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懐中電灯無双

作者: 砂鳥 二彦
掲載日:2020/01/21

 光は魔をはらう、そんな話を映画や小説、そしてゲームで聞いたことがある。


 俺はそれを信じ、いつもベルトに魔法の照明装置を付けている。

 それこそが『懐中電灯』、無敵の武器である。


 しかもこの懐中電灯、なんと多機能性を保持している。

 火おこしに、水の浄化、釣り用具、木の伐採、穴掘りなどが可能なギアが多数あり、ライト自体も普通の光だけではなく、紫外線照射が可能で、他にも微量の電磁波や放射線まで投射できるのだ。


 だから、異世界転移しても全く問題なかった。


「た、助けてください!」


 俺は自慢の懐中電灯を見せびらかしながらコンビニから帰る途中、昼にも関わらず突然暗闇に包まれた。


 目を凝らすと、俺のいる場所はアスファルトではなく乾いた土くれになり、ビルの壁面ではなく岩の断面になっていた。


 空には薄い口のような繊月せんげつがほの明るく照り、その場所は足元がやっと見える程度の光量だった。


 俺は自分の変化に怯えはしない。

 何故ならば最強の道具、懐中電灯があるからだ。


「今行く、任せろ!」


 俺は女性の甲高い叫びを聞き、素早く懐中電灯の光を照らす。


 俺の懐中電灯は大容量なので、こんな暗い夜でも目の前は車のライトのように明るくなった。


「ここですっ! 助けて、暗くて見えないの」


 俺が声の方に駆けだすと、その先は崖になっているのに気づいた。


 流石懐中電灯、もし無ければ滑落かつらくするところだった。


 俺は懐中電灯で下に光を向けると、声の主である少女を発見した。


 どうやら、滑った拍子に崖に生えた木の根と地面に挟まれて、動けなくなったようだ。


「うおっ、まぶしっ! もしかして、天のお迎えですか?」


 少女はブロンドの髪にウェーブのかかった、小麦色の健康そうな肌をした少女だった。


 暗闇でも少女の瞳は金色だと分かるくらい、まばゆいものだった。


 これも、懐中電灯のおかげで少女の魅力は220%アップだ。


「大丈夫ですか。お嬢さん。今助けに行きます」


 俺は颯爽さっそうと崖に生えた木々を足場にして、少女の元へ駆けつける。


 少女の足は複雑な根のうねりに飲み込まれているものの、懐中電灯のライトのおかげで難なく紐解けた。


「もう大丈夫ですよ。お嬢さん」


「ありがとうございます。ですが、その太陽のごとく明るい光、アナタは太陽神の使いなのですか?」


「フフフッ。これは何のことない私の宝具エクスカリバーですよ。これさえあれば、何も怖がることはありません」


 俺は懐中電灯を傍らに置き、少女の手を優しくとった。


 しかし、その手に這い上る小さな強襲者がいた。


「う、うわああああ!」


「こら、キキ。お使い様になんてことをするの!」


 キキと呼ばれるリスのような身体とウサギのような耳をした生き物が、俺の腕に噛みついた。


 俺は咄嗟とっさに腕を振るうも、キキは離れない。

 こいつは想像以上の危険生物デンジャラスアニマルだ。


「こ、この」


「待って、乱暴しないで」


 俺は懐中電灯を使ってキキを離そうとするが、少女に止められた。


 少女が俺の腕に噛みついているキキの頭を優しく撫でると、そいつはやっと口を離して大人しくなった。


 今では、少女の腕の中に納まり、ご機嫌よく毛づくろいさえしている。


「そ、それはお嬢さんの召喚生物サモンソルジャーですか?」


「この子は私のペットです。お使い様は見たことがないのですか?」


「そうですね。何しろ、ここには突然放り込まれたようで、右も左も分からないのです。まあ、この懐中電灯さえあれば、どちらに行っても迷いはありませんがね!」


「カイチュウデントウ?」


 少女は不思議そうに懐中電灯を眺める。

 その瞳は好奇心旺盛な子供そのもので、俺は少女に懐中電灯に備わった100の機能について語りたくなるほどだった。


 けれども、今は場所が悪い。


「お嬢さんの家まで送りましょう。大丈夫、こんな夜でも懐中電灯さえあれば問題ありません」


「ああ、助かります。お使い様、よろしくお願いします」


 俺は少女の手を、今度こそ握って起き上がらせた。


