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匿名短編コンテスト作品集  作者: 水沢ながる
未来編
4/6

カサンドラにはぴったりの君

 未来を占うというのは、その結果を引き寄せるということなのかも知れない。

 いくつもある未来のうちから、一つの未来を選び取る行為。その一つが、占いなんじゃないか。そんな気がする。


「みゆきー、おっはよー!」

 隣の家の裕太が今朝も能天気な声をかけて来る。小さい頃からの腐れ縁、小学校も中学校も高校も同じクラスの幼馴染だ。

 どっちかと言うと体力バカな奴だけど、明るい性格だからか、男女問わず人気がある。

「裕太、朝練あったんじゃないの?」

「あったよ。でも終わったから、いっぺん家帰って腹ごしらえしてた」

 裕太のサッカー部は、全国大会に出られるかどうかの瀬戸際だ。なので、毎日朝から晩まで練習している。お腹もすくはずだ。

「……みゆきさあ、もう占いやんねーの?」

 学校へ行く道すがら、裕太は私に言った。

「え、なんで……そんなことを?」

「ほら、小学とか中学の頃、占いするのに熱中してたじゃん。結構当たるって言われてただろ。今度の試合の結果、占ってくんねーかなって」

 確かに、私は中学の頃までは占いに凝っていた。トランプやタロットで、しょっちゅうクラスメイトを占っていた。──でも。

「もう占いはやらないの」

「へ? なんで?」

「私の占い、当たるんだよ」

「いいじゃん、当たるんなら」

「……当たるの。悪い占いばっかり、百発百中で」

 そう。私の占いは、ケガや病気をするとか、事故が起こるとか、悪い卦に限ってとんでもない的中率を見せた。だから、友達も私自身も気味悪くなって、占いをするのはやめてしまった。

 まるで、ギリシャ神話のカサンドラだ。アポロン神に見染められて予言の力を授かったけど、彼の求愛を拒んだ為に不吉な予言しか出来なくなった王女。

「なんか了見の狭い神様だな、そいつ」

 裕太はどこかずれた感想を言った。

「プレゼントしたから愛してくれって、勘違いしたアイドルヲタじゃねーんだから」

 ま、そんなとこが裕太だ。


 数日後の日曜日。裕太のサッカー部は、他県の学校まで練習試合に行くことになった。今頃部員達はバスに乗って、高速道路を走っていることだろう。

 私はどういうわけか、朝から何となく不安を感じていた。思わず、しまっていたタロットカードを取り出してしまう程に。

 これは占いじゃない。ただカードをいじっているだけ。机の上にカードを広げ、一枚引いてみる。

 占いじゃない。見てるだけ。

 裏返す。──「太陽」の逆位置。「生命力の衰退、病気」という言葉が頭に浮かぶ。

 もう一枚。──「塔」の正位置。「崩壊、事故」という直感。

 ……ダメだ。悪いカードしか出て来ない。不安はどんどん大きくなる。その時、ピコン、とスマホから通知音がした。友達の真由からだ。

『みゆき! 今テレビで速報やってたんだけど、高速で事故だって!』

 あわててテレビをつけると、ちょうどアナウンサーがニュースを読んでいた。サッカー部のバスが走っている筈の高速道路で起きた、衝突事故。何台もの車が巻き込まれたらしい。……まさか。まさか……。

 呆然としていた私は、しばらく自分の電話が鳴っているのに気づかなかった。

「誰よ、こんな時に……」

 表示されている名前は──「裕太」。私はあわてて電話に出た。

『みゆきー?』

 あきれる程にのんきな、裕太の声が聞こえた。

「裕太! なに、どうして……!?」

『いやー、行く途中で監督が体調崩しちゃってさあ。PAに寄って休んでたら、でかい事故が起こって通行止めになっちまって。試合も出来そうにないから、向こうの学校に中止の連絡をして今から帰ろうってことになったんだ』

「えー……」

 病気も事故も当たったけど……何なのよ、これは!

 思い出せば、私がどんなに悪い占いを当てても、裕太だけは何だかんだで無事だった。修学旅行でクラスのほとんどが食中毒を起こした時も、裕太は嫌いな食材だったから食べてなかったし、仲間内でキャンプに行って川が増水した時も、裕太のテントだけ水の来ない場所にあった。

 ──もしかして裕太って、ものすごい強運の持ち主? 私の占いをものともしないくらいに?

 私の中で、急激に裕太の存在が大きくなった……気がした。


 バスはしばらくして戻って来た。監督は立ち寄ったPAから救急車で運ばれたそうだけど、大したことはないとのことだった。全国大会へ挑む試合には支障はなさそうだ。

 バスから降りて、荷物を下ろしている裕太に、私はそっと近寄った。

「裕太!」

「おう、みゆき。迎えに来てくれたのか?」

「まあね。一緒に帰ろう」

 裕太と一緒に、連れ立って帰る。

「残念だったね、試合出来なくて」

「ま、やってたら俺らが勝ってたけどな。もしかして、試合結果でも占ってくれてたのか?」

「しないよ、占いなんか」

 そう、占いはしない。裕太がどれだけ強運の持ち主でも。カサンドラにぴったりの相手でも。

 裕太との未来は、わからない方が面白そうだもの。

「匿名短編コンテスト 過去VS未来編」【未来001】。

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