段取りだったんやけど、あいつ、わたしのお尻を触りやがったんです。なんでも、わたしたちの背後で、一度は倒れてみたらしいんやけど、気付かれへんかったから、追いかけてきて、わたしに気付かせようとしたみたい。

 ほんまかどうかは怪しいけど、背中をつつくつもりが、お尻に当たってしまったということらしいです。


 わたしの本能で、バックハンドブローを見舞ってしまったから、七宮もついてなかったかも。

 生徒会室に行って、七宮の身体を見せて、怪人が本当に存在するって信じ込ませる作戦は、バッチリうまくいきました。


 その日の放課後は、翌日の大一番に向けて、リハーサルをやりました。和泉さんのお寺で。それには、目黒先生も参加してくれました。


 そして、いよいよ、クライマックスの今日。


 ご存知の通り、飯塚に演劇部を認めてもらうために、大騒動を巻き起こしたんです。

 ミクルの演技力の無さには、ヒヤヒヤしたけど、目黒先生が、早々に連れ去ってくれたから、なんとかバレずに済みました。咲と生徒会長も、ほぼ想定通りの動き。和泉さんを見つけて、グランドに連れてきてくれたし。


 北野の迫真の演技も、ハマってたし、和泉さんの熱演は、もはやプロ級。


 ヤバいって思ったのは、飯塚が、お札をバラまいちゃった時です。飯塚から受け取ったお札で、七宮が、怪人に憑りついた悪霊を退治するシナリオやったから、わたしは、拾いにいこうかどうか、迷いました。たまたま、飯塚がポケットに一枚隠し持ってたから、助かりましたけど。

 七宮が死んで、飯塚に、約束を守るって言わせることが、ゴールやったから、ほぼ完璧に、上手くいきました。


 そんなわけで。脚本がわたし香川亜衣、演出、カメラマンが吉水で、特殊メイク、小道具を北野が担当した第一回公演は、無事、幕が下りたのでした。


 めでたし、めでたし。


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