「失礼しました。私の名前はサンクレア、サニーとお呼びください」




 俺はサニーの手を引き、懐中電灯で闇を切り裂き、彼女の住んでいる村までたどり着いた。


 その村には立派な木組みの壁と門があり、俺達は門の前まで近づいた。


「と、止まれ。うおっ、まぶしっ!? 何だ、その光は!? 一体何者だ!」


 門の上から、男の声がした。

 そこには門番らしき男が長い槍を持って待機していた。


「門番さん。私です。サニーです。こちらの方は太陽のお使いさんです。私は彼に助けられたのです」


「太陽のお使い!? 待て、直ぐに門を開く」


 門の上の男は村の方に消え、しばらくすると門のかんぬきが外される音が響いた。


「早く入りなさい。お使い様も、お急ぎください」


 俺はサニーを連れて、胸を張って堂々と村に招かれた。


「サニー! どこから村の外に出たんだ!」


「すいません、門番さん。東の川の木組みが壊れていたので、そこから出てしまったのです」


「何だって、そいつは早く修理しないとな。ところで、こちらのお使い様は――」


 俺は自己紹介するように、懐中電灯の光を男の顔に向けた。


「うおっ、まぶしっ! 何だ、この光は」


 男は驚きすくみ上っていた。

 それも当然だ。

 こんな便利な道具かみのへいきを見せられたら、たじろぐに決まっている。


「ふむ、ではここの一番偉い人に会わせてもらいませんか。私もここには来たばかりなので、色々と情報が欲しいのです」


「そ、村長様にお伝えしましょう。どうぞ、お使い様。ついて来てください」


 俺は男に導かれ、村で最も立派な家の前に到着した。


「お使い様、しばらくおまちください」


 男がそう言って扉をノックし、中に入る。


 少しすると、また扉が開き、そこには初老の男が立っていた。


「ようこそ。旅の人、こんな老いぼれに何かようですか?」


 俺は再び自分の紹介にと、懐中電灯をかかげた。


「うおっ、まぶしっ! 何だ、この光は」


 村長は強烈な光を浴びて、改まった様子になった。


「も、申し訳ありません。お使い様。この度はどういったご用件でしょうか?」


「うむ、俺はどうやら異世界に迷い込んだらしくてな。こうして無双武器ゴットスレイヤーを持っていても情報がなければ動きようもない。そのため、村長に会いに来たのだ」


「そうですか。では中にお入りください。温かい飲み物と、よければ夕食もどうですか?」


「そうだな。いただこう」


 俺は村長の家に入り、サニーは門番の男に連れられて自分の家へ戻って行った。


 俺は客用の大きなテーブルにある、立派な木の椅子に座り、建物を僅かに照らす蝋燭ろうそくに照らされた。


「少し暗いな。どれ、光であふれさせよう」


 俺は懐中電灯を変形させ、カンテラの形状にする。


 そうして、カンテラを机の上に置き、電源をオンにすると、照り輝く灯りが村長の家を黄金色こがねいろの輝きで満たした。


「こ、これは……まるで昼間のようではないか!?」


 俺は当然のように構えた。

 だが、その神々(こうごう)しさは隠せないらしく、窓の外には村民らしき野次馬達も集まっていた。


「で、では、何から話しましょう」


「まずはこの世界と場所についてだな。端的たんてきに頼む」


「はい。まずこの村は外村そとむらと申しまして、文字通り国の辺境でございます。辺境と言っても国同士の境ではなく、大きな山脈に面していましてな。人同士の争いはありません。ですが――」


「もしかすると、魔界生物モンスターがいるのではないかな?」


「そ、その通りでございます。モンスターは日のある昼間にはおらず、夜にだけ村の外を徘徊しているのです。もしかしてモンスターに出会ったのですか?」


「いいや、向こうはこちらを恐れてか。まったく居なかったな」


「それは幸運なことです。モンスターは闇の生き物。普通の攻撃では歯が立ちません。洗礼を受けた聖堂騎士や輝器こうきと呼ばれる武器を持った傭兵でもなければ、太刀打ちできないのです。この村も教会の結界で守られていますが、何時守りを破られるか……」


「それは不安だな。だが、サニーという少女は夜なのに外出していたぞ。何か理由があるのか?」


「サニーですか。彼女にはモンスターに侵された毒のせいで伏している父親がいるのです。サニーの唯一の肉親は父親だけですから、毒を浄化するという月光樹の葉を取りに行ったのでしょう」


