五話 ゴブリン討伐
ギルドから出て、足早に歩くリンさんの後ろをついていき、
(会話がない……)そう思った俺は
「今日はすいません。よろしくお願いします。リンさんってギルマスの娘さんなんですね。」
リンさんは歩く速度をおとして俺の隣に並んで
「そうよ。」
「どっちも赤い髪ですもんねー。」
「まぁー?そうね。そんなに赤い髪が珍しいって訳でもないけど……ちなみにリンでいいわ。敬語もなしね。一つ上なんでしょ!?」
「じゃあ、リンっての職業って何ー?」
「私の職業は魔術師よ!」
「へー。魔法使えるなんて凄いっすねー。得意な魔法って何ですか?」
「敬語になってるわよ。まぁ、いいわ。私は火の魔法が得意ね。全員って訳でもないけど髪の毛の色がその人の得意属性を表してるとも言われてるの。」
「へー?そうなんですねー。」
知らない事が多く頭がパンクしそうだ。じゃあ、俺の黒髪はどんな属性なのかな?と聞こうかとしたところで残念ながら武器屋に着いてしまった。
「ここが武器屋よ!ガウディいる?」
そう言いながらリンが中に入ると髭面のオッサンが出てきた。
「おー。リン。どーした?武器の手入れか?」
リンは首を振って俺を手招きして呼び寄せ
「今日はこっちの方、斗真って言うんだけど、武器を見繕って欲しいの。」
髭面のオッサンが俺をじっと見つめて
「坊主。職業は何だ?」
「一応格闘家?かな?」とよくわからないながらもギルマスが言ってた事を思い出して答えた。
「ほぅ、格闘家とは珍しいなぁ。じゃあ、籠手と軽い防具でいいな。ちょっと待ってろ!」
そう言うとガウディは中に入って行った。
「ちょっと怖いけど腕は確かだから安心して。」
しばらくするとガウディが籠手と防具を持って出てきた。
「じゃあ、これが籠手と防具だ。ちょっと付けてみろ!」
カウンターの上に出された籠手と防具を手に取り付けてみるとサイズもピッタリでいい感じだ。
「サイズも問題なさそうだな。じゃあ、金額は金貨20枚だ!」
そう言われても金がない俺はリンを見ると
「じゃあ、これで。」
ガウディに金貨20枚を手渡した。
「まいど。じゃあ、またな。」
店から出ると俺は
「ありがと。」
すると、リンが俺に向かって
「言っとくけど、おごりじゃないから!給料からちゃんと引かれるから!」
(あー。そういえば年契約の特典の時に肩代わり出来るって言ってたな。結構な金額したし、一から冒険者始めるとなると金がかかりそうだな。)
「そうだったね。ただ冒険者始めるのもお金かかるね。そー考えると年契約っていいですね。初心者は年契約の人が多いんですか?」
「そんなわけないじゃない。みんな年契約にしても逃げたり死んだりしたら、回収できずに終わりじゃない。」
「言われてみたら…まぁー。そうかも。じゃあ、俺は年契約でいんですかね?」
「さぁー。私が決めた事じゃないし。いいんじゃない!?じゃあ、今からゴブリン討伐に向かうけど大丈夫?」
「はい。大丈夫です!」
町を出て乗り合い馬車に乗って、今見慣れた道を歩いている。
(たしか、ここらへんに倒れていたような。)
辺りをキョロキョロしていると
「魔獣は大体あそこの森の中にいるの。」と言って目の前の森を指差した。
(おー。あぶねー。最初森の中に行ってたらやばかったなぁ。「」)
そう思いながら森を見た。
森の中に入るとまだ昼過ぎぐらいだが暗く、湿っぽい感じた。
その時先にゴブリンの姿を見つけた。あわててリンの方を見ると、リンも気づいているようで「シーっ」と口に指を当てていた。
「運よく、一匹しかいないわね。じゃあ、斗真討伐できる?」
そう言われた途端急に緊張してきた、鼓動が速くなり、呼吸があさくなっていると、それをみかねたリンが
「大丈夫よ。ゴブリン一匹程度なら死なないわ。何かあっても私が守ってあげるから行ってきなさい!」
(なんと男前な!しかし、女性に心配されるようでは……)
「大丈夫!とりあえず行ってくる。」
呼吸を整えてゴブリンの方を冷静に見てみる。
元の世界で知っているゴブリンと見た目どおりだ。棍棒を持っているが、体格的には俺の方が大きい。なんだか負ける気はしない。ゆっくりゴブリンの方へ歩いていく。このまま気づかない内に奇襲してもいいかなと思ったが、どのくらいの強さなのか知る方が重要だと思い
「おい!」と、ゴブリンに3,4mあたりの所で声をかけた。
ゴブリンはビクッと驚いてこっちを見るとすぐに棍棒を振り上げて襲いかかってきた。何故か俺は冷静にすぐに襲いかかってくる所をみると話し合いは無理なんだなと思いつつ、棍棒を振り下ろしてくるタイミングでかわしながら、カウンターの右でゴブリンのアゴをとらえた!
