十八話 マインティコア討伐2
馬車に乗って3日目にようやくトレイユに着いてギルマスの所に案内された。
「よく来てくれた。感謝する。俺はギルマスのビクトールだ。」
「リンです。こっちからシルクと斗真。私とシルクがB級。斗真がC級の冒険者です。」
リンが代表としてトレイユのギルマスと話す。
「今回はよろしく頼む。早速で悪いが、事の成り行きはこうだ、、、」
村でマインティコアが現れ村人が襲われたらしく、生き残った村人が冒険者ギルドに駆け込んで来た。その襲われた村がB級冒険者パーティーの生まれ育った村で討伐に向かったみたいだが、連絡がないので見に行くとマインティコアがまだおり、その事からすでに殺されてしまったと判断した。討伐に向かったB級冒険者パーティーはトレイユでNo.1だった事から、他の都市の冒険者ギルドを頼る事になったのだと言う。トレイユの冒険者がマインティコアを見張っており、まだ情報が来てないのでおそらくまだその村にいるだろう。との事だ。
「で、お前達とトレイユのもう1つのB級パーティーでマインティコアを討伐して欲しい。だが、あいつらが殺られてしまった以上正直難しいかもしれん。無理だと判断したらすぐに引き返してもらって構わない。」
「まぁー、そんな事言わねーで下さいよ。ギルマス!」
突然背後から男二人、女一人のパーティーが入ってきた。
(こいつらがもう1つのB級パーティーか。)
「俺たちがマインティコアを殺ってきますけー!」
そう言うのが、金髪のリーゼントをしたヤンキーみたいな兄ちゃんだ。
(いい歳こいて金髪にリーゼントは恥ずかしくないのだろうか!?)
「それが出来たら一番いいが、、判断を間違えるなよ!熱くなりすぎるのがお前の長所でもあり、短所でもある。この街唯一のB級パーティーでもあるお前達が殺られてしまったらこのソレイユがどうなるか考えて判断しろ!」
「ギルマス!始めから負けること考えて行動するから負けるんすよ。勝つことだけ考えてたら勝ちますから!」
「はあー。もういい。紹介しよう。リンさんとシルクさんと斗真君だ。今回一緒に討伐に行ってもらう。」
「噂は知ってるぜ。最年少のB級冒険者で、英雄の娘だからな。」
「リンです。よろしく。名前聞いてもいい?」
「あぁ。俺の名前はリョックだ。こっちのでかいのがトール。紅一点のビニだ。全員B級だ。そっちは1人C級がいたなぁー。」
(俺のことか?)
「斗真です。よろしくお願いします。」
「足引っ張るなよ!坊主。」
「じゃあ、準備はいいか!?村まで少し距離がある。馬車の中で作戦を練ろうじゃないの!」
向こうのパーティーはリョック、トール、ビニの順に槍使い、タンク、炎の魔術師。特にタンクのトールは顔以外肉体が見えないくらいの鎧を装着していた。
「じゃあ、作戦はこうだ。まずビニとリンの魔術でマインティコアを攻撃。その隙にトール、シルク、斗真が近接にてマインティコアの気を引きながら戦う。で、俺が隙をついて必殺技をお見舞いする!どうだ?」
「悪くないわ。シルクと斗真はどう?」
「私も構わないわ。」「俺も問題ない。」
「じゃあこの作戦で行くぜ。」
「この作戦がうまく行かなかった時はどーします?」
俺がそう言うとリョックは鼻で笑うように
「この作戦で大丈夫だ。負けるときのことなんざ考えなくてもいい!怖いならお前は遠くから応援しとけ!くれぐれも足だけは引っ張るなよ!」
(はぁ、槍使いだけにやりにくいなっ。)と頭の中でダジャレがふと思い浮かびつい、「ププッ」と吹き出してしまった。
「おい、坊主!何がおかしい!?」
(ヤバ。怒らせちゃった。どーしよ。。。)
俺が黙っていると、リンが
「大丈夫よ。斗真は足を引っ張らないわ!今は仲間割れしてる場合じゃないでしょ!!」
「チッ!!」
険悪な雰囲気のまま村の近くまで行くと、見張りの冒険者がやって来て
「リョックさん。まだ奴は村の中にいますぜ。」
「だとよ。じゃ、準備はいいな!行くぞ!」
村に向かって歩いている途中、リンが
「ちょっと斗真!なんでさっきは喧嘩売るように笑ったのよ!?そんな人だったっけ?」
「いや、違うんだ。ちょっと頭の中でダジャレが浮かんで、」
「ダジャレ!?どんなダジャレよ?」
「槍使いだけにやりにくいなって……」
「ふふっ。あんたセンスあるわ。でも舐められたままで終わらせないでしょ!?」
「出番があればね。」
「期待しているから頑張ってね。」
「あぁ。リンも頑張って!」
お互いに拳と拳をあわせてお互いの持ち場へと向かった。
同じ持ち場のシルク姉さんが「いーな。何今の!?若いわね。」とか言っていたが恥ずかしいので無視しといた。
「あれがマインティコア?寝てるのか!?」
(ライオンくらいか?それよりでかい?)
