美味しいモーニングと氷パフェマンゴー味
クリシュナは目を覚ますと真っ先にウォークインクローゼットを確認した。
昨日眠っていた妖精のようなアサシンは影も形もない。
クリシュナ
(まさか…化かされた?それとも夢だったか。)
いつものようにバルコニーから木に飛び移り、下に降りると朝のランニングを始めた。
昨日のアサシンはいないかとつい探してしまう。
20キロほど走って、宮殿に戻り汗を流す。
それからやっと朝食を食べに食堂に向かった。
食堂にはすでに王宮から運ばれた朝食が並べられているはずだ。
だが…クリシュナは食堂の扉を開けて目を見開いた。
昨日のアサシンがパンにバターを塗ってかぶりついている。
口に頬張った美しいアサシンとクリシュナの目があった。
アサシンは慌てて立ち上がり、逃げようとしてこけた。
クリシュナは吹き出した。
クリシュナ
「ぷっ………おい、いっぱいあるし、一緒に食うか?」
リオ
「………………………。」
アサシンは床から立ち上がってクリシュナを見つめた。
クリシュナ
「俺を守ってくれるんだろう?」
アサシンは小さくこくんと頷いた。
クリシュナ
「なら、ちゃんと食事は取ってもらわんとな。」
アサシンの紫色の瞳がキラキラと輝いてへにゃっと笑った。
そして思い出したように口を両手で抑える。
クリシュナはアサシンの横に座り、オレンジジュースを注いでやった。
クリシュナ
「美味いか?」
アサシンはまた笑って何回か頷いた。
クリシュナもニコッと笑った。
クリシュナはいつものようにスクランブルエッグとハムをパンに乗せてかぶりついた。
アサシンがそれを見ている。
クリシュナはアサシンのパンにも同じように乗せてやった。
アサシンはまた瞳をキラキラさせてパンにかぶりついた。
美味しそうに食べるアサシンを見ながら、クリシュナもいつもより朝食を美味しいと思った。
食べ終わったアサシンはクリシュナの大きな手のひらを取って文字を書いた。
『ありがとう』
クリシュナ
「何故話さない?」
アサシンはまた手のひらに書いた。
『おきて』
クリシュナ
「掟、アサシンの掟か。」
アサシンはまた小さく頷いた。
クリシュナ
「そうか…名前は?」
『リオ』
クリシュナ
「リオ……。」
アサシンは照れながらへにゃっと笑った。
そしてまた思い出したように口を手で抑えた。
クリシュナ
「?」
クリシュナ
「リオ、仕事の間いつも俺のそばにいるのか?」
アサシンは頷いた。
クリシュナ「じゃあ………護衛…頼んでいいか。」
クリシュナは紫の瞳から目をそらしながら言った。
アサシンは微笑みながら細い腕で力こぶを作った。
クリシュナははにかんだ。
クリシュナ
「もうお前は俺の公認なんだから、コソコソ隠れる必要はない。
俺のそばに控えていろ。いいな。」
アサシンはこくんと頷いた。
…………………………………
今日は王宮で会議がある。
クリシュナは正装に着替えると馬を走らせた。
そばにいろといったのにアサシンはどこかへ行ってしまった。
ついついアサシンは何処にいるかと探してしまう。
姿は見えないが後方から馬の足音がする。きっと追いかけているんだろう。
しかし、集中するともう一頭馬の足音がする。
クリシュナ
(そういえば昨日はもう一人アサシンがいてリオを助けていた。
もしかして…護衛の護衛か?)