ゴブリンはその場で倒れピクピクしている。とりあえず止めをささないと思い足でアゴを踏むつけるとゴブリンは動かなくなった。
俺自身元の世界で喧嘩は数える程度しかしていない。が、この世界でのさっきの動きは何だ?それに殺すのも躊躇いがなかった。感情と行動のちぐはぐさと隣に死んだゴブリンを見ると急に気持ち悪くなり、その場で吐いた。
「ほら、水だ。飲め。」
声のする方に目を向けるとリンが、水の入った革袋を俺に差し出していた。
ありがたく受け取り、飲んだりうがいしていると、
「ゴブリンの倒しかた、倒した後の止めを見ると初心者には到底見えないが、その姿を見るとやっぱり初心者だな。誰もが通る道だ。慣れていくしかない。」
まだ、涙目の俺に対してリンは
「まだ行けるか?」
「あぁ。」と小声でこたえた。
「取り敢えず耳を削いで。持って帰ると討伐の証としてギルドからお金がもらえる。ゴブリンから得れるのはそれぐらいだ。」
リンがナイフを差し出して来たので気持ち悪いがゴブリンの両耳を切り取り、持たされていた革袋の中に放り込んだ。
しかし、両耳を切り取る事は気持ち悪かったが、殺すことにさっきはなんの躊躇もなかった。前の世界では海外旅行の時に銃を撃つのも躊躇いがあったが、こっちの世界にもし銃があればなんの躊躇いもなく銃を引ける気がする。俺はそんな残酷な事が出来る人間だったかと自問自答するが、そんなあまっちょろい考えでは生きていけないのだろう。と思い冷静に行動する自分に素直に従うようにした。
ゴブリンの散策を続けると今度は3体のゴブリンを見つけた。2体は先程と同様に棍棒を持っており、もう1体は錆びついた剣を持っていた。
「3体いる。どーする。手伝おうか?」リンがそう言ってきたが、さっきの感覚を確かめたかったため
「いや、俺1人でやる。何かあればフォローしてくれ。」
今度は3体いるので奇襲も試したくなり、出来る限り見つからないように、背後から近づいていく。5mぐらいの距離から走って行き、ゴブリンは気付いてこっちを見ると、「グギャー」っと叫ぶが気にせずゴブリンを殴るとその後ろにいたゴブリンも一緒に後ろにぶっ飛び倒れる。その時隣にいたゴブリンが切り付けて来る手を左手で受け止め、右でボディブロー!錆びている剣を離しうずくまりかけたゴブリンに左ハイキックするとゴブリンはうつ伏せに倒れた。一緒に倒れたゴブリンが起き上がろうとしていたので走って行き頭を蹴ると首が折れた音がして、倒れた。最初に殴ったゴブリンも死んでおり、あっけなく討伐出来た。
ふと横にリンがおり、
「見事だな。」と言ってナイフを差し出して来た。
ナイフを受け取り耳を削いでいると
「今日は夜営の準備もしてきてないし、これで帰ろう。」
削いだ耳を革袋に放り込み、帰路についた。