四話 リン
次の日の朝、俺は冒険者ギルドの前に立って、軽く頬を両手で叩き気合いを入れて中に入って行った。
(よし!やるか!)
中に入ると屈強な男どもがごったがえしており、賑やかな雰囲気だった。テンプレみたく絡まれることもなく、どこに行けばいいのかキョロキョロしていると、赤い髪の少女がこっちに向かってきた。
「何か用なの?」ぶっきらぼうに話かけてきた少女に対して
「ここのギルドマスターから来るようにらいわれたんだけど……」
「親父から?」
その時2階から声がしたので見上げると昨日のいかついオッサンことギルマスだった。
「よー!坊主。よく来た。こっちに上がってこい。ちょうどいい。リンも一緒に上がってこい。」
流石英雄と呼ばれた男だけあって、屈強な男達も憧れの眼差しでギルマスを見ていた。
(リンと呼ばれた少女はさっき話掛けてきた子だ。娘なのかなあー?)と思いながら二人で一緒に上がって行った。
「よくきた。まぁー。ここに座れ。」促されるままに座るとリンが
「またスカウトしてきたの?大丈夫なの?」
「また?」
「あんた、戦闘経験あんの?」
赤毛の少女リンが話掛けてきたので俺は首を左右にふると、
「じゃあ、魔法使えんの?」
また首を左右に振った。するとリンは立ち上がってギルマスに向かって
「親父!こんな奴呼んでどーすんのよ?親父が無理に呼ぶと呼ばれた方は無理にでも来ないと行けないのわかってるでしょ!」するとギルマスはリンをなだめるように両手をふり、
「まあ、落ち着け!リン。」と言ってリンを席につかせ、俺の方を向いて
「まずは自己紹介からだな。俺の名前はタイガ。ギルドマスターをやっている。こっちは娘のリン。ギルド職員兼冒険者だ。坊主。お前の名前は?」
「俺の名前は中崎斗真。18歳。」
俺がそう言うとリンが小声で(私の一つ上かよ!)と言っている声が聞こえた。
「よし。斗真。お前も呼ばれた理由はなんとなく気づいていると思うが、冒険者をやってみないか?」
もともと冒険者になるつもりでやって来たので俺はすぐに
「はい。これからよろしくお願いします。」
「あんた大丈夫なの?戦闘経験ないんでしょ!」
即決の俺にリンさんは驚いていたようだが
「まぁ、身の丈にあった依頼を受ければ大丈夫なのかと………それに討伐依頼しかないという訳ではないと思いますし……あと、なによりお金を稼がないと……」
もとの世界で得た知識を言ってみるとギルマスは
「ほぉー。よく知ってるなぁー。斗真。お前は俺がスカウトしたんだ。金は心配するな!初心者だし、戦闘訓練も俺や、手の空いた職員が鍛えてやる。ただ依頼は俺が選んだ依頼をやってもらおうと思う。つまり年契約だ。」
「はぁー。」年契約と言われてもよくわからず戸惑っているとメガネをかけたキレイな女性のギルド職員の制服を来た人がやって来て
「年契約とはギルド職員兼冒険者の事です。リンさんもそうですが、ギルドは優秀な冒険者を手離さないために、一定数の冒険者を年単位で契約しているのです。こちら側としたら、依頼の処理の見込みがある程度把握できるので、依頼料の回収の効率が良くなり、冒険者側としたら、駆け出しの方ですと戦闘訓練や、寮がございますし、他の冒険者と違って力量も把握してますので安全な依頼をご提供出来ます。」
と説明した後にメガネをクイッと上げ、手に持っていた書類をギルドマスターに渡した。
「おー。ありがと。ちなみにこちらはレイラさんだ。じゃあ、書類に名前を書いてくれ。月収はぜいたくをしなければやっていける金額だ。」
書類にサインをするのは少し躊躇いがあったが、ドラゴンスレイヤーが詐欺まがいな事をするとは思えないし、俺としても1年間は食いっぱぐれる事はなく、この世界の事を学ぶいい機会だと思い、書類にサインした。
「斗真の担当はレイラさんにしたから、何かわからない事があればレイラさんに聞いてくれ!」
レイラさんにこれからよろしくお願いします。の意味を込めてお辞儀ををするとレイラさんのメガネが光った気がした。
「じゃあ、早速斗真の力量を測るためにゴブリンでも討伐してもらうか!!」
「えーっ!」なんかブラック企業の匂いを感じつつ
「早速討伐ですか?大丈夫なんですかねー?」不安げに聞いてみると
「大丈夫だ。リンと一緒に行ってもらう。」
「リン。一緒に武器や防具を選んでからゴブリン討伐に行ってくれ!ちなみに職業は格闘家だ!」
リンさんは嫌々ながらも立ち上がり
「ついてきな!」
これから俺の冒険者としての人生が始まる。