第1章 宝くじ1等の方が嬉しいんだけど④
「あー、しんど」
始発の電車で自室に戻ってきた俺は、どかっと座椅子に腰を下ろした。
お世辞にも広いとは言えない1DK。ごちゃっと物が置いてあるから、なおさら狭く感じる。
あの賑やかな戦霊とやらは、今は『神界御朱印帳』に封じてある。やり方は、クコが教えてくれた。
なんだか、とんでもないことになってしまったなぁ。仕事を辞めて自分探しをするはずが、よく分からんゲームみたいなものに巻き込まれるなんて。
《ゲームではなくて、現実なのです》
「あー、分かった分かった」
すーっと、幽霊のようにクコの姿が現れる。
あの神社での一戦のあと。帰りがてら、俺はクコに色んなことを教えてもらっていた。
すごい単純に言うと、人間界の悪い気がコップに溜まり続けていたが、ちょうど昨日がコップから溢れた日。だから魔界と通ずる扉が開き、魔霊が出てきました、と。
それを倒すには、古くから日本を守ってきた八百万の神々に頼るしかない。だから、神々は慌てて神界と通ずる扉を開きました、と。
でも神様は、人間の信仰あっての存在であると同時に、人間の目には見えない超常的な存在でもある。だから、神界と人間界を結ぶ案内人たるクコが、八百万の神々を使役する人間を選び、お賽銭みたいな金貨を授け、神界でも戦いを得意とする戦霊を呼び出させた、というわけだ。
しかも、クコいわく、呼び出せる戦霊は選べない。あの、新橋近くの神社で神界への扉が開いたときに、たまたま扉の近くにいる戦霊が呼び出されるという。
結果、俺が呼び出した戦霊が超強力。あの戦霊に付けられた★のことをレアリティなんて呼ぶらしいが、つまり、神界の中でも極めて希少な力を持った戦霊というわけだ。
まあ、ようするに、だ。宝くじに当たった挙げ句、当選がしたのが1等で、さらには前後賞まで付いてきちゃった、みたいな感じか。
あー、それだったら宝くじで3億円もらえた方が良かったなぁ……。
《宝くじと一緒にしないで欲しいのです。あんな、毎週6つの数字を選び続けても1円たりとも当たらないような紙切れとは》
「お前、買ってるだろ……」
《と、とにかく! マスターに選ばれること自体が神の奇跡なのです。もっと喜んで欲しいのです》
「そうは言ってもなぁ。綺麗なおねーちゃんと触れ合える以外、何のメリットもないじゃん。変なのと戦わされて怖い思いするだけで、別にリアルで彼女ができるわけでもないし、イケメンになれるわけでもないし」
《それは無理なのです。大体、陽ノ丸様の場合は努力が足りないのです。引きこもってばかりでファッションやヘアスタイルに一切気を配らず、遠目から女の子を見てニヤニヤしてるだけじゃ、春はやってこないのです》
「なんで初対面のお前に、そこまで言われにゃならんのだ。お袋か、お前は。っていうか、人の頭の中を盗み見したろ、俺の黒歴史を勝手に漁るんじねぇよ」
《あーあー、何も聞こえないのです》
「こんにゃろ……とにかく、俺は下りるからな。仕事辞めて金もないんだ、こんなことして遊んでる場合じゃないんだよ」
わざとらしぬ耳を塞いでしらばっくれるクコに、小さく舌打ちをする。
どっと疲れが襲ってきたので、俺は座椅子の背もたれを倒して、ごろんと後ろに寝転がった。すると、すぐに俺の視界を遮って、クコが覗き込んでくる。
《ちなみに、メリットは1つあるのです》
「あ、そう。これから一生、神社でおみくじ引いても大吉しか出ない、とかならお断りだからな」
《魔霊を倒すと、お金が手に入るのです》
ガバッと体を起こす。
今、確かにクコは「お金」と言った。
「……五円玉じゃないだろな」
《違うのです、ほら》
クコがどこからともなく小さな賽銭箱を取り出す。恐る恐る格子のような蓋を外してみると、
「ゆ、諭吉さん!!」
中には何枚かの札が入っていた。
そこに描かれた人物を見て、俺は歓喜する。
《魔霊といえど神様ですからね。信仰を集めていた分、これくらいのお金にはなるのです》
「ってことは、もっと強い魔霊とやらを倒せば……」
《お金がざくざく入るのです。億万長者も夢じゃない!のです》
いかん、俄然やる気が出てきた。
なんか目の前ににんじんをぶら下げられて走らされてる気もするが、とにかく今は、今後の生活ができるかできないかの瀬戸際だ。
親にも友達にも頼れないとなると、神にすがるしかないというわけか。
「……分かった、しばらく付き合ってやるさ」
《おぉ、良かったのです! さすが、私が選んだだけあって、信仰に厚い敬虔な男なのです》
「お前、自分の人選を正当化しようとしてるだけだろ。それで、何すればいいんだ?」
俺は倒していた体を起こし、大きな欠伸をしてからもぞもぞと座り直した。




