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紺白の蛇の目傘と、黒いビニール傘。傘を並べ、僕と葵さんは適当に町をぶらついていた。
明日を探すといっても、何の手がかりもない。明日を探している葵さん自身にも、その明日がいったい何なのか、それは分かっていなかった。
もちろん、それは僕も同じで、明日が何なのかなんて、分かるはずもなかった。
けれど。ただじっとしているだけで、それが見つかるとも思えない。
探し物は足で探せ、とも言うし。だから、適当にブラブラでもいいから、僕らは町を歩いてみることにした。
蛇の目傘から垂れ落ちてくる雫が、制服のブレザーの袖を容赦なく濡らす。
まだ真新しいブレザーの右の袖口は、その紺色の濃度を増していた。
……冷たいな。
僕の手と繋がれた葵さんの手は、ひどく冷たかった。
いや、冷たいというよりは、熱がないという感じだろうか。
顔の表情の豊かさとは対照的に、彼女の手はいつまで経っても無表情のまま。
ずっと手を握っているけれど、葵さんの手は温まってもこなければ、僕の手から熱を奪うこともなかった。
だけど、これくらいの不思議なら、珍しいことじゃない。
不思議さん相手なら、気にするほどのことじゃなかった。
それよりも……さっきのことを、ふと思い出し。
結局、僕の「こんにちは」に、葵さんは一度も挨拶を返してくれなかったな……。
と、そんなことの方を、僕は気にしていたりした。
「葵さん。君の好きなものって、なに?」
僕は葵さんに訊いた。
「ミルクキャラメル!」
少しも迷うことなく、葵さんは答えた。
その即答ぶりからすると、よほどキャラメルが好きなんだろう。
キャラメルじゃなく、ミルクキャラメルと。キャラメルの頭に「ミルク」が付いているところに、彼女のこだわりが感じられた。
「正樹お兄ちゃんは? お兄ちゃんは、何が好き?」
「僕? そうだなぁ……お菓子なら、僕はソーダ味のアイスキャンデーが好きかな」
シンプルで、これといって特色があるわけでもなく、とびきり美味しいというほどのものでもないけれど。
あの飾り気のない真っすぐな味わいと、舌を刺激する冷たさが、僕は昔から気に入っていた。
「ふーん……そうなんだ。あんな硬いのが好きなんだ。わたしは、柔らかいアイスクリームの方が好きだけどな」
僕の好みは、葵さんにとっては、ちょっぴり不可解なものだったようだ。
「お兄ちゃんって、変わってるね」
と、葵さんはちょこっと首を傾げた。
「……そうかな。変わってるかな?」
「そうだよ。あんなのが好きだなんて、絶対に変わってるよ」
葵さんに念押しをされて、僕は苦笑する。
変わったところだらけの不思議さんに、「変わってる」と言われるだなんて。
……なんか変な気分だな。
ひどくダメ出しをされたようでもあるし、どこか愉快だったりもする。
このおかしな気分もまた、不思議の一つかな。
と、そんなことを思ったら、なんだか楽しくなってきた。
今回の不思議さんは、面白いなあ。
くすり、僕が小さく笑うと、
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
また首を傾げ、葵さんが訊いてきた。
「何でもないよ」
僕は彼女に笑いかける。
そして、葵さんに次の質問をした。
「じゃあ、次はお菓子以外の食べ物だ。葵さんが一番好きなおかずは何かな?」
「おかず? おかずなら……」
葵さんの心の中で、何品かのメニューが、トップ争いを繰り広げているんだろう。
今度は、すぐには答えは返ってこなかった。
ほんの数秒の短いバトルだったけれど、勝者が決まったらしい。
「オムライスかな」
子供らしい好物を、葵さんは挙げた。
でも、それって……おかず、なのかな?
やっぱり、おかずといえば、白いご飯のおかずだろう。
オムライスは、そのもの自体がライス、ご飯だし……。
だけど、そんなことを思いつつも。
「正樹お兄ちゃんは、何のおかずが好きなの?」
と訊かれて、僕が頭に思い浮かべたものも、おかずって感じのものじゃなかった。
「お好み焼き。中でも、僕はイカ玉が好きかな」
そして……。
「それって……おかず、なの?」
しっかり、葵さんに突っ込まれてしまった。
僕は、葵さんのオムライスに。
葵さんは、僕のお好み焼きに。
お互い、相手の答えに、同じ疑問を抱いてしまったようだ。
そのことがまたおかしくて、僕はくすりとした。
「そうだね。お好み焼きは、おかずじゃないかもしれないね」
僕は、あっさりとそれを認めた。
けれど、しっかり反撃もする。
「でも、葵さんのオムライスも、おかずって感じじゃないよね?」
「えー、そんなことないもん! オムライスは立派におかずだよ」
僕の反撃に異議を申し立て、葵さんは唇を尖らせた。
「そうかなぁ……」
どっちも炭水化物がメインだし、同じようなものだと思うんだけどなぁ……。
それを口に出して言うと、葵さんに軽く睨まれた。
「オムライスと、お好み焼きを一緒にするなんて……」
葵さんの唇から、深いため息が零れる。
そして、首を横に振り、彼女は諦めたように言った。
「やっぱり、変な人だね。お兄ちゃんって、とっても変わってるね」
不思議さんからまた、「変わってる」の言葉を頂戴してしまった。
変な人だね、か……。
まあ、確かに……違いないよな。
小さく声を立てて、僕は笑った。
そんな僕を怪訝そうに見上げ、
「……変なの」
葵さんは呟いた。




