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魔王国乱立

作者: ミスPちゃん

本当に力が有ったら魔王の方が楽しそうだと思いませんか・・・?

 300年の封印が解け、ついに魔王様が復活する。


今日は記念日となるだろう。


「魔王様、ご機嫌はいかがですか。」

「まだ少し身体が硬い気がするが、まあまあだ。それより我の不在の間の情報収集は怠っていないだろうな?」

「もちろんでございます。あの忌々しい勇者どもも存在しません。」

「手応えが無いのは寂しいが・・・明日にでも復活を宣言し、世界を我が手中に収める礎としよう。」

「畏まりました。」


 魔王様は勇者に殺されはしなかったが、あの賢者が造った封印魔法を受け、強制的に城の地下深くに埋められてしまった。魔王様に寿命というモノが存在していればそのまま死んでいたかもしれない。いつまでも若く、いつまでも美しい。私はあの時の若さは無いが、今度こそ魔王様の下で名を挙げ、いつまでも語り継がれる存在となりたいものだ。


「魔王様、近年の周辺国情勢の資料をお持ちしました。」


 側近の手下が数人入ってきて、魔王のデスクに書類が山積みされる。


「・・・すごい量だな、300年は長かったという事か。」

「いえ、これで30年分です。もっと古いのもありますがいかがいたしますか?」

「よ、要約して説明しろ。」


 魔王様と呼ばれるほどのお方なので、能力には問題はない。実は事務能力も意外なほど高い。書類にハンコを押すだけのバカとは違うのだ。しかし、私もこの量はどうしようかと思ったが、周辺国の細かい資料もあわせているので仕方ない。


「少々長くなりますがよろしいですか?」


 魔王様は優しい。飲み物と椅子を用意してくれた。やはり昨日今日建国したような連中とは違う。一つ目の分厚い資料を手に取り、説明を始める。


「最初に勇者情報です。18年前に彼の地にて生まれた子供に勇者の紋章が宿ったようです。これは予想通りなので致し方ありません。その勇者はアレフと名乗っており、16歳の時に旅立ってから()()()()()を打倒しております。」

「は?」

「申し訳ございません。何か不足がおありですか?」

「3人の魔王とは?」

「はい。」


 私は別の資料を持ち上げて確認する。


「一人目はドルンド元伯爵が150年ほど前に魔王を名乗り建国しました。周辺国を制圧し、一時は世界でも3番目の規模に成りましたが、勇者によって倒され、今は生き残った四天王の一人、アーダーベルンが引き継いでおります。ですが、弱ったところを他の魔王に攻め込まれてガタガタです。崩壊するのも時間の問題ですね。」


 勇者一人に負けるとは情けないものだ。ん?他?


「二人目は我ら魔王国より離反した元四天王のグリッヂです。」

「ああ、あのお調子者か。我がいなければ裏切るのは解っていたが、300年も待てないとはな。」

「その通りにございますね。35年前に人間の国を滅ぼした勢いで魔王を名乗って建国いたしましたが、統治能力がありません。ある程度は力でねじ伏せていたようでしたが、最終的に勇者に倒されました。」

「あいつの能力ならそんなもんだろう。よく付いてくる者がいたな。」

「魔力だけなら魔王様に近い能力が有りましたから。」

「脳みそが魔力でできてたからな・・・。」


 魔王様が難しい表情をする。流石に四天王の裏切りは無念な事でしょう。


「三人目ですが、こいつはただの人間です。財力に任せて私兵を集めているうちに自分が強いと勘違いして魔王を名乗りました。ただ、凄い資金力なので金に釣られる者が多く、我らの兵力も7割ほど減りました。」

「そんなにか?!」

「それだけではありません。勇者に討伐されるまでに約7000人の子供を作っております。今も勇者に抵抗しているようですが、資金の供給源が失われたようで困窮しており、魔王様が復活されるのを待って同盟を結びたいと申しております。」

「結ぶ価値が有るのか?」

「奪われた鉱山を取り戻せば資金に余裕が出来るとのことですので、一時的に結ぶのもありかと思われます。」

「・・・というか、なぜ奴らは魔王を名乗ったのだ?」

「真の魔王様はここにおられますが、何やら状況が変わりまして。」

「詳しく。」

「はい。」


 手下から別の資料を受け取る。咳き込むと魔王様に飲めと言われた。アルコールの低いワインだが喉を潤すにはちょうどいい。


「・・・失礼いたしました。魔王を名乗る理由についてなのですが、どうやら転生者が絡んでいるようです。」

「転生者?」

「はい。調べた結果、魔王様を封印した賢者も転生者の子孫でした。」

「転生者とはなんだ。」

「異世界より召喚された者のようです。現在分かっているだけで二人。子孫となるとかなりの数が存在していると思われます。転生者の基本能力として、何か一つだけ誰にも負けない能力が有ると言われており、死んでも無限復活する勇者とは別の存在で、死にはしますが、勇者以上の能力を持ちます。近年は転生勇者と呼ばれているようですね。元の世界で死んだはずなのに気が付いたらこの世界にいた、とのことです。」

