これは厳密には匿名ではない。
未来について考えている。匿名短編コンテストのテーマが「過去VS未来」だからだ。過去サイドの話はすでに書いたので、未来サイドの話を書こうとしているのだが、どうにもアイデアが出て来ない。未来。みらい。ミライ。大河ドラマ「いだてん」に出ている俳優……それは森山未來だ。
ずっと考え続けていたらどうにかなるかとも思っていたが、やっぱりプロットのかけらすら思いつかない。どうしたもんか。頭をかきむしっても、逆立ちしてみても、ラジオ体操をしてみても、何も思いつかない。そうだ、幼児の元に未来から成長した妹がやって来るなんてのは……それは細田守監督のアニメ映画「未来のミライ」だ。
散歩でもしてみたら何か思いつくかと思って街に出てみた。季節は知らないうちに移り変わっている……ようで、あんまり何も変わっていなかった。新刊が出ていないかと本屋をのぞいてみたが、新刊どころか雑誌の最新号ですら出ていない。……待てよ、この雑誌って昨日発売じゃなかったか? 何故「本日発売」のPOPがついている?
私は急いで家に帰って、新聞やテレビを確認してみた。新聞に載っているのは見覚えのある記事ばかりで、4コマ漫画ですら昨日見た奴だ。テレビ番組も昨日見たものしかやってない。おかげで昨日見逃していたドラマの最終回を見ることが出来た。……いやそういうことじゃなくて。もしかしなくても、時間ループにはまってしまったのか。
何ということだ。未来について考えすぎたせいなのか。未来について考えていたら、未来がなくなってしまった件。あ、これタイトルになりそう。……だから、そういうことじゃなくて。もしかして、私が未来についての作品を書き上げたら、ループから抜けられるのか。どうでもいいけど、締切前の作家なら、めっちゃうらやましがられる超常現象だなこれ。
がんばって書くしかないか。でないと未来が来ない。友人と食事に行く約束も果たせないし、本やマンガの新作も読めないし、来週封切になる映画も観られないし、楽しみにしてるイベントだって永遠に行けない。……そうだ、今起こってることをそのまま小説にしてみたらどうだろう。来ない未来も一応未来だ。
ループから抜けることを目指して、文字を打ち込む。文字数も考えないといけないから大変だ。だからこうやって余計な文章も書いたりする。無駄だし読みにくいからやめろ? ……まあその通りです、すみません。書き上げたらいつの間にか朝になっていて、次の日の新聞が配達されていた。めでたしめでたし。……さあ、仕事行かなきゃ。
が。
「いや、何なのこれ? 怒られない?」
試し読みを頼んだ友人はそう言った。
「ノリでやっちゃったのかも知れないけどさ、これは多分反則でしょ。大体匿名じゃないし」
辛口は友人の持ち味だが、言う通りでもあるので何も言えない。
「もう一度やり直し」
ねえ、これってループ再び?
「匿名で作品を発表する」というコンテストの趣旨を逆手に取った作品。
各段落の最初(「未来について……」なら「み」といった感じで)を拾ってみてください。
なお、カクヨムでの発表時とは少し変えています。