02話
その日の放課後。
「元気か?ヒーロー」
「ヒーロー!どうした?体調崩してんのか?」
あの後すぐにセイマのあだ名はヒーローとなり、魔術科に忍び込んだ英雄として持ち上げられつつ馬鹿にされていた。
「恥ずかしがんなってヒーロー。今までこの学校でそんな偉業を成し遂げたのはお前だけだからな?もっと胸を張れよ」
「なぁ!お前を告発したのって女子なんだって!?ってことはその女子のこと見たんだよな!どうだった?かわいかったか?」
頭を抱えて机に突っ伏すセイマ。
「も……もうやめて、くれ……」
恥ずかしさと後悔の念がぐるぐると頭の中でまわり、混ざっていく。
もう駄目だと涙目になりかけたとき教室の引き戸が勢いよく開かれる。
「呪術科一年椎堂凄馬てなぁいるか」
ガスマスクと白衣を身にまとった、青い頭髪の男が教室に乗り込む。ネクタイは青と紺のストライプ、錬金科の1年生だ。
「は、はい、この席でうずくまってるのがセイマ、です」
男は大股で歩きセイマの席で止まる。そしてその頭を文字通り鷲掴みし、持ち上げる。
「いででででで!何!?だれ!?」
「騒ぐな、目立つのは好きじゃねぇんだ」
無論、人間の頭を持って持ち上げれば騒ごうが騒ぐまいが目立っているが。
いいや、それ以上に彼はこの学校にいる時点でいい意味でも悪い意味でも目立っている存在なのだ。
何故なら…………
行き先はカーテンで光を遮断している教室だった。
しかし普通の教室とは広さやレイアウトが違うようだ。
頭をつかまれたまま連れてこられたセイマは投げ飛ばされそのまま椅子に座らされる。
こめかみに走る痛みに耐えられず両手で頭を押さえながら男の顔を見上げる。
「え、どこ、え?」
「俺に提供された個人の工房……の受付だ。一般の教育機関が用意するにしちゃあ上等も上等だな」
「こうぼー……」
「工房だよ工房。アトリエと言ゃわかるか……いや、流石に知ってるといった顔だな。知りたいのは俺が何者か、ってところだろう」
セイマは頭を縦に振る。
ガスマスクの男はその仮面の中で笑みを浮かべそしてそれを脱ぐ。
「この顔を見ればわかったりしないか?」
「ああ!?あんたは!?」
彼の名はリン・フウ。世界的にも有名な錬金術師であり、齢15にして錬金術で新素材を生み出し続けており、テレビやネットニュースでも幾度となく話題に上がる紛れもない天才だ。
「でもなんでアンタが俺を……?」
「心当たりはあるだろ?」
「……まぁ、はい」
十中八九、今日の事だろうと勘づく。それと同時に科も跨いでここまでのスピードで伝わるものかと訝しんだ顔をしたがそれについてはすぐに回答がなされた。
「実は一部始終は見ていてな。猛ダッシュで魔術科を走り回って……なんでそこまで必死だったんだ?よもや本当にスパイだなんてつまらん理由じゃなかろうな」
「除きなんて趣味の悪い……」
「失敬な事を。お前が勝手に視界に入ったんだぜ?それに女子にダイブするような人間のほうが趣味が悪いと思うんだがな」
「ぐ……」
さあ話してもらおうかと何も言い返せないセイマに問う。
「本当は呪術の勉強のためにここ来たわけではないんだ」
「魔術のために来たのか?魔術の家系なのか?」
「どっちも。母親が魔術師で父親が呪術師。どっちかしか選べなかったからサイコロで決めたんだ」
「サイコロォ!?」
それを聞き、大笑いするリン。仮にも自身の進路だろうとツッコむと、「やっぱり魔術にすべきだった。呪術科ツマンネーし」と返されさらに声を出し笑う。
「イヤぁ~。笑った笑った。腹筋攣るわこんなん」
「後悔先経たずってこういうこと言うんだなぁって」
「でもお前、きっと魔術科でも同じこと言ってたろうな」
「まぁね」
「じゃあこういうのはどうだ?」
そういってリンがロッカーから何かを取り出した。
サイズは指先に乗る程度。文字通り豆粒のような大きさの機械だ。
「これは……?」
「リン・フウ印の新素材だ。魔術の血があるなら魔力の扱いもできなくはないはずだろ?籠めてみな」
言われるとおりに魔力を籠める。肉の奥、骨髄から液体状の力を流し込むイメージである。
するとハエのような薄い羽が現れる。
「魔力に反応して具現化する鉱物だ。一度具現化したら任意で消すこともできる。あとはお前のイメージ次第でどうでも飛ぶことができる。ホバリングはもちろん、旋回もマニューバ飛行だってお手の物だぜ」
試しに上方向に飛ばすイメージをするとゆっくりと上昇し天井の高さまで飛ぶ。
その後も前後、下方向、ホバリングなどイメージできる範囲で飛ばしてみるとほとんどイメージしてからラグもなく飛ばせることが分かった。
「電子工作部との合作だ。面白れぇだろ。Bluetooth繋げばカメラからライブ映像も見れる。何なら録画も可能だ」
「す……ごいな!これがあれば!」
「盗撮し放題、な!」
「言い方はなんか引っかかるけど、そうだな!」
設置は出入り自由なリンが行い、定期的な回収も行われる。
実際の稼働は次の日から。翌日が楽しみなセイマはウキウキで家に帰るのであった。