008[ドリームランドの入り口2]
熊や猪、野犬が出ても、それなりの対処が出来る様に、
見晴らしの良い場所でキャンプやバーベキューをする今日この頃。
護姉さんのおまけで連れて来て貰った僕が、
裏野ドリームランドのドリームキャッスルのテラスで出会った人達は、
裏野地域の果樹園からの依頼を受けて、
定期的に害獣となった動物の狩猟をしている「マタギ」の人達である。
僕は、マタギな彼等から提供された焼き肉丼。
生まれて初めて食べる紅葉肉と呼ばれる鹿の肉の味に対して、
「ちしゃの森」の時と同様、ボキャブラリー少なく、
『美味しいです!』としか言えないまま、
焼きあがる追加の肉を貪る様に食べ続けていた。
正直、スーパー・コンビニで売っている焼き肉弁当の肉より分厚く、
焼き立てで美味い肉を食べられる機会って言うのは、
僕にとって滅多に無い事なので、存分に堪能させて貰うつもりだ。
更に、ここでは、肉だけでなく、
茸類やキャベツ、南瓜等の野菜を勧められてはいるが…、
今日の僕は、それに手を出さないぞ!
美味い肉があるのに、そっちで腹を満たしてしまっては勿体無い。
こんな意地汚い僕に対して、護姉さんは怒る事も、叱る事も無く、
『美味しい?』『良かったね』と言いながら、
タレや肉汁で汚れた僕の口元を拭い、微笑を浮かべ、
静かに見守ってくれる。
この時、僕は「護姉さんは、何て優しい人なんだろう」と信じていた。
そんな日の夕刻、日が沈み始め、黄昏が周囲を染める頃。
腹を満たした僕は、護姉さんに誘われ、シエンさんの友達と、
ドリームキャッスルの裏手にある子供向けアトラクションへと、
遊びに行く事になった。
まだ、今も、遊べる遊具があるらしい。
で、初めに向かったのは「アクアツアー」と言うアトラクション。
『遊園地、営業当時から、
「謎の生き物の影を見た!」と言う噂の絶えないアトラクションだよ!
今では乗れる船が無くて、救命ボート一艘しかないけど、
「謎の生き物の影を見た!」と言うのは今も健在!
君も、どう?ミステリー体験の第一歩に踏み出してみないか?』と、
シエンさんのグループに居たネズさんに誘われ、
昼間、萵苣の木の人工林の先にて見たモノに似た光景。水路と、
朽ち掛けた造形物、半分転覆した乗り物を目の当たりにした僕は…、
昼間に感じた恐怖を思い出してしまい……。、
『ごめんなさい。泳ぎに自信がないので、
誘うならせめて、昼間の明るい時間にして下さい。』と断った。
次に向かった先にあったのは、
シエンさんグループのカメダさんオススメの「小さな機関車」。
これは蒸気機関車に見せ掛けたディーゼル機関車で、保管状態が良く、
ガソリンを入れれば普通に動くらしいのだが…、
『すみません。こんなに暗くなってから乗って、
何を楽しむんですか?』と言う僕の素直な意見で試乗は御流れ……。
ゴーカートも同じ理由で断ってしまい。
その次は、これまたシエンさんグループの人。
トードーさんプレゼンツ。
『即死の覚悟でなら、搭乗可能な回転ブランコ!』は…、
冗談で紹介したらしいが……。
「コーヒーカップ」と「メリーゴーランド」は、比較的安全で、
集まったメンバーが持ち寄った発電機に寄り、
電源確保できている為にどちらも動かす事が可能なのだと言う。
で…、ココでやっと僕は気付いたのだが……。
どうやら今回、初めて参加した僕の為に急遽、皆さん、
色々と準備してくれたらしい。
僕は、僕の為に準備された全てを断るのは忍びなくて、
『もう、6年生だから、乗るのは恥ずかしいけど、
このメリーゴーランドが動くのを見せて欲しいです。』と言った。
トードーさんは嫌な顔をする事無く、笑顔を見せて、
誰も乗っていないメリーゴーランドに、ふわりと光を灯し、
『こいつを選んでくれてありがとう』と言って、
アコーディオンやパイプオルガンが奏でる旋律を綺麗に寂しく響かせ、
キラキラ綺麗に輝く、メリーゴーランドを動かし始める。
そして一番最初、軽く軋む音をさせたメリーゴーランドは、
曲に合わせて白馬達を上下させ、ゆっくりと廻り出した。
物心付いてから、一度も遊園地に行った事がなかった僕は、
顔を綻ばせ『本当に動いた!』と大声を出し、
自分が思っていたより楽しくなって、大喜びし、最初の内、
メリーゴーランドが廻るのに合わせてメリーゴーランドの周囲を走り、
気付けば追い越し、
一番効率の悪い方法で、メリーゴーランドを飾る造形物を見て廻る。
その場に居た4人は、暫く唖然とし、
僕のお母さんが死んでいる事を知っていた護姉さんは、
僕と僕のお父さんが住む家に引っ越した当初、
リビングに飾られていたメリーゴーランドの写真を思い出してか?
目尻に涙を滲ませ、僕を遠くから見守り。
僕が、そのメリーゴーランドではしゃぐ理由となる事柄を周囲に、
こっそり語ったらしい。
そして、メリーゴーランドが止まってから僕が息を切らし、
トードーさんに対して、
『写真の中で、母さんと一緒に乗って写ってたメリーゴーランドが、
動くのを見せてくれてありがとう!』と本気で御礼を言うと、
その話を又聞きしたらしいトードーさんは、少し戸惑いながら、
『どういたしまして』と言って後ろを向き、目頭を押さえていた。
僕は何となく、しんみりとした空気を感じつつ、園内地図を眺め、
観覧車から真南に言った場所にある「ミラーハウス」と、
その更に南側にある「お化け屋敷」の表記を見付け、指示し、
『ミラーハウスは徒歩だよね?入れるかな?
後、このお化け屋敷って、動画にアップされてたやつだよね?
行ってみたいな』と言ってみる。
すると、全員が僕の方に顔を向けた。その中でも、
曲がりなりにも医者であるシエンさんが、特に僕を心配した様子で、
『元気に、危な気なく走り回ってたとは言え…、
昼に後頭部を強打してた子に、許可し辛いチョイスだね…、
大丈夫そうだけど……。』と、複雑そうな表情をしていた。
僕は、そこに隠された意図に気付く事無く、
『うん!僕、大丈夫だよ!』と言って、
動きそうにない子供向けの機械仕掛けのアトラクションを避け、
ミラーハウスへと向かって一直線に歩き出す。
周囲は大分暗くなってきていた。護姉さんが僕を追い掛けて来て、
『ミラーハウスに入るなら必要になるから』と、
懐中電灯を持って来てくれ、一緒にミラーハウスへ行き。
入口付近の窓口の窓を開け、手を伸ばして鍵を取り出し、
ミラーハウスの入口の扉も開けてくれ『いってらっしゃい』と、
僕一人をミラーハウスの中へと送り出したのだった。