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ELEMENT2019冬号  作者: ELEMENTメンバー
想像の翼
12/13

賢い人には友がない(作:SIN)


 シュウと運命共同体になったのは丁度1年前の今日、大晦日の事だった。

 能力者や道具に関わる戦いに巻き込ませずに1年という時間を過ごす事は出来たが……何かが起きるのはきっとこれからになるのだろう。

 本当は貴重品店が現れるあの空き地にも行って欲しくないが、行動を規制し過ぎると余計に「知りたい」という感情を刺激する事になる。そうなれば情報を教えてくれそうな相手にホイホイ着いて行ってしまう可能性が高まる。

 ホーホケキョ☆

 ホーホケキョ☆

 着信音が鳴ったのは昼食を食べている時で、相手はシュウ。だから俺はてっきりカウントダウンイベントへの参加要請だと思い、少々面倒臭そうに、

 「なに?」

 と、一言。

 別に行きたくない訳じゃな……いや、行きたくないのか。

 イベントが裏山で行われてさえいなければそれなりには楽しみに出来たのだろうし、シロがイベントに行くと聞きさえしていなければ……

 「ゴメン、ちょっと悪いんやけど俺ん家来てくれる?」

 ん?

 様子が可笑しい。

 どうやらイベントへの参加要請ではなさそうだ。

 「分かった。スグ行く」

 自分でもビックリする位の素早さでシュウの住むマンション前に来たものの、余りにも早くに到着して「会いたかった」等と勘違いされても困るので、無駄に缶ジュース1本分時間をつぶしてみた。

 ピーンポーン♪

 チャイムを鳴らして1秒後に聞こえた足音は、玄関先まで来た後遠ざかり、少しウロウロしてからまた玄関先に来て、少し立ち止まって無音の時間の後カチャリと開いた。

 「いらっしゃーい……」

 顔だけ出してくるシュウの表情は困り顔で、何か……とんでもない事に巻き込まれたのではないだろうか?とか心配してみても、特になんともなさそうだし……考え過ぎか。

 「お邪魔しまー……」

 部屋の中に1歩入った瞬間、靴を脱ぐより先に気がついた違和感。

 いや、違和感と言うよりもコメントがし難い状況を目の当たりにしたと言う方が正しいのか?

 「アハハハ……説明するから、上がって」

 そう言って俺を部屋の中に促しているシュウは、大事そうに1体の人形を抱えているのだ。それもぬいぐるみとかそういう系統ではなくてガッツリとした人形。

 カスタマイズドールって言うんだっけ?人間みたいにリアルなヤツ。なんだけど、そうじゃなくてだな……その人形、呪いの道具だよな?

 何で人形だ?

 貴重品店の店主に人形を進められて抗議もせず買ったのか?

 いや待て、対価はなんだ?

 いかん、何からどう聞き出したら良いのか分からん。

 「えっと……貴重品店出てきたんやな」

 まずは話の取っ掛かりを作って……

 「昨日の夕方。それで、気付いてるんやろけど、これ道具で、友達人形って言うねん」

 友達人形……友達を模した人形?いや、友達になってくれる人形か?どちらにしても攻撃性は低そうだな。

 攻撃する道具ではないなら、どんな効果があるのだろう?

 「で?」

 「えっと……そう、話しかけろって言われたから話しかけててん」

 人形に話しかけろ?

 「それから?」

 あの店主の事だ、きっと細かく商品説明があった筈。それなのにシュウは黙ったまま視線をキョロキョロと泳がせている。そして不意にぎこちない笑顔を作って見せ、

 「友達人形って、凄い名前やなーって考えてるうちに説明終わってた」

 と。

 なんで説明をちゃんと聞かない!?

 「……で、支払いはどうしたん?

 お金での支払いなら結構な大金を請求されただろうし、他の物といってもシュウは特に何も持ってないし……。

 「あ、この人形買ったんじゃなくて預かってるだけ。何日か預けて、人形がどう変化するんか見たいねんて」

 預かってる?

 どう変化するのか見たい?

 「あの店主がそんな理由で道具をオススメして来るとは思われへん」

 使い方から注意するべき点までしっかりと説明した上でお勧めしてくる筈だ。

 「あ、ちゃうで?これ、その店でオススメされて買った人が、俺に預けてん」

 「……は?」

 「いやだから、店主にこの人形をオススメされた人がこの人形を買ったんやけど、なんか怖いから先に何日か使ってみてーって」

 それでどうして引き受けるんだ!そして引き受けたんなら店に戻ってしっかりと説明を聞き直して来いよ!

