一話 中崎斗真
よもうからなろうへ
(あ……なんだ。ここは。)
倒れていた身体をゆっくり起こし辺りを見渡してみると、自分が草原に倒れていたのだとわかった。回りの風景は山があり、森があり、まるで大自然の様であった。
(たしか、友達五人、車で高校の卒業旅行にスキー旅行に向かう途中…………………あっ!スリップしてきたトラックにぶつかった気が………ってことはここは天国か!?)
軽く体を伸ばし、歩いてみる。
(普通に歩けるな。)
(よし、次は軽くほっぺたをつねってみよう。)
(うん。痛い。)
大きく息を吸い込んでみるとほのかに草の匂いがして、のどかな気分になってきそうだ。
(体は大丈夫そうだな。ってかどこに行けばいんだろ?)
再度見渡してみても三途の川も他に人も建物も何も見当たらない。誰に説明する訳でもないが俺の名前は中崎斗真。この春から大学に通うはずだった18歳だ。
「まっ!とりあえず歩いてみますか!」
どのくらい歩いただろう。おそらく三時間ぐらい歩いても風景は何も変わってない。ちなみに見渡した風景には山脈や森があり、さすがに山脈や森の近くより離れた所の方が何か建物なり、人なりに出会うだろうと思って歩いてきた。それにしても体に疲れは出てこない。試しに走ったり跳んだりしてみるといつもより体が軽く感じていた。もうしばらく歩くと整えられた道に出れたのでその道を辿って歩くことにした。さすがに疲れがみえたころ街のような建物が見えた。
「やっと着いた……」
街の入口には
(ようこそ!辺境の町 ホライズン)
と書かれた横断幕があり、日本語でも英語でもないが不思議と読むことが出来た。
(なんだ?ここ?閻魔様とかいる雰囲気ちゃうし、普通に町やしなー。日本語通じるかわからないけど、とりあえず聞いてみよ。)
とりあえず門番みたいな人に聞いてみることにした。
「あのー………」
「何か?」
(ほっ!とりあえず日本語でいけるみたいやな。)
「初めてここに来たんですけど、とりあえずどこ行けばいいかわかりますか?」
「は?何が目的ですか?」
「おそらく、死んだんだと思うのですが、なんか天国か地獄かを審判してくれる所に最初は向かうと思うのですが……」
「お前!からかってんのか!?忙しいからもうあっちいかんかい!」
「すいません!!!」
その場から逃げるように街中へ走って行き、噴水の前の広場のベンチに腰掛けた。
(なんかおかしい。たしかに死んだ気はするけど………それに行き交う人も明らかに外人やし。しかも格好が装備みたいなん付けてたり、まるRPGの世界や。服装も中世っぽいし、街並みはヨーロッパやし。なんか別の世界に来たみたいな気が………あれ?ひょっとして異世界転移か?)
その時俺の隣にギターのような楽器を持ってテンガロンハットをかぶったおっさんがやってくると、そのおっさんの回りに数人集まり、テンガロンハットのおっさんは弾き語り始めた。
「今から約20年前、王都ロッペンザックに赤いマグマの色をした恐ろしいドラゴンが降りたったーー!!」
(ド、ドラゴン?)
ただ、観客の様子は落胆したように
「またその話かー!」「もう行こーぜー」
みんな帰って行き、回りには誰もいなくなってしまった。
「この噺ももう終わりかなー」っとおっさんがため息をついていたが俺の気持ちは高ぶっていた。
「あのー、その話は事実なんですか?」
「なんだ?兄ちゃん。知らねーのか?こんな有名な噺。事実も事実。王都に行ってみたら銅像も飾ってある。」
(うわー………なんだこれは?夢か?壮大なドッキリか?やっぱり異世界にやって来たのか?)
俺は頭を抱えた。
(これが異世界転移だとしたらこれからどーやって生活しよー!?テンプレでは冒険者になってチート能力でハーレムだけど…そんなこと出来そうにないしなぁー)
「はあー………」
俺がため息ついて頭を抱えているのを見てテンガロンハットのおっさんが
「どーした?兄ちゃん。ため息なんかついて。」
「いやー、これからの生活を考えたら、つい……」
「そーかぁ……。わしもこれからの事を考えるとため息出るなぁー」
「「はあー……」」
こうして頭を抱えててもしょうがないと思い、とりあえずこの世界の事について情報を少しでも集めようと
「ちなみにテンガロンハットのおっさんの職業って吟遊詩人なんだすか?」と聞いてみた。
「なんじゃ!?テンガ!?ってゆーのはわからんがわしの職業は吟遊詩人じゃ!じゃけど、ネタの噺がなくてなぁー。あんまり稼がれん。」
「ちなみにドラゴンを倒す事とかよくあるんですか?」
「そんなことがしょっちゅうあったら人もエルフもみんなおらんなるわい!」
(エルフ!?エルフもいるんだー。この世界。)
「この町にもエルフっているんですか?」
と聞くとおっさんは目を丸めて、
「兄ちゃん。頭大丈夫か?どこから来た?エルフとわしら人族とは昔から相互不可侵不干渉の条約を結んどるから、会えるわけなかろーが!」
(ヤバっ!色々聞いてみたら不審がられた。)
しどろもどろになりながらも、
「かなり、田舎の方に住んでたもんで、世間の事はよーわからんのです。」
「ほーかー。ほな、もう行くで。兄ちゃんも元気でな!」
おっさんがどこかに行こうとした時に、突然閃いて俺はたまらずおっさんに声をかけた。
「ちょっ、ちょっと待っておじさん。」
「なんじゃ!?」と振り向きなが応えたおっさんはあまり関わり合いたくない素振りだが、関係ない。俺の生活がかかっている!