「月光樹?」


「元々月光樹は山向こうの魔界由来なのです。なんと卑劣なことに、モンスター達は解毒するための月光樹を餌にして、新たな犠牲者を呼び寄せているのです。

 私は、悔しい。モンスターさえいなければ、毒をわずらった兵士達も回復させることができるのに……」


「なるほどな」


 俺は異世界について完全に把握すると、椅子を押して立ち上がった。


「では、私がその月光樹を取りに行こう」


「お、おやめください! 月光樹は夜にしか葉を付けない植物。行っても危険なだけです」


「しかし、月光樹の葉は必要な物なのだろう? それにモンスターは夜にしか出ないということは、奴らは日光を嫌っているはずだ。それなら、私の力が役に立つはずだ」


 私はカンテラになっている懐中電灯を手にして、村長に光を浴びせた。


「うおっ、まぶしっ!?」


「ハハハッ。これさえあれば、闇など簡単に切り裂ける。任せておけ」


 俺は村長や村人を前にして「ガハハハ」と高笑いをした。




 完全に夜が更けた暗闇の中、俺は懐中電灯の光を頼りに、村の外を進んでいた。


 後ろには用心のためにと、村一番腕の立つ用心棒を連れてきている。


「まさかその用心棒が、女性とはな」


 俺は呆れたわけではない。

 意外だからそう言ったのだ。


 ただ、用心棒の女性は、その言葉にいたく傷ついたようだ。


「女だからって甘く見るんじゃないよ。それに私はレンっていうちゃんとした名前があるんだよ」


 レン、という男のような女性は、まさに女戦士という感じだ。


 むき出しの肩から腕にかけて、俺の腕2本もありそうな肉の盛り上がりがある。


 足腰もしっかりしたもので、まるで大地に根を張っているようだ。


「ふっ。しかし俺の懐中電灯を見ても、そんな口が叩けるかな」


 俺は道を照らしていた懐中電灯を、レンの顔面に向けた。


「うおっ、まぶしっ! ……でも、それだけさ。太陽の光なんて人間の私には怖くもない」


「何っ!」


 俺は初めて懐中電灯の脅威を恐れないレンに、驚愕した。


「けれども、それいいね。私の輝器こうきは数度切ると切れ味みたいに光が落ちちまう。いっそ、アンタみたいな光を放つ兵器が欲しい所だね」


 レンはそう言ってはかない光を放つ一振りの両手斧を揺さぶった。


 輝器こうき、それは文字通り輝く武器だ。輝石を濃縮してやっと数回モンスターを攻撃できる武器で、使うたびにその輝きは落ちるのだという。


 それでは、この神の武器である懐中電灯の足元にも及ばない。


「安心しろ。襲い掛かってくるモンスターは私が何とかしよう。レンは月光樹の採取だけに集中してくれ」


「……分かったよ。だけど、モンスターについては私の方が戦った経験は豊富だ。助言はちゃんと聞いてもらうよ」


「では、そうしてくれ」


 俺達は道中何事もなく、月光樹の生えているという場所に来ることができた。


「あれだよ。あれが月光樹」


 レンが指し示す植物は、白光が零れる美しい木だった。

 月光樹は幹も枝も根も白く、葉っぱだけが青白い魂のように実っていた。


「思ったより簡単に着いたな。後は葉っぱを持ち帰るとしよう」


「いや、どうやら私達はまんまとおびき寄せられたようだよ」


 レンがそう言って周囲を指さすと、そこには月光に姿を露わにした異形の者達がいた。


 見た目は小さな亜人、いわゆるゴブリンという奴だろう。

 彼らは数が多く、手には切れ味の悪そうなナイフや斧を持っている。


「ゴブリンなら私でも10体や20体はやれるよ。援護しな」


「待ちたまえ。そんなことをする必要はない」


 俺はひょいっと懐中電灯を持ち上げて、ゴブリンたちを照らし出す。


 ――グギャアアアアッ


 すると、ゴブリンたちの一角が黒い灰のように砕け散る。

 他のゴブリンたちも仲間の悲惨な姿と懐中電灯の光に怯えて、離れるように後退した。


「やはりな。こいつらは光に弱い」


「す、すごいよ。その懐中電灯とやら。私にもちょうだいよ」


「い、いや。懐中電灯も凄いが、私のおかげでもあるのだよ。そこのところ、間違わないでくれ」


 俺は気を取り直して、漆黒を切り裂く光刃こうじんを振るう。


 右に薙げば、右のゴブリンたちが消え。

 左に薙げば、左のゴブリンたちが消滅した。


 仲間たちがあっという間に消えたのを恐れてか、ゴブリンたちは次々と木々の陰や藪の中へと隠れてしまった。


「障害物があっては、光も届かぬな。レンよ。もしもの時はサポートしてくれたまえ」


「偉そうに。でも分かったよ。いざってときは私がどうにかするよ。今は月光樹の葉が重要さ」


 俺達は月光樹に近づき、葉っぱを手にする。


 背の低い俺は懐中電灯で周囲を監視し、背の高いレンは腕を伸ばして月光樹の葉を回収した。


「こりゃ大量だよ。これだけあれば村人全員の解毒をしてもおつりがくるよ」