 「……で、そいつの連絡先は?いつ、何処で人形を返すん?」

 そいつは間違いなく能力者なんだろうし、約束した日にそのまま素直に出向いて良いものか……

 「ん?何日か後に空き地の前」

 「……はぁ」

 何日か後って、そのフワッとした約束はなんだよ!小学生か?いや、最近の小学生の方がもっとちゃんとした待ち合わせするわ!

 「なんやねん。空き地には毎日行ってるんやから問題ないやろ?」

 百歩譲って問題がないとして、時間はどうするよ?まさか、毎日毎日何時間も空き地の前で待つつもりか?そんな目立つ人形を腕にくっつけて?

 まぁ、呪いの道具ってんだから返す前に破棄すれば良いのかも知れないな。だったら、何よりも先にシュウの腕から剥がすか。

 シュウが抱いていた人形は動いていないように見えるが、見ても分からないレベルのゆっくりとしたテンポでカクカクと関節部分が動く音が聞こえ、俺達が喋っている間にシュウに抱かれていた体勢が、シュウに抱き着いている体勢に変わっている。

 人形は紙の1枚も入らない程にピッタリと腕にくっ付いていて引っ張っても押してもビクともしない。

 これ、人形が自らシュウの腕にしがみついてるんだから、話せば離してくれるかも知れない、か?

 話し掛けろって説明されてるんだし、試してみる価値はあるよな。

 「えっと……コンニチハー」

 人形に向かって声をかけた途端に聞こえてくる笑い声。

 お前の説明通りに話しかけてんだから笑うなよ。

 「睨まんでや。ゴメンって!でも、だって……コンニチハーって……アハハ」

 心底楽しそうに笑いやがって……子供かよ。

 「なに喋ってえぇか分からんし、まずは挨拶が基本やろ?」

 問題はこの後だ。

 人形にウケそうな話題ってなんだ?カスタマイズドールなんだからカツラとか服?そういえば瞳とかも変えられるんだっけ?

 「自分の子供やと思ってあやしてみたら?」

 子供なんかいないってツッコミは一々しなくても良いよな?こんな細かい所まで拾ってられないからな?それにな、子供なのはお前だ!

 短時間のうちに吐き過ぎた溜息を飲み込み、シュウの腕についた人形に“たかいたかい”を試みるため、シュウの腕を掴み……

 「たかいたかーい」

 うん、ちょっとこれは無理があったな。

 「……バンザイやん」

 そうだな!

 「バンザーイ、バンザーイ」

 「あやしてへんし!」

 その通りだな!

 よし、ちょっと落ち着こう。そうだ、ちょっとした人形遊びだと思えば良いんじゃないか。それで、あやす訳だ。

 少し人形に顔を近付けて両手で顔を覆い、あやしの王道中の王道を試みる事にした。

 「いないいなーい……なにやってんのやろ、俺……」

 本当に落ち着こう。

 「我に返るの早ない?」

 思い切って話をガッツリと元に戻そう。人形に話しかけるのはその後だ。

 「でー……先にオススメされてたのってどんな奴?」

 「話めっちゃ戻すやん。えっと、写真撮ってるから送るわ」

 「んー」

 少し笑ったシュウは、その表情のまま携帯に視線を落として操作し、間もなく俺の携帯が鳴った。

 シュウから送られてきた画像には見覚えのある青年の顔が映っていた。

 コイツは寿命を見る事が出来るお猪口の所有者で、ナツメの飼い主だ。

 って、なんでシュウはコイツと同じタイミングであの店の中に入ってたんだ?

