おっちょこちょいのアサシン
ネマン導師
「ドラアも送り返されてきたか…。」
ベランダから飛び出していくアサシンを見送って、アサシン教団マスターネマンは大きなため息をついた。
ネマン導師
「まったく…ドラアは最上級のアサシンだぞ…。あの王子はなんの不満があるというのだ。
あと残っているのは…。」
ネマン導師の視線がスイカにかぶりついている小柄なアサシンに向けられた。
そして導師は盛大にため息をついた。
ネマン導師
「リオ!」
リオ
「!は、はい!ただいま!わっ………!」
リオと呼ばれたアサシンの少年は椅子に足を引っ掛け床にダイブした。
短く切ってある真っ白な髪に真っ白な艶やかな肌、真っ白な眉毛に真っ白な長いまつげ、瞳だけは美しい暁のような薄い紫色をしている。
神秘的な色彩に似合う整った顔立ちで非常に美しい。
鍛えられたしなやかな筋肉はついているが、華奢な体型でドレスを着せれば女に見えるだろう。
東方の残虐な性格で高い戦闘能力を持つ少数民族の村から、わざわざアサシン教団が高額で購入した子供であったが頭脳も運動神経も人並み以下という残念な結果であった。
教団内では詐欺の子供と呼ばれている。
夢見るようなホワンとした瞳に見上げられてマスターネマンはドキリとした。
ネマン導師
(こいつ、娼館に売りとばそうか…。)
ネマン導師
「はあ〜お前と言う奴は。」
リオ
「うう………、イタタタ。」
ネマン導師
「おっちょこちょいなアサシンなど聞いたこともない!よくこれまで生きてこられたもんだ。」
実際は他のアサシン達にファンが多く、危うくなると助けられるている事をマスターネマンは知っていた。
リオ
「あはははは、本当に!」
ネマン導師
「お前が笑うな!」
リオは美しい顔をへにゃっと崩して笑った。
ネマン導師
「リオ、仕事だ。エルヴィアの王宮に向かえ。」
リオ
「王宮!?俺がですか?マジで俺でいいんですか?」
リオは目をキラキラさせている。
ネマン導師
「ふ、ふむ…頼んだぞ。」
ネマン導師
(もう…どうでもいいや…。)
…………………………………
リオは早速家に帰ると鼻歌を歌いながら旅の準備を整えた。
アサシン教団本部からはエルヴィア城まで馬で4時間ほどだ。
そこにひとりのアサシンが窓から飛び込んで来た。
先ほどの上級アサシン、ドラアだ。
ドラアは黒いアサシンフードを取った。若く精悍な浅黒い肌、頰に大きな傷がある。
落ち窪んだ鋭い目つきをしている。
リオ
「ドラア先輩!」
ドラア
「リオ…エルヴィアの任務受けたんだな。」
リオ
「はい!もう俺楽しみで楽しみで…!」
リオは本当に嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
そんなリオを見てドラアは目を細めて微笑んでいる。
リオ
「ね、先輩!どっちの装備がいいと思います?
本当はステルス型がいいのかもしれないけど、俺、被弾しやすいからこっちの防御重視の方がいいかなとか………。」
ドラア
「ステルスでいいだろう。」
ドラア
(どうせ俺たちが守るし。)
リオ
「ですよね!じゃあ、じゃあ、これ、持って行っていいと思います?」
リオは薄汚れた変てこな猫のぬいぐるみを見せた。
ドラア
「爆弾を仕込むのか?」
リオ
「違いますよ!俺、これが無いと眠れないんです。」
ドラア
「……………ならば……いいだろう。」
ドラア
(マジかよ〜w)
ドラアは笑いをこらえた。
リオ
「あっざーーーーす!先輩!」
リオはぬいぐるみに紐をくくりつけて背中にからった。
ドラア
「………………………。」
ドラア
(勘弁してくれよ!可愛すぎるだろ!やばいよリオちんw)
ドラア
「ところでリオ、アサシンの掟は覚えているか?」
リオが動きを止めてドラアを凝視した。
リオ
「お…き…て…。」
目を泳がせて冷や汗をかいている。そしてぐしゃっと頭をかいて座り込んだ。さらに床をコロコロ転がり始めた。
リオ
「先輩……何も思い出せません…。マジ…すいません…。馬鹿っす、俺馬鹿っす。」
最後に涙目でドラアを見上げた。
ドラア
「では、これを読んでおけ。」
ドラア
(うはっ…可愛え〜。まあ、俺が作った嘘の掟だから知らなくて当たり前だがな。)
ドラアは小さなパピルスをリオに手渡した。
######################
アサシンの掟
第一条 依頼人に顔を見せるべからず
第二条 依頼人と口を聞くべからず
第三条 依頼人に微笑みかけるべからず
第四条 依頼人と寝るべからず
第五条 依頼人を愛するべからず
######################
ドラア
「掟を破ったものには死、あるのみ。」
リオ
「知らなかった……!」
リオは青ざめて口を開けている。
リオ
「先輩っ!本当にあーーざーっす!
もう俺、なんとお礼をしたらいいか!マジで感謝っす!
先輩って本当に神!」
リオはまたへにゃっと笑った。
ドラアは頰を少し赤らめながらリオの頭をくしゃくしゃ撫でる。
ドラア
(これくらいはやってもいいかな…。)
ドラア
(っ痛!)
窓から飛んできた小さな吹き矢がドラアの肩にチクリと刺さった。
ドラア
(ちいっ……見られてたか。)
リオ
「では、先輩!行ってきます!」
ドラア
「ああ。」
二人はアサシンの祈りのポーズをする。
リオは迷彩っぽいフードを被ると窓から飛び出して行った、が、ガタンゴトンガシャランと派手に音が聞こえた。
ドラアは今度は声を出して笑った。
つづく