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03話

「おっじゃま~」


ご機嫌な表情を崩さずセイマは帰宅する。帰宅と言えど実家ではなくその隣。両親の友人の家に足を運んだ。


「ん~。ど~ぞ~」


部屋の奥から少女の声が聞こえる。


「セイマにい、今日は遅め?」

「いろいろあったのよ」


少女の名は夕立 楓。セイマのいわゆる幼馴染である。

小さなころから家族ぐるみで仲良くしていたので兄妹のように見られることも多く、実際セイマはカエデを妹のように扱ってる。


「いろいろ?いいことでもあった顔だけど?」

「ありゃ、バレてら。ま、そんなところよ。カエデは?受験勉強してる?」

「うわー。お父さんみたいなこと言うー。まぁでも私地頭いいし?少なくともここに遊びに来る人に晩御飯を作る余裕ぐらいならあるよ」

「……さいですか」


受験生のため部活もなくなったカエデは、早く帰って夕飯の用意をする。

親が旅行に行ってすぐの頃はセイマも自炊はしていたが、カエデの父が「夕飯くらいうちで食べると良い」と誘われてからは夕立家で夕飯をとるようになっていった。

最初はいくら幼馴染の家とはいえ、そこまでしてもらうわけにはいかんと断り続けていたセイマだったが


「ん!麻婆茄子!おいしいな」

「ありがと」


今ではそんなことも忘れてカエデの手料理に舌鼓を打つことひと月。

カエデはセイマがおいしそうに食べているその様子を満面の笑みで眺めている。


ふと、セイマの目がテーブルの端に置かれたコンパクトに止まった。

女児向けの番組にありそうなデザインだがチャチなプラスチックではなく、宝石や貴金属のようなしっかりとした装飾が施されていた。


「そんな趣味あったっけ?」

「……うん、まあ、ちょっとね。最近は意外と重いストーリーとかで中高生人気もあるんだって」

「ふーん?」

「そんなことよりあったかいうちにちゃんと食べてよね?折角の麻婆茄子が冷えちゃうのもったいないし」

「はいはい」


その後もカエデと他愛もないことを話しながら夕食を楽しんだ。


「ごちそーさまでした。今日もありがとな」

「うん、じゃあまた明日」


そういって二人は別れ、セイマは自宅へと戻る。


「ただいまーおかえりー」


家具はあれど人のいない家は伽藍洞のように静かで、セイマの声だけが響く。

寂しさもあるがひと月もすれば慣れるものだな、とまるで他人事のように考えながらセイマは自室に足を運んだ。

玄関から廊下、そして階段から二階へと電気がついて、消える。その光が一つ、部屋を照らして止まった。

セイマはそのままベッドにダイブして、スマホからアプリを起動する。


「さてさて、魔術科の授業はどうだ……?時代の最先端を行く魔術ならきっと見たことのない魔術が……!」


***

翌日


「お?どうしたヒーロー?元気ないじゃん?」

「あー。うー」

「……マジ元気ないじゃんか」


結果はセイマの予想を遥かに()()()()