 マズイな、コイツは道具肯定派の能力者だ。そんな奴が俺の知らない所でシュウとコンタクトをとっていた……更に、コイツもシュウの写真を撮っている可能性が高い。

 「なにジィーっと見てるん」

 少し色々考え過ぎだな。

 運命共同体ではあるが道具を巡っての争いに巻き込ませなければならないって訳じゃないんだから、今までと変わらず守るだけじゃないか。

 「人相覚えとかなアカンやろ。で……コイツになんか言われた?」

 貴重品店の中に招かれた客なのだから能力者である事はバレただろう。だったら言われる言葉は……

 「人形を預かってーって、さっき言うたやん」

 行き成り人形預かれ、なんて頼んでは来ないだろうし、そんな突然頼まれたら流石のシュウでも断る筈だ。多分……。

 「それ以外。例えば……『道具はあっても良いと思うか?』みたいな」

 能力者同士が対峙した時の挨拶みたいなもんだから確実に問われたと思うんだけど、それだとシュウの中で「人形預かれ」よりも印象が薄い理由が分からない。

 「あー、なんかそんな事言われた気がする。道具についてどう思う?やったかな」

 どう思う、か。

 「なんて答えたん?」

 「自分の能力に合った道具が欲しい。って答えたけど?」

 道具肯定派か、否定派か。それを見極めようとした質問に対して、道具が欲しい。

 ナツメの飼い主は俺とシュウが運命共同体である事までは知らない筈だから、もしかするとシュウを道具肯定派だと勘違いしてくれた可能性があるな。

 それとも、人形を預け、人形に対する態度で見極めようとしているか……だとしたら、店主が説明した育て方?をしっかり実行する事でナツメの飼い主の勘違いを確信に変える事が出来るだろう。

 「ちょっと人形の説明聞きに行って来るわ」

 「分かった……早く帰って来てや」

 パタンと扉を閉め、空き地に向かって歩き出しながら飲み込みまくった溜息をゆっくり吐き出すと、スゥーっと細く白い息が流れて消えていく。その先を目で追いかけていくとドンヨリとしている空が見えた。

 カウントダウンイベントは雨天でも決行されるのだろうか?いや、これだけ冷えるのだから降ったとしても雪になりそうか。

 ゆっくりとノンビリ歩きながら前を向きなおし、はやる気分をどうにか押し殺しながら自動販売機であたたか~いコーンポタージュを買ってその場で飲む。

 本当は走って空き地に行きたいし、ナツメの飼い主を店主に紹介してもらいたいし、ナツメの飼い主にお猪口をかけての勝負をもう1度持ち掛けたい。

 けど、駄目なんだ。

 なるべくノンビリと、ゆっくりと動く事で今の状況は日常の一幕でしかないとアピールしなければならない。

 誰に?

 そんなのは俺の後ろを尾行しているつもりでソロソロ着いて来るシュウに対してだ。心なしか腕にくっついている人形も尾行もどきを楽しんでいるのか、キコキコと軽快に関節を動かしている。

 楽しんでもらえてるんだからもう少しは気付いていない振りをしても良いが、いい加減時間の無駄か?なんにせよ、俺とシュウが一緒にいる所をナツメの飼い主に見られると厄介だから、今は他の場所で時間を潰すとしよう。

 「なんか飲む?」

 振り返って声をかけると、電柱の陰からヒョイと出てきたシュウは特に驚きもガッカリもしていない様子で、自動販売機で珈琲を買った。

 俺が気付いている事に気付いていたらしい。まぁ、耳が良いって事は知られてるんだから、ちょっとやそっとの尾行が無駄である事は分かっていただろう。それなのに着いてきた理由は……なんだろう?

 「これ飲んだら一緒に空き地行こ。やっぱ俺も人形の説明聞いとかなあかんやろ?」

 その説明を1度聞き逃したのは誰だよ。

 けど、空き地に行く完全な口実を示されたんじゃあ「帰れ」と言うのは中々の不自然さ加減だな。だったら?行かないのが得策。なら、行かない理由をちゃんと示さないと。

 そうだな……。

 「その人形、かなり動くようになったな」

 俺はそう言いながら人形の頬を強めに突いてみた。すると人形は迷惑そうに、ゆっくりではあるものの顔の向きを変えた。

 「やろ!結構話しかけたもん。話題がない時は本の読み聞かせ?ってのやってた」

 読み聞かせでも良いのか。それなら良い所がある。

 「図書館行こか。急に喋り出した時の対策として腹話術勉強してた方がえぇやろし、良さそうな本借りて交代で読み聞かせしてもえぇしな」

 こうしてどうにかシュウを丸め込んで図書館に来てみれば、弟と弟の友達がいた。

 3人ともコチラに気付いているようで、弟はかなり不機嫌そうな態度。2人の友達はチラチラと、時にはジィッと眺めてくる。

 図書館にこんなガッツリとしたカスタマイズドールを抱っこしてる男がいれば、そりゃ気になるわな。

 「なぁ……お兄さんと仲が悪いのって、なんでなん?」

 弟の友達が小声でそんな事を言った。どうやら見ていたのは人形じゃなくて俺だったらしい。

 俺と弟が不仲なのは確実に俺のせい。

 能力に目覚めてまだ上手く制御出来なかった頃、ありとあらゆる音が耳に飛び込んで来るから頭痛は酷いし、熱は出るし、夜も眠れないしで、そんなイライラの八つ当たり先が弟だった。

 「なーシロぉ~。なんで機嫌悪いん?図書館来てから急にやん」

 今となっては、弟は俺の顔を見るだけで嫌悪感を露にする。

 「ごめん……アイツの顔見たらどうしても、なんか……」

 ほら。

 「アイツって?兄ちゃん?モモの元彼?それともあの女?」

 あの女?

