リオまたまた大ピンチ
高い塔のてっぺんで、クリシュナはマントでくるんだリオをすっぽり抱き込んで寝転がっている。
空はリオの瞳のような暁色でとてつもなく美しい。
もうすぐ夜があける。
クリシュナはグッスリ眠るリオをぎゅっと抱きしめて大きなため息をついた。
クリシュナ
(やってしまった…。最後はもう無理矢理…。完全に嫌がってた…。ああ〜〜〜〜〜〜。これはもう嫌われた。)
クリシュナ
(サイアク………。)
その時、美味しそうな香りがどこからか漂って来た。
クリシュナ
(そうだ!朝市が開く頃だ。温かいコーヒーと何か美味いもの!)
クリシュナはそっとリオから離れると塔から飛び降りて積んである柔らかい草の上にダイブした。
クリシュナ
(何がいいかな…。)
空も明るくなり、大勢の人で市場が賑わい始めた。
客が次々に買っていくパンの出店に目が止まった。
その店でクリシュナは丸っこい蜂蜜のマフィン、隣の店でコーヒーを買って塔の上に戻った。
クリシュナ
(い…………いない!嘘だろう!)
リオの姿が見当たらない。
クリシュナは地面に崩れ落ちた。
クリシュナ
(ああ…………逃げられた………もうリオは戻らない。)
クリシュナは朝日を見ながら塔の上で大の字に寝転がった。
………………………………………………
リオは昼になっても帰ってこない。
クリシュナは真昼間から屋台で酒を飲み続けている。
「クリシュナ!何やってんのよ!」
巨体の男がクリシュナの襟首を捕まえて地面に転がした。
クリシュナ
「ああ………これはこれはイェータ殿…。」
イェータ
「酔ってるわね!まったく、リオはどこなの!?」
クリシュナ
「…………。」
イェータはクリシュナの首根っこを掴んで引きずっていった。
そして顔をオアシスの湖にぶち込んだ。
クリシュナ
「ごほっ!」
イェータ
「しっかりしろ!リオはどこだ!」
クリシュナ
「リオは俺から去って行った。」
イェータ
「何があったの…?」
クリシュナ
「………無理矢理抱いた。」
イェータ
「ああ………、それでリオはなんて言ってた?」
クリシュナ
「何も…ただいなくなった。」
イェータは紙切れをクリシュナにおしつけた。
『白い髪の暁の瞳を捉えた。船を手配されたし。』
イェータ
「コデイン教の伝令をとっ捕まえたら、こんなもの持ってたのよ。」
クリシュナが目を見開いた。
イェータ
「ご丁寧に差出人まで書かれてあるわ。議員の一人よ。」
イェータ
「私は行くけど、一緒に来る?」
クリシュナは立ち上がって鋭い眼差しをして頷いた。
クリシュナ
「ああ…!」
………………………………………………
リオは温かい感覚で目が覚めた。
目にカラフルな天井が飛び込んで来た。
体を動かそうとするが手足に力が入らない。
首を動かすと自分が裸なのが見えた。
温かい風呂に入れられて、3人掛かりで体を洗われている。すみずみまで。
髪も丁寧に石鹸で洗われて香油で整えられている。
最後は白いネグリジェのようなものを着せられて硬い祭壇に横たえられた。
リオ
(なんか……、この状況、経験あるっす…。)
リオがぼーっとそんな事を考えていると手首をナイフで切られた。
リオ
「痛っ………。」
自分の手首を伝って血が流れ落ちて行くのがわかる。
黒いローブの人間が持つ小さな瓶にポタポタと入れられている。
リオ
「そんなもの…何に使うんすか…。」
?