 レンは麻布の袋に月光樹の葉を満載し、幼子おさなごのように喜んだ。


「では、帰ろうか」


 俺はレンを引き連れて帰ろうとした、その時だった。


 ――グオオオオッ


 月光樹の後ろから、肉食獣の遠吠えのような叫びが響いた。


 俺達が月光樹の方へ振り返ると、なんと月光樹の陰から幹と同じくらいの高さと太さをした鬼のような生き物が現れたのだ。


「お、オーガ! こいつは無理だ。聖堂騎士が30人いてやっと倒せる化け物だよ!」


 レンは恐れおののき、身構えることを忘れるも。

 俺はそんな奇襲に怯えはしなかった。


「ふっ。懐中電灯スラッシュ!」


 俺が懐中電灯でオーガの肉体を袈裟に斬る。


 これは、決まった。

 最後にかっこいいセリフも加えて――。


「あれ?」


 オーガはまだ立っていた。

 光によって斬られた場所は、黒い煙を上げて肉をこがしているものの、オーガ自身は元気そのものだ。


 ――グオオオオッ!


 オーガは痛みと怒りで咆哮を上げ、手に持っていた巨木のようなこん棒を振り落としてきた。


「危ないっ!」


 レンが俺とオーガの間に入り、防御態勢をとる。


 そしてこん棒の軌跡を両手斧で、上手く受け流した。


 ただその代償は大きい。

 レンはこん棒の勢いを完全に殺し切れず、横に吹き飛ばされたのだ。


「っ! 何やってんだよ。アンタ!」


「す、すまない。おかしいな。効果がいまいちか」


 俺は懐中電灯をいじる。


 慌てることはない。

 この懐中電灯には100の機能が付いているのだ。


 だから、落ち着いて操作すればバババババ、待て待て待てそのこん棒を振り上げるのを止めろ!


「ひ、光あれっ!」


 俺は賢明けんめいな動作で、懐中電灯の神業的力ゴッドフィンガーを解放する。


 それはシアン色よりも黒い光、紫外線照射装置の呪縛を解いたのだ。


 しかもカンテラに変形させることで、自分の周り一帯が紫色の光に包まれた。


 ――グオオオオオオッ!


 オーガだけではない、紫外線の光は物陰から隙をうかがって飛び出してきたゴブリンたちも巻き込む。


 その光はゴブリンの全身を一瞬で消失させ、オーガの身体さえも黒炎ヘルズファイヤーによって覆いつくしたのだ。


「おっととと」


 オーガが前のめりに倒れてきた。

 それを避けるように、俺は突進してきたレンの身体のあおりを受けて倒れた。


「むぎゅううっ!」


「大丈夫かい? 私がいなけりゃ潰されるところだったよ」


「か、感謝する。ただし次はもっと優しくしたまえ」


 懐中電灯を見ると、それはもう光を発していない。

 どうやら充電の電気を完全に使い切ったようだ。


 それでも安心すると良い。

 この懐中電灯は手動充電が可能で、手回し機を使えば再び使用可能だ。


 俺がそんな風に心の内で解説していると、山脈の向こうから光が漏れた。


「朝日だよ。月光樹は二重の袋に入れておいたから、枯れる心配はないさ。ゆっくりと帰るとするよ」


「そうだな。これも俺の活躍のたまものだな」


「はいはい、そうだよ。アンタは英雄だよ」


 俺とレンは月光樹の傍を後にした。


 その帰り道だが、俺の最大のピンチが出現した。


「げっ! こいつら」


 木々の間を通り抜けようとした時、その枝という枝に無数の生き物がすがりついていた。

 それはキキという動物と同じ、リスの身体とウサギの耳をした野獣キリングハントだ。


「安心しなよ。こいつはモヌカという生き物で、危険は――」


 レンが言い終わらないうちに、モヌカという生き物が一斉に俺へ襲い掛かってきた。


「ぎ、ぎえあああああっ!」


 モヌカは俺の頭、肩、腕、足に飛び乗り、その部位を噛んだ。


 その歯は雑食性のそれと同等で、俺の肉はすりつぶされるように悲鳴を上げた。


「いだだだだだっ!」


「ちょっと、アンタ。モヌカに何をしたの!?」


「し、知らない。俺はこいつらに恨みを買われるようなことは――」


 モヌカは俺の皮膚を引きちぎろうと引っ張り、毛をむしり、肉を食む。

 外傷はなく、肉を引きちぎられるほどではないが、痛い。

 とにかく痛いのだ。


「この野蛮な野獣デストロイイーターめええええっ!」


 俺は痛みにさいなまれながら、助けを求めて一目散に村へと向かっていった。

何となく思いついた短編。

反応が良ければ、長編にするかもしれない。

たぶん。


この作品、大体『アラン・ウェイク』という傑作ゲームの影響を受けてます。

このゲームでも主人公は光を武器に、敵と戦うゲームとなっています。

ストーリーもおもしろいよ。

他にも光を武器にするゲームはあったけど、何だったかな。

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