 「え?女?」

 「うん。女」

 「あぁ、あの人形か」

 妙だな……たった今人形の存在に気が付いたような声だ。

 「え?人形ちゃうやん。なぁ、コウ」

 またまた妙だ。弟の友達にはこの人形がどう見えてるんだ?人形じゃないって事は、人間の女に見えてるって事か?

 「え!?あれぇ!?」

 能力を使わなくともハッキリと聞こえる声で弟の友達は叫び声を上げたので、俺はここで弟達の存在に気が付いた振りをして手を振ってみた。そうする事でシュウも弟達に気が付き、ギコチナク手を振った。そしてその腕の中にある人形も……。

 マズイと思ったのだろうシュウは咄嗟に人形の腕を指で挟むと、少々強引にバイバイと腕を動かした。その癖物凄い小声で。

 「コンニチハー」

 とか言うんだ。

 更には、図書館を出て行った弟達がシュウの事を“人形師の人”なんて呼ぶから……。

 「ふふっ」

 笑わずにはいられない。

 すると、

 「なんやねん。挨拶は基本なんちゃうの?」

 とか言いながら恨めしそうな目で睨んでくる。

 いやいや、笑っている場合じゃない。弟の友達にこの人形は人形として見えていなかった可能性があるんだ。

 追いかけて詳しく話を聞くのが1番確実で手っ取り早くはあるけど……俺の耳にはもう弟達の声は届いていないのだから完全に無関係。それを追いかけてまで巻き込むなんて出来る訳がない。

 変わりに聞こえてくるのは延々人形の関節が動く音……人形の音?あぁ、そうか、今回重要なのはこの人形自身なんだな。

 「人形に話しかけてみて。出来れば質問系」

 目を閉じて耳に集中すると、物凄く小声でシュウが、

 「えっと……ご趣味は?」

 と、ベタな事を聞くので、お見合いか?と、またありがちなツッコミを心の中で入れてみた。

 人形は俺の耳ですら僅かな音しか聞えないほどの反応しか示さない。

 ただの質問では駄目なのか?

 「もっと、深い事言うて」

 家族構成?

 誰に作られた?

 名前?

 「えぇ?えっと……黒板を、こぅ……爪でギャーっとする、とか?後は……あっ、お前って本当にアホだよねー生まれる所からやり直した方が早いよねー……どうしてお前はこんな事も出来ないんだ?ウケルー。イミフ。ヤバーイ。ハイ論破」

 うん?

 あぁ、何を必死に言葉を続けているのかと思えば、そういう事か。

 「不快じゃなくて、深い。な」

 「おぉっふ!?」

 何だその掛け声。

 キコキコキコキコ。

 人形にまで首を傾げられてるぞ?

 俺が直接聞いた方が早いな。そもそもシュウだってこの人形の正式な購入者じゃないんだった。

 「お前の使い方を教えて」

 人形に声をかけて目を閉じると、カクカクと何かが振動する音に混じって微かな空気の動きを感じた。声にはなっていないが、確実に何かを話そうとしている。

 「ゆっくりでえぇから、教えて」

 目を閉じたままもう1度ゆっくりと話しかけてみたが、空気が漏れているような音に変わりはない。

 どうしたものか。

 「やっぱ店まで説明聞きに行った方がえぇんちゃう?」

 やっぱり、それしかないか。

 「じゃあ適当に読み聞かせといて。ちょっと貴重品店見に行ってくるわ」

 そう言って立ち上がると、慌てて立ち上がるシュウは着いてくる気満々だ。

 「え?俺も行く」

 やっぱり、そうなるか。

 「いっその事、人形返すか?」

 それなら俺が貴重品店まで行く理由がないからシュウの単独行動でいける。本当なら単独行動なんて危険な事は避けるべきではあるが、今の状況だとむしろ俺が一緒にいる方が危険だろう。

 「あれ?いつもみたいに壊さんでえぇの?」

 人形の使い方も、効果も分からないんだから、危険性があるのかないのかも分からない。いや、呪いの道具って時点で破棄するべきではあるが、そうするとナツメの飼い主にシュウが道具否定派だとバレてしまう。

