その名はロンリープリンス
エルヴィア国の第一王子クリシュナは一人でいることを好んだ。
王妃である母親は王子を産むと同時に亡くなり、王子の兄弟は全て新しい王妃の子供であったため、王子は常に孤独を感じながら育ったのだ。
王子が没頭したのは身体を鍛えることと剣の練習であった。
ひたすら毎日城や城下町を走り、ロングソードを振った。
その結果20歳になった王子は国1番の剣の使い手に成長していた。
プラチナブロンドの髪を後ろでひとくくりに結んでいる。
アイスブルーの瞳、鍛えられた肉体、背の高い抜群のスタイルで国中の乙女は王子に夢中だ。
しかし王子は全く女に興味がない。
王子には小さな宮殿が与えられそこでたった一人自由気ままに過ごしている。
召使いも護衛の騎士も誰一人寄せ付けない。
毎日食事係が持ってきたものを適当に食べ、勉強の時間は王宮に行って、終わると戻ってきた。
ついたあだ名はロンリープリンス。
そんな王子を心配した王様はアサシン教団に護衛を依頼したのであった。
そして…今日もクリシュナは一人小宮殿の庭園で剣を振っている。
ふと、剣を下ろして後ろの植え込みを見た。
クリシュナ
「………………。」
クリシュナ
(またアサシンか………。)
植え込みから少しアサシンの迷彩コートが見えている。
クリシュナ
「おい、そこのアサシン、俺と勝負して勝ったら護衛させてやろう。」
何の返事もなくシーンとしている。
クリシュナは庭に落ちていた石ころを拾って投げつけた。
「って!」
と声がして迷彩柄のアサシンがよろよろしながら逃げ出す。
クリシュナ
「逃げるのか……。」
クリシュナ
(随分小柄なアサシンだな、女か?)
アサシンは慌てた様子で宮殿の壁を登り始めた。
クリシュナ
(どこに行くんだ?)
アサシンは屋根あたりまで登ったところで足を滑らせて落ちた。
クリシュナ
(あ…………落ちた。)
その時どこからか現れた白いコートのアサシンが、壁走りして小柄なアサシンを抱きとめた。
そしてそのまま姿を消した。
クリシュナ
「…………?」
………………………………………
一方…。
リオ
「ソンム先輩!なんでここに!」
ソンムはリオをそっとおろした。
ソンム
「たまたまこの宮殿のクエストを受けてな……まあ、たまたまだ。」
リオ
「うわあっ俺ってなんて運がいいんだろう!
先輩!あ〜ざっす!」
リオは綺麗な顔でへにゃっと笑った。
ソンム
「う、うむ、そうだな……。」
ソンムは照れてそっぽを向いた。
ソンム
「リオ、もう落っこちるんじゃねえぞ。」
リオ
「はい、先輩!」
リオはバタバタかけて行った。
ソンム
「ああ………リオちん!」
ソンムは頰を赤らめて自分を抱きしめた。
………………………………………………
クリシュナは適当に弁当を布に包んで森へ出かけた。
素早く木に登ると縦横無尽に枝から枝へ飛び回る。
うさぎに狙いを定めると背中の小型の弓で射抜いた。
うさぎから矢を抜いて皮袋に詰め込む。
さっきから誰かが後をつけているが、バレバレだ。
少し離れた木の上にあの小柄なアサシンが見える。丸見えだ。
と思っていたらアサシンが足を滑らせて「うわあ」と言いながら落ちそうになる。
それを木の陰で見ていた白いコートのアサシンが手を引いて助けた。
クリシュナ
(はあ……鬱陶しい…。俺の狩の時間を邪魔してくれてる。)
このやり取りが狩の間延々と繰り返されたから、クリシュナはもういい加減げんなりしていた。
そこで木から飛び移ったと思わせて背後に回り、アサシンに蹴りを入れた。
クリシュナ
(少し傷を負わせたら帰ってくれるだろう。)
地面で痛がっているアサシンの腕に向かって剣を振った瞬間、白いコートのアサシンが剣で受け止めた。
クリシュナ
(こいつ…。)
クリシュナは愛剣で猛攻撃を仕掛ける。
白いコートのアサシンもうまく受け止め、隙を見て反撃してくる。
クリシュナ
(このアサシン、前に戦ったことがる…。)
小柄なアサシンがバタバタ草むらに逃げ込んだと同時に白いコートのアサシンが煙玉を地面に投げつけた。
クリシュナの視界がなくなり、その隙にアサシンは姿を消した。
クリシュナ
「ゴホゴホ…、ったく…。なんなんだ、あいつら。」
クリシュナは煙から離れてため息をついた。
…………………………………
その夜、夜のランニングを終えたクリシュナは水を浴びて着替えた後、速攻でベッドに寝転がった。
お気に入りの探偵小説をランプの明かりで読みながら寝るまでの時間を過ごす。
その時…寝室の隣にあるウォークインクローゼットからコトリと小さな音がした。
クリシュナはナイフを持って音を立てないようにウォークインクローゼットの扉を開ける。
壁にかけてあるランプに火を灯して、クリシュナは目を見開いた。
ウォークインクローゼットの隅にクリシュナの服を適当に積み重ねた上に人間が眠っていた。
クリシュナは起こさないようにゆっくりと歩み寄る。
その人間は変な猫のぬいぐるみを抱きしめてムニャムニャと寝言を言っている。
よく見ると昼間のアサシンのようだ。
クリシュナ
(ナイフで脅して帰らせるか。)
クリシュナがアサシンの首にナイフを突きつけようとした瞬間…。
アサシンは小さくう〜んと唸って寝返りを打った、その瞬間アサシンフードが少しとれてアサシンの姿があらわになった。
この世のものとは思えない美しすぎる妖精のような姿だ。
クリシュナは思わず声をあげた。
クリシュナ
「あ………っ。」
その声でアサシンはうっすらと目を開けた。
リオ
「あれ………王子様〜。」
クリシュナ
「ここで何してる。」
リオ
「ここで〜寝てるっす…。」
ホワンととろけるような瞳でクリシュナを見つめるとへにゃっと笑ってまた瞳を閉じた。
クリシュナ
「…………………。」
クリシュナ
(なんだ…このアサシン…。なんか…脅す気が失せたな…。)
クリシュナは見なかった事にしてベッドに戻った。
つづく