授業でやっていたのは簡単な付与魔術の授業で、魔術師の家系ならだれでも扱えるような代物。

使い勝手を追求しすぎた結果、技術に大幅な更新が行われなかった。

つまるところ親から聞いたこと以上のことは現在はおろか、この先でも聞けないやもしれないことがわかっただけだった。


「……面白い授業ってないもんなんだね」

「え!?何!?マジでどうした!?」


見るからに真っ黒なオーラをダダ洩れにしているセイマだったが


「今日は呪術実習だっけ~」


その一言にオーラが弱まる。


「札を使った拘束実習、だっけか。物理拘束か精神拘束なのか……」

「まぁ物理拘束だろうな~。でもうちそういうきっちりとした札使ったときないし割と楽しみよ~」

「わかるわ」


セイマも気持ちは同じだった。

この世界における呪術とは何かを「縛る」ことに重きが置かれる場合が多い。

その性質から警察でも利用されることが多く、男子生徒からすればそれが使えるというだけでも浪漫なのだ。


「なにかな~。やっぱり最初だから縄系とか~?」

「むしろ最初にドカンとインパクトでかいやつになるだろ。鉄製の……鎖とかな」

「あ~、扱いに気を付けましょう的な~?」


もうセイマの頭の中には先ほどまでの落胆は無く、他の生徒と同じように実習に思いを馳せるのだった。


そしてその日の午後、温かい日差しが窓から射す体育館でついに実習が始まり、セイマたち呪術科の生徒たちはジャージに着替えピシっと整列していた。

そんな生徒らの前に気だるそうな表情をした教師が立ち、挨拶を済ませる。

そして同じように手元の木箱から札を一枚取り出し淡々と説明を行う。


「ということでこれから札を使った実習を始めるが、その前に注意がある。君たちの知っての通り、この札というのは便利であると同時に危険なシロモノです。少し扱いを間違えるとケガをすることがある」


例えば、と言い教師は二枚の札を地面に貼り付け、セイマのほうに指を差しぼそっと「いけ」とつぶやく。

すると札から黒い鎖が出てきて巻き付き、縛られ身動きが取れなくなる。


「え!?えぇ!?先生一体何を!?」

「この中で一番私からの印象が強い椎堂に(にえ)になってもらった」

「そ、そんなぁ……」


何か言いたげなセイマをよそに、話を続ける。


「このように何か感情を向けたモノやヒト、もちろん生き物にも札は反応して半自動的に縛ることができる。今回の場合は魔術棟に侵入したこいつに、だな」


それに対し生徒の一人が手を挙げ質問する。


「半自動的ってことはどっか手動なんですね~?」

「いい質問だ。その通りで実際の発動にはトリガーとなる意識が欲しい。一般的には指をさして札に命じる。私の場合は『いけ』と言えば鎖が飛んでいくな」


なるほど~と声が上がる。


「とりあえず口に出して発動したことで、しっかりと『札を発動した』という意識をすることが大事だ。どんな天才でもここが起点となる」


淡々とした説明に生徒たちは頷きながら聞き、中には思わすメモを取る者もあらわれた。

それはセイマも同じであり、自身もメモを取ろうとポケットに手を伸ばそうとして気づく。


「……八ッ!?先生!いつ俺の拘束は解かれるんですか!?」

「ム?なんだ?いつまでそうしてるつもりだ?」

「あなたがやったんでしょうよ!!!!」


思わず切れるセイマ。そんな様子に教師は「冗談だ」と笑い、地面に張り付けた札を剥がす。


「すまないがもう少しこのままでいてくれ。……さて実はこの札にはあまり知られていない機能がある。正確には『仕様』というべきか」


剥がした札を消しゴムに貼り直し、手を放す。すると鎖は掃除機のコードのように勢いよく札に引き込まれ、セイマに勢いよく当たる。


「痛い!?」

「札を張り付けた側が不安定なものや軽いものだった場合、対象の方向に飛んでいくようになる。これは札から出たものにある程度の張力が発生するからだ。これは対象の重量と比例していて、重ければ重いほど張力は強くなる」

「そんな重いヤツに使うことってあるんですか?」

「野生動物にはもちろん、あらかじめ道路を挟みビルに貼っておけば暴走車も止められるからな」


さて、と教師が指をはじくとセイマに巻き付く鎖は霧のように消え、ようやく拘束から解き放たれる。


「そろそろ実践に移ろう。今使ったものと同じ札を一人に10枚ずつ配る。まずは椎堂!縛って悪かったな、お前から先に渡す」

「あ、ありがとうございます!」


セイマは立ち上がり札を受け取る。札には今のセイマでは解読不能な術式が描かれており何か美術品じみた綺麗さを醸し出していた。

しっかりと受け取り、腰に備え付けられたホルダーにしまったことを確認した教師は整列した生徒のほうを向き次の生徒に声をかけようとする。


「良し、では次は───」


生徒の名前を呼ぼうとした、その直後だった。

教室等のほうから何かが爆発したような、崩落したような轟音が響く。


「うわああぁぁああ!!??」

「なんだ!?一体何が!?」

「お前たち!落ち着け!落ち着いて整列だ!!」


パニックになる生徒たち。そんな中、校舎が気になり窓を見上げ轟音のした方向を見るセイマが見たものは……

突如として人々の世に現れ、災害のごとく命を奪う……魔獣だった。

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