仲良くね(作:奈月ねこ)
「いざ!」
「いざ!」
事の起こりは15分前。近所の友達と拓実は遊んでいた。そこへやって来たのが正実。
二人は名前が似ていることから、周囲にからかわれていた。「どっちが本物か」と。
またしても周囲の友達は言い始めた。
「正実だ。おい、拓実、正実だぞ」
拓実はうんざりしていた。名前が似ているなんてよくあることだし。でも友達は楽しそうだ。それが遊びになってしまっている。
「拓実、正実と勝負だ!どっちが本物か教えてやれ!」
「そうだ。そうだ」
どうしてそこまで話が大きくなるのかわからない。それに勝負って?? と思っていると、友達の一人が木の棒を手渡してくれた。正実にも。正実は困っているようだ。当然だろう。こっちの都合で木の棒をわたされたのだから。
「拓実!勝負だ!」
だから、何の!?
この声に反応したのは正実。
「これで拓実を倒せばいいわけ?」
「お前に出来るのか?拓実が勝つに決まってる!」
そして最初に至る。
何故だ。何故僕は正実と木の棒で向き合っているんだ。
「やあ!」
いきなりの正実の攻撃。かわすのが精一杯。
「拓実、頑張れ!」
だから、倒してどうなるんだ!?
「たあ!」
またも正実の攻撃。
「拓実、何やってんだよ!」
「うるせー」
と、そんな時、大人が一人やって来た。近所の子のお母さんだ。
「何をやってるの、あなたたち!」
「やべっ、逃げろ!」
友達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そこに残されたのは、正実と拓実。
「正実ちゃん、怪我はない?」
「うん」
「拓実くん、女の子相手に木の棒を振り回してはいけないわよ」
「うん……」
僕の声は小さい。僕も悪いと思っていたからだ。
そう。正実は女の子。それを皆でからかっていたのだ。
「まだ幼稚園なんだから、皆で仲良くね」
「うん」
またもやうなだれて、僕は帰ることになった。正実と一緒に。正実に謝りたいけど、なんて言ったら……。
「正実、その……」
「何?」
正実はきついように見えるが、単に正直なだけ。だから、直球な物言いをする。
「……ごめん」
僕の声は蚊の鳴くほど小さかった。
「別に気にしてない」
僕の声は正実に届いていた。
ゆっくりと二人で家へ帰ってゆく。なんだかそわそわとしてきた。
「じゃあ、こっちだから」
正実はさっさと自分の家の方へと行ってしまった。
翌日。
「拓実!昨日は正実と楽しそうだったな!」
今度はそっちか。
「だったら何だよ」
僕の口からは意外な言葉が出た。あれ?これってなんだか……。
「拓実が正実のこと好きだってよ!」
何でそうなる!?
「正実。拓実のことどう思ってるんだよ」
との問いに、正実は答えた。
「いいんじゃない。あんたたちみたいにうるさくないし」
え?それって……。
「カップル誕生!」
またもや皆がうるさい。
「「うるさいなあ」」
正実と声が重なった。
それからだ。正実と仲良くなったのは。
「拓実!ボケッとするな!」
バシッ
「いてっ」
高校生になった今では、剣道の腕は正実が上。俺をしごくのが楽しいらしい。
皆には、「男女逆転カップル」と言われている。