 「……預かり物を壊したらアカンやろ」

 俺が預かったのならその場で破棄するけどな。

 「あ、そっか。でも、何日か使ってみてーって言われたのに1日って短かない?」

 道具破棄派なのかを見極める為に預けたのなら、1日人形が無事で、しかも地味に動くまでに成長させたシュウを道具肯定派として認知してくれる筈だ。

 だから早い所返しに行って欲しいんだけど、シュウはまだ何日間か預かる気でいるらしくて乗り気じゃない。

 どうにかしてでも“返したい”と思わせないとな。

 「正月休み、人形腕につけたままじゃあ、どこにも行かれへんな」

 別に何処にも行かないし。とか言われたらどうしようかな……

 「ちょっと待った。行く予定あるん!?」

 俺の予定を聞く必要があるのか?

 あぁ、そうか。

 俺はただ、何処にも行けないだろうなぁとの感想を述べただけ。それを“2人で何処かに行く”と解釈したんだな?

 でも、俺と何処かに行く事を想定されてるんだなって思うと、なんか、ちょっとむず痒い。

 「……初日の出、とか?」

 「初詣行こうや!あ、今すぐ返してくるから、カウントダウンイベントから行こ!」

 ちょっと待て、カウントダウンイベントから初日の出、からの初詣?それじゃあ1月1日に全ての予定が完了するんじゃないか?

 じゃない。

 今すぐ返しに行くって、どういう事だ?

 「空き地で待ち合わせ。やろ?」

 「念の為にこの人の赤い糸、空き地にある街灯にくくりつけてんねん」

 コイツは……アホなのか、しっかりしてるのか分からん……。

 赤い糸はシュウにしか触る事は出来ないから、ナツメの飼い主が例え赤い糸の存在に気が付いてもどうする事も出来ない。そしてその赤い糸はどれだけ離れようともナツメの飼い主の小指と繋がっている。

 糸を辿れば、待ち合わせなどしていなくても会える訳だ。

 「じゃあ、ここで待っとくわ。括り付けた赤い糸は念の為そのままにしとくんやで」

 ここが図書館である事を忘れたらしく、はーい。なんて返事を元気良くしたシュウは走り去り、俺は読む為ではなく本を開き、顔を隠して目を閉じて耳に集中した。

 カタカタと動く人形の関節の音と、不穏な耳鳴り。そして、

 「にゃは☆」

 あの店主の笑い声。

 「あれ?もうおった。丁度良かった、これ返すわ」

 どうやら空き地には貴重品店が出ていて、ナツメの飼い主もそこにいるようだ。

 ナツメの飼い主の声が聞こえて来ないのは、貴重品店の中にいるから、か?

 「この人形は人を選ぶんだよ。この子が選んだのはそっちのお兄ぃさんじゃなくて、お兄ぃさんだよ」

 人形が人を選ぶ?初耳だ。

 「めっちゃ話しかけて、ちょっとだけ動くようになってるで」

 少し遠くなった声。店の中に入ったか?

 「分かった。持って帰るわ」

 やっと聞こえてきた声はナツメの飼い主で間違いない。

 カタカタ……コキッ、キュルルルル。

 「少しの間だったけど、楽しかったよ!さぁご主人、帰りましょう」

 この声はどちら様ですか!?え、人形?こんな急に流暢に喋りますか!?

 「友達人形はね、友達のいない人間を望むんだよ☆」

 それで本当の友達になってくれる人形、か?

 そっか……あいつ、友達いないのか……。

 そう言えば初対面の時「道具の事がなかったら友達になれたのか?」みたいな事言ってたな。いや、まぁ、俺だってシュウ位しか友達らしい友達はいないけど。

 「ただいま!人形返してきたで」

 声がしなくなって5分程度して図書館に戻ってきたシュウは、図書館の中だというのにハキハキと報告をしてくる。

 「静かに」

 シー、と人差し指を立てて口に当ててやると、少し屈んで小声で報告の続きを始めた。

 「んで、友達人形ってな、友達がおらん人を選ぶらしいねんけど……」

 けど?

 「なんか気になる事でもあるん?」

 使い方?にしたって人形は既に本来の持ち主の手に戻った後だ。

 「俺だって友達おらんのにさ、あの人形に選ばれへんかったんやなぁーって思って」

 友達がいない?そんな馬鹿な事があるか?

 「俺は友達ちゃうの?」

 「お前は、だって……運命の相手やし」

 その言い方はちょっと止めようか。運命共同体だろ?そして何故頬を赤らめる!


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