クリシュナはおかしくなって吹き出した。
クリシュナ
(さぞかし大事にされてるんだろうな。)
会議室に国の主要人物達が集まった。
議題は日に日に大きくなるコデイン教についてだった。
しばらく経った頃、近衛兵が王に耳打ちした。
王
「くせもの?連れて来い。」
近衛兵
「はっ。」
会議室の中に近衛兵に両腕を掴まれてリオが連行されてきた。
クリシュナ
「あ………。」
近衛兵がリオのフードを取る。
会議室がざわめいた。
司祭
「おおおお、これは、珍しい。」
スキンヘッドの司祭がリオの顎を持ち上げてねっとりとした目でジロジロ見つめた。
司祭
「白髪に…なんという高貴な紫色の瞳だ…。そしてこの美しさ…。
お前は何者か?」
司祭の指がリオの唇をいやらしく撫でた。
鼻息がリオの顔にかかる。
リオ
「うう……このおやじ、キモいっす〜。」
司祭
「なにい!」
司祭はリオの顔をぐっと掴んだ。
クリシュナ
「司祭、この者は陛下が私の護衛につけてくださったアサシンだ。」
クリシュナはさりげなく司祭の手を払った。
王
「おお、これがアサシン教団の…。まるで…少女のようだな。」
王はまじまじと見つめている。
王
「おい、離してやれ。」
近衛兵は命令通りさっと腕を離す。
クリシュナはリオを引っ張って部屋から出た。
クリシュナ
「リオ、先に帰ってろ、ここにはこないほうがいい。」
リオはフードをかぶって廊下の窓から外に出た…が、また落っこちた。
クリシュナは慌てて窓から下を覗くと、青いコートのアサシンが受け止めていた。
ほっと胸をなでおろす。
……………………
一方………。
ボルタ
「リオ、城はやばいぞ、俺でさえ侵入は難しい。」
リオ
「ボルタ先輩!どどど、どうしてここに!」
ボルタ
「たまたまここのクエストを受けててな…。ちょうどよかった。」
リオ
「ボルタ先輩、あっざっす!」
リオはへにゃっと笑った。
ボルタは真っ赤になりながら自分の頭をかいた。
ボルタ
(やっべえ!リオちんかわええ!)
ボルタ
「それより……リオ、顔を見られたか?」
リオ
「っす……王様と司祭と、あと大臣がいたと思うっす。」
ボルタ
「そうか……。」
ボルタはメモ帳に書き込んだ。
リオ
「俺……頑張りますから、この仕事続けさせてくださいっす。」
リオは目を潤ませてボルタにしがみついた。
ボルタ
「だだだ……大丈夫だ、リオは上手くやってる。
王子にも頼まれたんだろ。」
ボルタはさらに顔を赤くしてしどろもどろにしゃべった。
ボルタ
(それ以上くっつかれると、おれ…もうやばい。)
リオ
「うう……ホッとしたっす〜。」
リオは離れた。ボルタもホッとした。
ボルタ
「こ…これから暇だろ、街で飯でも食うか。奢るぞ!」
リオ
「マジっすか!先輩、氷パフェも食べましょうよ!」
ボルタ
「いいね!行こう!」
…………………………………
クリシュナは会議、ランチ、謁見の業務を終えて夕方頃ようやく帰路に着いた。
後方から2頭の馬の足音がする。
リオの馬が追いついて王子の馬に並んだ。
クリシュナ
「リオ、待たせたな!何してた!?」
リオ
「氷パフェ食べたっすよ!マンゴー味めちゃくちゃ美味しかったっす!」
リオは幸せそうに笑って答えた。
クリシュナ
「おまえ、俺と話していいのか?」
リオは慌てて口を手で抑えた。
その時後ろから馬に乗ったボルタが追いついてきた。
ボルタ
「おい、クリシュナ王子!俺と勝負しないか?」
クリシュナ
「何?」
ボルタ
「お前の宮殿に早くたどり着いたほうが勝ち!行くぞ!」
ボルタは掛け声とともに馬を足で叩いた。
クリシュナも声を上げて馬を叩いた。
すごいスピードで二人は街道に飛び出していく。
リオ
「ワオ!すごい」
リオも慌ててスピードをあげた。
…………………………………
ボルタ
「俺が負けるなんてなあ〜。」
ボルタは苦笑いしている。
クリシュナ
「この道でなら負けはしない。」
ボルタ
「ホント…王子にしとくのもったいないな。
クリシュナ王子、アサシンにならないか?」
クリシュナ
「俺が……アサシン?」
ボルタ
「いや、いい、忘れてくれ。未来のエルヴィア国王だ、ありえん。
はははは。」
リオ
「せんぱ〜い………。」
やっとリオが宮殿に到着した。
ボルタ
「クリシュナ王子、今夜は俺、行くところあるからリオのこと頼むな。
んじゃ!」
ボルタはクリシュナとリオに手を振ると街の方へ去っていった。
クリシュナ
(リオを頼むって…、俺が護衛されてるんじゃなかったのか…。)
クリシュナはふっと笑った。
クリシュナ
「リオ、メシにするぞ。」
リオはクリシュナの後に飛び跳ねながらついていった。
つづく