「尻尾に気をつけて、毒持ってるから!」
「了解。」
全員が持ち場についたのを確認すると、前方から二つの炎がマインティコアを目掛け放たれた。
「いくぞ!」
正面からはトールと少し遅れてリョック、俺とシルク姉さんが後方から飛び出す。マインティコアは炎に気付き、かわし、何発か受けても、構わず炎の向かって来た方に走っていく。トールが正面で受け止めようとしたとき
「うわぁぁぁーー!」
(うわっ!速いし、炎もあまり効いてないし、トールも吹き飛ばされた。急げ!)
ただ、走っていた勢いは止まり、今はリョックと一騎討ちのような格好になっている。マインティコアがリョックに向かって走り込んでいく。リョックがそれに合わせて槍を突くが、ジャンプして槍をかわし、無防備な後方から前足で攻撃するタイミングで飛び蹴りが
「間に合えっ!」
ちょうど喉元にヒットし、マインティコアは少し後方に下がる。
「トーーール!!早く起きろ!!」
リョックの叫びでトールが急いで起きて、こっちに向かって来た。少し、作戦はこじれたが、俺たちがとり囲む体勢にはなった。その時、マインティコアは俺に襲いかかってくる。その振り下ろしてくる前足を籠手で受け止める。
「くっ!シルク!!」
受け止めている間、無防備の身体をシルク姉さんが切りつける。
「くっ!硬い。」
腹に蹴りを入れて。また最初の陣形に戻る。
(魔獣は単純だな。気を見ればまるわかりだ。この事か、ギルマスが言っていたのは。それにしても硬いのはハウルベアーと同じ。さて、どうする。)
すると、マインティコアは向きを変えトールに襲いかかる。しかし走る距離が短く勢いがないため今度は受け止められてしまう。
すると、鎧の上から噛みついてきた。
「うわぁぁぁーー」
俺はすぐさま空いたボディに一発、頭にも一発入れる。すると、トールから離れ、俺と対峙した。
(効いていないか?)
トールの噛みつかれた鎧の肩の部分は変形して、肩が折られたみたいだ。
「こっちだ。」
リョックが叫び、俺はすぐにリョックの方へ駆けつけるとマインティコアもついてきた。リョックの近くにマインティコアが近づくと、炎が競り上がりマインティコアを炎が包む!さらにビニから炎の援護のおまけ付きだ!
「グガァァァアーーー!!」
苦しい悲鳴を上げてるあいだに、リョックが槍を放つ!!
「これでもくらいやがれ!!」
炎の中で喉元を狙った一撃は急に向きを変えたマインティコアの胴体に刺さると、尻尾で槍を折られ、毒針を飛ばしてきた。リョックが毒針の餌食となり、シルクがすかさず解毒剤を飲ませ、後方に下がる。
(トール、リョックが離脱。シルクも今は後方。撤退するなら今か!?)
頭の中で撤退も視野に入れていたが、ふとギルマスから言われた事がよみがえる。
(次は勝て!)
(そうだ。まだ終わっちゃいない。ここで立ち止まってもギルマスはもういなくなる。俺が、俺たちでなんとかしないと!)
「リン!後何秒もつ?」
「もって10秒!」
その間俺は気をためる事に集中する。炎が明けると共に喉元に貫手。
(よし、これで相手の呼吸を潰した。後は、気の流れを読め!意識を止めるな!左前足を振り上げる瞬間に右に移動し、目を潰す。相手は動かない。なら、もう一度首に貫手。尻尾が来る!下をすり抜けこっちの目を潰す。相手は動かない。なら、もう一度首に貫手。噛みついて来る!下がってかわす。下からアッパー!
相手は動かない。左フック!右フック!相手は動かない。顎を蹴りあげる!左前足が来る!最後だ!がら空きの心臓へ正拳突き!
)
(なんだ!?この硬い金属のような感触は?)
と思っていると、マインティコアの体の中から黒炎が上がりはじめた。とっさに距離を取って、その様子を眺めていた。するとリンが駆け寄ってきて、
「何!?この炎?なんだか闇の精霊の炎みたいだわ。あなたがやったの?」
「いや、心臓貫いた時に妙な感触があって、気づいたらこんな感じだ。きっと前のハウルベアーと同じ奴が仕掛けたに違いない。っとみんなは?」
トールは肩を押さえて立っており、リョックもこっちが見る限りでは大丈夫そうだ。とりあえず皆のところへ駆け寄るとリョックが、
「ははっ、足引っ張たのは俺か?申し訳なかったな。」
「いや、俺1人では勝てなかったから、みんなの協力のおかげさ。」
「いい子ちゃんか!?痛つっ。ビニ!もっと優しく毒針抜いてくれよ!」
「返しが付いてるんだから無理よ。我慢しなさい。無駄口叩くからそうなるのよ!」
リョックの毒針を全部抜くのを待って、
「とりあえず、、あいつらの装備だけは探しとかないとな!」
村の中を散策すると、すぐに冒険者らしき遺体が4つ転がってるのを見つけた。
「すぐ見つかったな。残念だ。。。」
淡い期待だと想いながらも、少しは生きていて欲しいのではないかと想っているリョックを見て、胸がしめつけられそうになる。俺がリョックの立場ならと考えてしまう。前にギルマスから強くなることの意義を問われたが、大切な仲間を傷つけさないため、言い換えると、そんな状況に陥った自分が苦しまないようにするためなのだろう。