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魔王懐柔して賢者伝説  作者: おるか
第1章 包容力極振りは強い
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二話 不思議な縁





「ッーーー?!」



あの女の子が魔法を使った時みたいだ、と瑠斗は思った。しかし、目を開けた瞬間恐るべきことが起こっていた。



「…これは? お前、オレに何をした…?」



思わず瑠斗は目を疑った。

なんと、魔王を光に変えていた魔法陣が跡形もなく消えていたのである。当の本人である魔王も喜ぶどころか困惑の表情で瑠斗を見ていた。


「賢者様の魔法を解くなんて…」


周りを見渡してもここには瑠斗と魔王の二人しかいない。瑠斗も訳が分からず、魔王と目が合っても首を傾げることしか出来なかった。


「思っていたのだがお前は魔物にしては妙な魔力を持っているな。本当に魔物か?」


しかし魔王を助けるからこちら側なのだろうが…と魔王はぶつぶつ考えた。

相手は間違いなく魔王である。瑠斗はその問に魔物であると嘘をつこうとも思ったが、心動かされたこともあって、この魔王を信じて全てを話すことにした。



「俺実は人間なんです…」







***

魔王サイド






目の前の佐久間瑠斗と名乗る人間は信じられないことをオレに聞かせた。


異世界から来たこと、それも勇者との戦いの真っ最中に来たこと。それから瑠斗がいた世界でのこの世界では有り得ない常識。

まさか魔物がいない世界があるなど考えたこともなかった。話を聴けば聴くたびにこの世界とのかけ離れさに気が遠くなった。しかし、この人間が嘘をついているようには全く見えないのであった。



「お前の話は到底信じられたものではないが、疑うことも出来ないからとりあえず信じることとしよう。それにしても賢者様しか解けないはずのあの魔法がなぜ解けたのかが気になるな」


「あの、その、()()ってなんでしょうか? たしかその魔法かけた女の子も賢者の生まれ変わりと言われていましたよね?」


「そうだな。異世界から来たのだから知らないのも仕方あるまい」




ーーー「賢者」とはこの世界では大賢者ゼルドただ一人を指す言葉である。


大賢者ゼルド様は、聖魔の大戦が千年にも渡って続き疲弊しきっていたこの世界でその力で多くの者を助けたと言われている。

ゼルド様は枯れた草木を蘇らせ、日照り続きの砂漠に雨を降らせ、欠けていた足を蘇らせる誰も使うことの出来ないような大魔法を用いていたとされている。

オレ達にとって重要なのが、それが人間魔物分け隔てなく行われたということである。


ゼルド様は魔物と人間を和解させ、戦争を終わらせようとした。そのために、魔物にも人間と変わらなく接し、助け、いつしかその行いが天上の神々の目に留まり、神々の力を借りて永きに渡っていた戦争を終わらせたと言い伝えられている。



「その時に魔王だったのが二代目魔王ベルトリス様だ。ベルトリス様とゼルド様、それから当時の人間の王で“約束”をした」


「約束、ですか」


「ああ。聖魔が共存できる世を作ろう、と賢者様が提案なさったんだ。ベルトリス様が寿命で亡くなられた後もそれは後の魔王に引き継がれ、こうしてオレまで来たというわけなのだ」



そう、だから魔王としてその約束を果たそうと努力してきたのだが…



「賢者様ってすごい御方なんですね。でもそれならばなんで人間が魔王討伐なんて…?」


「オレもそれがよくわからないのだ。前魔王様までは小競り合いはあったが人間が本格的に魔王を討伐しにくるなんて有り得なかったのだがな…」



対する人間が全く歩み寄ろうとしないのだ。それが全ての魔王達の積年の悩みだった。



「部下達と共に手は打ち尽くしてきた。だが、これ以上何かやるのはよくないということで落ち着いた」


「…頑張ってこられたんですね」


「…ああ」



部下達も全て失ってしまった今、心の中に虚しさだけがただ残る。



「瑠斗よ、オレはどうすればよいのだろうな。約束を果たしたいが、上手くいかぬ。オレが不甲斐ないばかりに部下も勇者達にやられてしまった」



人間は魔物の奇妙な姿を恐れると聞いたことがあった。遠くに部下の翼獣(グリフォン)の骸が見える。あいつは魔物の中でも優しく温厚で、小さな魔物達を背中に乗せて森をよく飛んでいたのを思い出す。


しかし勇者によってあっさり殺されてしまった。殺される直前まであいつはオレの命令通り抵抗せずに死んでしまった。


あいつみたいな心優しい魔物でもその姿が異形なだけで危険だからと人間に殺されてしまう。オレなら尚更だ。人型ではあるものの、青い肌にオッドアイ、翼に尻尾もある。いかにも魔物に相応しい見た目だろう。これでは近寄ることすらままならないのだろう。

魔物であるばかりに魔王に受け継がれてきた約束が守れないなんてなんという皮肉だろうか。



暗く沈んだ心に、ふと温もりを感じた。



瑠斗であった。



「魔王様はそのままでいいと思いますよ。俺のいた世界では、魔王っていうのは自分の欲望のままに世界を荒し回る存在だって思われていました。だから、こんなふうに部下の死に対して悲しんで、それでも努力して歩み寄ろうとしている魔王様はすごい魔王なんだと思います。もちろんそれを受け継いできた昔の魔王様達も」



初めて肩に乗せられた人間の手。

部下だった魔物達と変わらない、温かくて小さな手だった。



「初めて言われたぞ、そんなこと」


「ここで出会ったのもきっと縁でしょう。その約束、俺も協力しますよ」



思えば、賢者様は出生が不明だ。

エクセルドの北の森で最初の奇跡が起こったとは伝わっているが、エクセルドで生まれた訳では無いと聞いたことがある。



もしかしたら賢者様も異世界から来たのかもしれない。


オレを見つめる漆黒の瞳に、オレは笑ってその手を取った。






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佐久間瑠斗 さくまるいと 男

転生前→35歳 婚期逃した中堅企業の中間管理職だった。要するに普通のサラリーマン。黒髪黒目の顔面偏差値中の下みたいな感じ。

細めのおじさんをイメージしてもらえればおけ。もう少ししたら転生後の容姿出てくるのであまり気にしないでください。


魔王 男

銀髪 イケメン。めっちゃいい人。

普段は長い髪を後ろで一つ結びにしている。マントを羽織っていて、羽根と尻尾(収納可)がある。

イメージとしてはパズドラのヴァンパイア+FFセフィロスをちょっと優しくちょっと男前にした感じ

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