「すごく貴重なものだよ。」
紫色のローブの男が近ずいて来てフードを取った。
リオはあちゃあという顔をした。
そいつは昨日の議員の一人だった。
議員
「彼氏とお楽しみのところ申し訳ないねえ。だけど…もう彼氏には会えないよ。君はもう魔王様のものだからね。」
リオ
「クソ野郎…が…。」
議員の男の平手打ちが飛んで来た。
議員
「あんまり私を怒らせるなよ、ガキが。」
そう言ってねっとりとした目をして、リオの体をあちこち撫で始める。
リオ
「ゲス…。変態………。ドブネズミ……。」
議員
「このガキ!」
議員にとって心の奥底にあるキーワードだったようだ、議員はブチギレてリオの首を絞め始めた。
リオはぼーっと考えた。
リオ
(俺、死ぬっすね、これ。)
リオ
(…………クリシュナに会いたいっす。)
リオ
(そっか…俺…クリシュナが好きっす。)
リオ
「ヒューゴホゴホ……。」
議員の手が首から離れてリオの肺に酸素が供給された。
議員
「ああ…危ない…。魔王様のものなのにな…。頭を冷やそう。」
そういうと議員の男は薄暗い祭壇の部屋から出て行った。
小さい部屋にはリオの手首に瓶を当てて血液を集めている男だけが残った。
リオはますます頭がふわりとなり、 目の前が回り始めた。
リオ
(死ぬ前に…一目会いたかったっす…。もっと、もっと一緒に旅して…美味しいもの食べたかったっす…。俺も…好きって……。)
リオの目から一筋涙がこぼれた。
議員
「おやおや、泣いてるのかい?可愛いじゃないか。」
戻ってきた議員の男が頰を撫でて首筋に舌を這わせた。
リオ
「…臭いよ…ドブネズミ。」
議員
「ふっはははは、いいだろう、大人を怒らせたらどうなるか教えてやろうな。殺しはしないよ、だけど、足はいらないよなあ。これからずっと君はただの血液製造機なんだからねえ。」
議員は腰に下げていたサーベルを抜いて振り上げた。
クリシュナとイェータは議員の館に乗り込むと、コデイン教徒達を確実に減らしながら奥に進み地下の部屋にたどり着いた。
入り口に二人の紫ローブが立ちはだかった。
イェータ
「強行突破よ、ここは私に任せて!」
イェータが二人を惹きつけている間にクリシュナは木の扉を蹴って開けた。
リオの上にサーベルを振り上げた議員が目に飛び込んできて、クリシュナは叫びながら走った。
議員はサーベルでクリシュナのブレードを受けた。
血をためていたローブの男は慌てて隠し通路から逃げ去る。
クリシュナと議員はしばらく火花を散らして戦っていたが最後はクリシュナのブレードが議員の首を切り裂いて勝負がついた。
クリシュナは急いでリオに近寄ると血が滴る手首をぎゅっと布で縛る。
リオ
「う…。」
殴られた頰が腫れた痛々しいリオを見てクリシュナは胸が締め付けられた。
クリシュナ
「遅くなってすまん。」
クリシュナはリオをおぶった。
イェータ
「始末したわ、ここを出ましょう。」
イェータが出口に促す。
リオがクリシュナの耳元で囁く。
リオ
「クリシュナ……俺……死ぬ前に…言わないと…。」
クリシュナ
「はあ?死ぬわけないだろ。あれくらいの出血で。」
リオ
「お…れ…クリシュナのこと…好きになったみたいっす…。」
クリシュナの目が見開かれた。
リオ
「死ぬ前に…会えて…よかったっす…。」
クリシュナ
「だから、死なないって…。もう…。」
リオはコテンとクリシュナの肩に首をもたれている。
リオ
「………俺が告白したのに…あんまり…嬉しそうじゃないっすね………。」
クリシュナ
「…………………。」
少し間があって、クリシュナは「イエーーーーーイ!」と雄叫びをあげた。
イェータ
「うるさいわよ!怒」
リオはへにゃっと笑って気を失った。
………………………………………………
クリシュナはリオを抱いたまま馬に乗り、イェータについて行く。
夜のうちにシルダリアを抜け出した一行は一晩中馬を走らせてリゾート地として名高いマーカム海洋共和国にたどり着いた。
イェータ
「さて、ここでお別れよ。」
クリシュナ
「イェータ、本当に…恩にきる…。」
クリシュナは頰を赤らめてイェータの肩を抱いた。
イェータ
「私たちのリオを頼んだわよ。簡単に手放したりしたら許さないわ。」
クリシュナ
「わかった。」
クリシュナは微笑んで頷いた。
イェータ
「私はシルダリアに戻って、ちょっと後始末をしてくるわ。」
イェータは元来た道を戻って行った。
つづく