「よく調べられたな。」

「それでしたら・・・しばらくお待ちください。」


 部下に指示をする。待ち時間が有るのでその間に魔王様に説明する。


「失った四天王の席が欲しいとの申し出があり、その地位に仮で就いています。」

「え?」

「転生勇者なのですが、魔王を斃すことに興味がないようで、人間に頼られるのを嫌っています。どうやら本人曰く・・・助けても強大過ぎる力に不信感を抱くのは間違いないから、それなら魔王の部下になって、悠々自適に暮らしたい。との・・・。」


 おや、来たかな。


「オノダセイジ、参上いたしました。・・・お、おおおお!魔王様ですね、お初にお目にかかります。頑張って偽魔王どもを懲らしめますのでどうかおひとつ・・・。」

「・・・転生勇者と申したな。なぜ我につく?」

「どんな魔法も受け付けないという能力が有ります。そして魔王を(たお)すまで老化しないという呪いも受けました。・・・という事は真の魔王様さえ死ななければ私は生き続けられるという事です。」

「そんな呪いが本当にあるのか?」

「お試しいただいても構いません。」


 魔王様は立ち上がりその者に魔法を放った。私なら溶けて消えてしまう程の高位魔法だが、その者は平然としている。次に老化しないという事だったので、魔王様の禁忌魔法である時空魔法によってその者の時間を500倍にする。変化はない。


「確かなようだな。時空魔法は効果が有ったのか無かったのか分からないが・・・。」

「そんな魔法が存在するんですね、しかし、理解していただけましたか?」

「うむ。いいだろう。我を裏切ることが無いという証拠さえあれば・・・。」

「それなら昨日ですが、魔王を斃してきました。」

「は?」


 4人目の魔王を倒したか。魔王様につきたいなどというのも事実か。人間の癖に変な奴だが、信じてもよさそうだ。


「ちょっと待て、魔王を倒したというのを信じる以前に、なんでそんなに魔王がいるのだ。」

「俺とは別の・・・といいますか、もう死んでしまったのでアレなんですけど。」


 200年ほど前に転生した者が、魔王が不在で何もできないまま死んだという話を聞いて、それなら自分が魔王に成ればいいじゃない!と、建国し、封印されている魔王より、今いる魔王のほうが恐ろしいと思わせる。どうせ勇者になって正義を貫いても、魔王がいなくなれば捨てられる。勇者も転生勇者も、魔王という存在が有って初めて成立する存在だという事を知ったときに、虚しさも覚えた。魔王を倒すためだけに使われるなんて社畜と変わらない。というかもっと酷い。休息もなく過酷な労働に耐えた挙句、伝説にしか残らないなんて楽しくない。死んだら意味がないじゃないか。それに―――


「解った分かった。もうよい。気持ちも十分伝わった。」


 魔王様は困惑している。社畜とは何であろうか?


「それで、自称魔王は今何人いるのだ。」

「58名です。」

「は?」

「・・・えっ、いや、間違えました、57名です。」


 違う、そうじゃない。多過ぎるだろ。


「全員が転生者ではないのだろ?」

「転生者の子孫が約半数です。」

「残りは?」

「魔王ブームの波に乗っただけの連中です。元盗賊とか、国王がそのまま魔王に成ったりとか。」

「魔王に成るといいことでもあるのか?」

「勇者が倒しに来ます。」

「それは良い事とは言えない筈だが。」

「いえ、今までは()()()()で資金を集めてもままならなかったのですが、()()()()で強国にするのに不信感を持つ者がなぜか少ないんです。」

「それはそうだろう。勇者は町を破壊しないが、魔物は破壊するからな。作っても壊される心配が少ないならその方がよいだろう。」


 流石魔王様。勇者の事を分かってらっしゃる。


「我が国の国力は大丈夫なのか?」

「ミスリル鉱山と、魔石工場を複数所有しております。兵力が下がりましたがその分資金に余裕がありますので、いつでも兵士の募集が可能です。」

「攻め込まれる心配は?」

「それならオノダセイジが撃退しました。勇者も説得して仲間にしようと交渉中です。」


 世の中が変わり過ぎだ。単純に魔王と勇者の物語じゃないぞ。勧善懲悪はどこへ行った?


「復活を宣言するの、もう少し待とうか。」

「なぜですか?魔王様の復活を待ち望む者も多くいますのに。」

「情勢がおかしすぎる。勇者に狙われるのが恐ろしいわけではない。これほど魔王が乱立すると、我の復活の宣言と同時に世界規模の戦争がはじまりかねん。今攻められるとまた封印される危険が有る。少し準備してからでも遅くはないだろう。」

「なるほど。わかりました。ではしばらくの間、魔王代理をたてましょうか。」

「そうだな、それで反応を見るのもありか。近日の復活を予想させれば反応も出るだろう。」


 半年後、魔王様の復活が近いことを世界に公表し、更に1年後に魔王様は復活を宣言した。世界は大混乱となり、我こそが真の魔王と名乗る者が増えた。これは真の魔王が偽魔王を倒し、()()()()()にする物語のプロローグである。





 だから、違う。そっち(平和)じゃない。





転生して勇者になる。

そして、伝説となりたいですか?


ちなみにこの魔王様は女性です。

あなた好みの魔王像を想像してお読みください。


お読みいただきありがとうございました。  m(_"_)m

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